麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

「実は、この水が特別な水なんです」
 冗談めかして凛子がバケツの水を指差すと、悠一朗は笑いながら立ち上がり、バケツの中を覗いた。
 
「……本当に特別な水か?」
「えっ?」
「護符で浄化、だったか? この水も?」
「あっ、少し違いますが、似たような感じ……です」
 なんでわかったの?
 偶然?
 
「霊力を感じる」
 そういえば、初めて会った時も悠一朗様は護符の力を感じ取っていた。
 背中に冷や汗が伝うのを感じながら、手に持った雑巾をギュッと握り締める。
 悠一朗はバケツの水面から視線を上げると、至近距離で凛子の表情をじっと見つめた。
 
「15年前、富士の樹海で俺を救ってくれた『あの方』の力も……おまえと同じ、森のような爽やかで温かい霊力だった」
「……っ!」
 悠一朗の口から直接語られた「初恋の君」の記憶。
 15年前の霊力と、今の自分の霊力を重ね合わせているなんて思いもしなかった。
 
 気づかれてる……?
 ううん。あの時の私は金の髪で、今の私は黒髪のただの女中……。
 きっと大丈夫。でも、もし……。
 
「凛子。おまえは一体……」
 正体がバレてしまう恐怖と、彼に真実を知ってほしいという切ない願望が交錯した凛子は思わず後ずさりする。
 だが、悠一朗の大きな手に捉えられた凛子は、その場から動くことができなくなった。