「ここは冷える。早く部屋へ行こう」
「はい。ありがとうございます、悠一朗様」
手首に残る熱い余韻がますます凛子を切なくさせる。
夜の静かな廊下を進みながら、凛子は肩から掛けられた外套をしっかりと押さえた。
◇
凛子の隣を歩きながら、悠一朗は右手をグッと握った。
先ほど掴んだ凛子の小さな手首の感触が、まだ手のひらに熱く残っている。
霊力がじんわりと癒やされるような不思議な感覚だ。
なぜ手放したくないなどと思ってしまった……?
15年間、あの富士の樹海で自分を救ってくれた『金の髪の恩人』だけに操を立てると誓ってきたはずだった。
それなのに、凛子が儚げに微笑んだ瞬間、心臓が引きちぎられるような焦燥感に襲われたのだ。
俺はあの方を裏切り、この黒髪の娘に心移りしているというのか……?
己の不誠実さに酷い罪悪感を抱きながらも、悠一朗の視線は無意識に凛子の華奢な姿を追いかけてしまう。
自分の外套を羽織り、小さな肩をすぼめて歩くその姿が、たまらなく愛おしく、誰の目にも触れさせたくないという猛烈な独占欲が沸き上がった。
「送っていただき、ありがとうございました」
使用人部屋の前にたどり着いた凛子は、深々と頭を下げる。
外套を返された悠一朗は、凛子のわずかなぬくもりを確かめるかのようにしっかりと抱えた。
「今夜は暖かくして寝ろ」
「はい。悠一朗様もお風邪など召されませぬよう……おやすみなさいませ」
凛子が扉を開け、部屋の中へと姿を消す。
廊下に一人取り残された悠一朗は、閉ざされた扉をじっと見つめた。
15年前の初恋の記憶と、目の前の凛子への抑えきれない情愛。
「手が、離せなくなりそうだ」
今日は眠れそうにないと、悠一朗は苦笑しながら寝室へと引き返した。
それからの日々は、悠一朗にとって戸惑いの連続だった。
日々殺伐としたあやかし討伐と軍の政治に追われ、疲弊して屋敷へ帰ると凛子が夕食を運んでくる。
最初は料理長が作った料理をただ運んでくるだけだったはずだ。
それなのにいつからか、凛子が作った小さな一品が添えられるようになった。
「……うまいな」
「お口に合ってよかったです。いつもお忙しそうだから、少しでもお体が楽になればと思って」
凛子が作る料理は一口食べるだけで体の奥から冷えが吹き飛ぶような、どこか懐かしく優しい味がする。
すれ違う瞬間の森のような爽やかな香り、茶を差し出す時の白く小さな手、そして自分を見つめる素直な瞳。
そのひとつひとつが、悠一朗の理性を激しく揺さぶった。
「はい。ありがとうございます、悠一朗様」
手首に残る熱い余韻がますます凛子を切なくさせる。
夜の静かな廊下を進みながら、凛子は肩から掛けられた外套をしっかりと押さえた。
◇
凛子の隣を歩きながら、悠一朗は右手をグッと握った。
先ほど掴んだ凛子の小さな手首の感触が、まだ手のひらに熱く残っている。
霊力がじんわりと癒やされるような不思議な感覚だ。
なぜ手放したくないなどと思ってしまった……?
15年間、あの富士の樹海で自分を救ってくれた『金の髪の恩人』だけに操を立てると誓ってきたはずだった。
それなのに、凛子が儚げに微笑んだ瞬間、心臓が引きちぎられるような焦燥感に襲われたのだ。
俺はあの方を裏切り、この黒髪の娘に心移りしているというのか……?
己の不誠実さに酷い罪悪感を抱きながらも、悠一朗の視線は無意識に凛子の華奢な姿を追いかけてしまう。
自分の外套を羽織り、小さな肩をすぼめて歩くその姿が、たまらなく愛おしく、誰の目にも触れさせたくないという猛烈な独占欲が沸き上がった。
「送っていただき、ありがとうございました」
使用人部屋の前にたどり着いた凛子は、深々と頭を下げる。
外套を返された悠一朗は、凛子のわずかなぬくもりを確かめるかのようにしっかりと抱えた。
「今夜は暖かくして寝ろ」
「はい。悠一朗様もお風邪など召されませぬよう……おやすみなさいませ」
凛子が扉を開け、部屋の中へと姿を消す。
廊下に一人取り残された悠一朗は、閉ざされた扉をじっと見つめた。
15年前の初恋の記憶と、目の前の凛子への抑えきれない情愛。
「手が、離せなくなりそうだ」
今日は眠れそうにないと、悠一朗は苦笑しながら寝室へと引き返した。
それからの日々は、悠一朗にとって戸惑いの連続だった。
日々殺伐としたあやかし討伐と軍の政治に追われ、疲弊して屋敷へ帰ると凛子が夕食を運んでくる。
最初は料理長が作った料理をただ運んでくるだけだったはずだ。
それなのにいつからか、凛子が作った小さな一品が添えられるようになった。
「……うまいな」
「お口に合ってよかったです。いつもお忙しそうだから、少しでもお体が楽になればと思って」
凛子が作る料理は一口食べるだけで体の奥から冷えが吹き飛ぶような、どこか懐かしく優しい味がする。
すれ違う瞬間の森のような爽やかな香り、茶を差し出す時の白く小さな手、そして自分を見つめる素直な瞳。
そのひとつひとつが、悠一朗の理性を激しく揺さぶった。
