麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

 悠一朗が低く言い放った瞬間、殺気が門前に膨れ上がった。
 数々の凄惨なあやかしを討伐してきた最前線の将校としての圧倒的な覇気に、銃を構えていた兵士たちの手が震え、次々と後ずさりを始める。
 
 胸のポケットにある護符が、微かに温かい。
 ……凛子、おまえは絶対に奴らに渡さない。
 悠一朗は胸に手を当て、冷酷な瞳で密告者を見下ろした。
 
「参謀総長様、本当にここには」
「黙れ!」
 取り乱して叫ぶ元女中を、悠一朗は一喝する。
 
「では、おまえはその新しい女中が護符を書いているところを見たことがあるのか?」
「そ、それは」
「……どうなのだ?」
「い、いえ……」
 佐伯にも尋ねられた元女中は青ざめる。
 
「見ていないだと? 一体どういうことだ」
 佐伯は苦々しく眉をひそめた。
 
「佐伯参謀総長。妄言で軍を利用したその女は即刻捕縛し処罰されるべきではないのか? それとも参謀本部は、我が烏丸邸に害をなした罪人を匿うおつもりか」
 参謀本部の面目と、不確定な密告。
 悠一朗の隙のない論破と圧倒的な威圧感に手出しができなくなった佐伯参謀総長は、深く溜息を漏らすと、車へ足を向けた。
 
「……この女は然るべき処罰をする。朝から騒がせた。烏丸隊長は本日休暇とする」
 黒塗りの車と軍人たちが去り、静けさが戻った屋敷。
 悠一朗は胸ポケットに手を当て凛子の護符の温もりを確かめるようにギュッと握り締めると、屋敷へと引き返した。

 
 重い玄関扉が開き、ホッとした顔の悠一朗が見えた瞬間、不安そうに身を寄せ合っていた使用人たちはワッと湧き立った。

「無事でよかった……」
 凛子は涙目で悠一朗を見つめる。

「吉雄、届けてくれて心強かった」
「滅相もございません」
「凛子、この屋敷のみんなを守ろうとしてくれたのだな」
 悠一朗は玄関扉に貼られた護符に気づき、目を細める。
 
「悪意を、銃も跳ね返します」 
「それはすごいな」
 頼もしいなと外套を吉雄に手渡しながら、悠一朗は笑った。