麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋

 春の訪れを告げる風が吹き抜ける帝都は、文明開化の華やかさと、闇に潜む怪異が同居する魅惑の街となっていた。
 ガス灯が妖しく街路を照らす帝都の外れ。
 襲いかかってきた身の丈ほどもある『あやかし』を、いとも簡単に切り伏せた帝国陸軍・特務部隊の隊長、烏丸悠一朗は、愛刀をスッと鞘に収めた。
 
 帝都にあやかしが侵入しないように、各所に貼られた護符。
 悠一朗は不機嫌な顔で、破れた護符をベリッと剥がした。

「……もっと強力な護符はないのか」
 今の悠一朗には、かつて死に瀕していた弱々しい面影はどこにもない。
 氷のように冷たく、誰にも心を許さない冷徹将校。
 それが誰もが知る悠一朗の姿だった。

 十五年前、病のため親に捨てられた悠一朗は、富士の樹海で奇跡的に病を克服した。
 だが、その理由も自分を救った者の顔も覚えていない。
 覚えているのは、ただ胸を焦がすような「金の髪」だけ。
 
 樹海の近くの民家で目を覚ました悠一朗は、そのままその家の養子になり烏丸の姓をもらった。
 まさかそんな民家にいた人が、休暇中だった帝国陸軍・特務部隊の初代隊長だとは知らずに。
 
 あの鳥居は樹海のどの辺だったのかも思い出せない。
 俺の命を救った金の髪の人を長期休暇のたびに探しているが、見つからないまま十五年も経ってしまった。

「隊長、この近くに護符屋があるそうです」
「こんな街はずれじゃ大した効果はないだろうが、破れた護符よりマシか」
 軍お抱えの護符屋に書いてもらうまでの繋ぎになればいいかと、悠一朗は部下の案内で護符屋へと向かった。
 
    ◇ 

 帝都の外れにある小さな護符屋は、一週間に一人でも客が来れば御の字の店だった。
 ここは亡き母が残してくれた店。
 いつか一人になるであろう凛子が、人に紛れて生きていくために用意してくれた小さな店だ。
 
 樹海の薬草を煎じた特殊な漆黒の染料を、凛子は慣れた手つきで髪に刷り込んでいく。
 金の髪が黒髪に染まり、どこにでもいそうな町娘になった凛子は軒先にのれんを掲げ、店を開けた。