麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋

「隊長、急に何を言ってるんですか!」
「田沼、この護符を今すぐ西門に設置」
 戸惑う田沼を、隊長と呼ばれた男性はジロッと睨む。
 
「あと、車を回せ」
 氷のように冷たい眼光で射抜かれた田沼は「ハッ!」と直立不動で敬礼すると、護符を大事そうに抱えて逃げるように店を飛び出していった。
 
「すぐに荷造りを」
「……行くとは申しておりません」
 凛子は隊長にはっきりと言い返す。
 急に押しかけてきて命令するなんて理不尽にも程がある。
 いくら軍人相手とはいえ、はいそうですかと従うわけにはいかない。
 
「私にはこの店があります。他の方に頼んでください」
「断る権利が自分にあると思っているのか?」
 隊長は表情一つ変えず、ゆっくりと凛子との距離を詰めてきた。
 軍靴の重い音が狭い店内に響く。
 隊長はカウンターのフチに大きな手をかけると、凛子の顔を覗き込むように低く囁いた。

「先ほどの護符の霊力は、市井の護符師が扱える代物ではない。おまえは何者だ?」
「……ただの護符師です」
「ならば尚更放っておけんな。国宝級の結界を秒で描き上げる正体不明の女を、野放しにするわけにはいかない」 
 この店を守るため、あやかしが来ないように自分の血を混ぜたのが完全に裏目に出ている。
 まさか霊力がわかる軍人がいるなんて。

「軍の取調室で数日間じっくり問い詰められるか、俺の屋敷で専属護符師として優雅に暮らすか。選ぶといい」
「それ、選択肢になっていません!」
「そうだな。どちらにせよ、おまえに拒否権はない」
 隊長はそう吐き捨てると、戸棚から勝手に風呂敷を取り出し、筆や朱肉を手際よく包み始めた。
 樹海で採った薬草を乾燥させたものが入った壺まで、軽々と男性は抱える。

「勝手に触らないでください!」
「荷造りは終わりだ。行くぞ」
「行きませんってば!」
 男性の大きな指が、凛子の手首をすっと掴む。
 彼の手のひらから伝わってきた熱に、凛子の胸が大きく跳ねた。 
 
 ……あれ? 私の霊力?
 どうしてこの人から?