麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋

「まずはゆっくり休め、俺は軍に戻る」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
 凛子は部屋を去る悠一朗に深々と頭を下げた。
 
 あやかしから人々を守るために、帝都は壁に囲まれている。
 地方都市との行き来のために、何ヶ所か門が設置され、その門には護符が貼られている。
 凛子が住んでいたのは「西門」と呼ばれる門の近く。
 帝都の中では樹海に一番近い門だ。
 
 護符の価値に気づいた彼、悠一朗は、他の門もあの護符にしたいと思ったのだろう。
 私の力はあらゆる邪気や災厄を祓う、最強の守護・浄化の力を持つ「麒麟」の力だから。
 
 隙を見て、この屋敷から逃げ出さなきゃ。
 正体を知られれば、一族を脅かした権力者たちのような者が現れるだろう。
 母は病死だったが、父も叔父もみんな人に捕らえられて亡くなったのだから——。
 
 凛子は静かに部屋を抜け出した。
 広大な屋敷の廊下は静まり返り、この部屋には女中たちも立ち寄れないのだと察した。
 角を曲がると、扉はあるが残念ながら廊下は行き止まり。
 引き返そうと思った凛子は、壁に飾られた絵に目を見開いた。
 
「……これって」
 薄暗い森、赤い鳥居、そして顔が描かれていない金色の髪の女性。
 
 これ、私……?
 富士の樹海、古びた鳥居の前、光を散らす黄金の髪。
 十五年前に一度会っただけの自分の姿を描いたってこと?
 
「この先の部屋は、立ち入り禁止でございます」
「あっ、す、すみません」
 執事に声を掛けられた凛子はビクッと肩を揺らす。
 
「あの、迷ってしまって……」
 我ながら苦しい言い訳だ。
 執事は凛子を責めることなく、絵に視線を送った。
 
「この絵の女性は、病気だった悠一朗様を救ってくださった方で、悠一朗様の想い人でございます」
「そ……うですか」
「ですので、勘違いなさらぬようお気を付けください」
 ……勘違い?
 って、私があの人に優しくされて絆されるってこと?