麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

「……すまない。怯えさせるつもりはなかった」
 凛子の震えを感じ取った悠一朗は、それ以上追及するのをやめ、困ったように苦笑して手を緩めた。
 
「おまえが何者で、どんな秘密を抱えていようと、俺を助けようとしてくれていることに変わりはないのだろう?」
「悠一朗様……」
「おまえが俺のために力を使ってくれているのなら、俺は全力でおまえを守るだけだ。……軍にも、参謀総長にも、誰にも邪魔はさせない」
 悠一朗は凛子の頬に触れながら、まるで愛おしくてたまらないという顔で微笑んだ。
 
 私、あなたに巡り逢えて本当によかった……。
 
 書斎を掃除し、食事を運び、寝室を掃除し、夜はコーヒーを淹れて、「おやすみなさい」と部屋を離れる。
 自分の部屋へ戻り、布団に潜り込んだ凛子はまだ熱を持っている頬をそっと両手で包み込んだ。
 昼間、書斎で悠一朗に包み込まれた身体の感触。
 耳元で囁かれた「全力でおまえを守る」という情熱的な言葉。
 胸を焦がすような温もりに包まれながら凛子はゆっくりと目を閉じる。

「……え?」
 静寂に包まれた屋敷に、微かな軋み音が響いた。
 凛子が屋敷のあちこちに貼ってもらった「悪意を跳ね返す護符」。
 その結界が、外からの凄まじい悪意で不気味に震えているのだ。

「誰かが屋敷に入ろうとしている……?」
 ハッと跳ね起きた凛子は、羽織を引っかけて部屋を飛び出した。
 廊下を急ぎ、薄暗い玄関へと差し掛かったところで、同じように刀を携えて部屋を出てきた悠一朗とバッタリ鉢合わせる。

「凛子……? 」
「悠一朗様も?」
 軍服やシャツではなく着物を着崩した悠一朗の姿に、凛子の心臓が跳ねる。
 そんな場合じゃないのに!
 
「異様な気配がするな。外を見てくる。おまえはここにいろ」
「私も一緒に」
「ダメだ」
 悠一朗は重い玄関の扉をそっと開き、一歩踏み出す。
 闇の中からシュッと風を裂く音が響き、刺客の刃が悠一朗の喉元へ向けて放たれた。