麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

 ふわりと、懐かしい森の匂いがした気がした。
 固く冷たい蔵の床ではなく驚くほど柔らかい絹の布団の感触に、凛子はゆっくりと目を開ける。
 
「気がついたか」 
 枕元から聞こえた低く掠れた声にハッとした凛子が声の主を探すと、そこにはシャツの袖を捲り上げた悠一朗が椅子に腰掛けていた。
 
「悠一朗様……? え? ここは?」 
「俺の部屋だ。おまえの体温が下がっていたから、暖炉のあるこの部屋へ運ばせた」
「も、申し訳ありません!」
 身体を起こそうとした凛子を、悠一朗の大きな手が制する。
 
「まだ顔色が悪い」
「あ……あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「謝るべきは俺だ」
 悠一朗はぎゅっと拳を握り締め、どこか苦しそうに目を伏せた。
 
「おまえを特務部隊の都合で引きずり込み、屋敷の管理も怠った。あの女中は二度とおまえの前に現れないよう処罰した」
「処罰?」
 って、どうなったのか気になるけれど、聞いてもいいのかな。
 そんなこと使用人にいちいち教えたりしないかな。
 
「……すまなかった」
 私のような平民にも謝ってくださるなんて。
 強引だけれど、誠実で不器用な方なんだわ。
 
「助けてくださって、ありがとうございます」
 悠一朗は返事をせず、じっと凛子の顔を見つめる。
 その視線の強さに、凛子は思わず頬が熱くなった。
 
「……凛子」
「は、はい」
「蔵で意識を失う間際、俺を兄と呼んだな? あれはどういう意味だ」
「えっ……?」
 まさか……『お兄ちゃん』って言っちゃったの!?

「あ、えっと、昔住んでいた近所のお兄さんに、悠一朗様が少し似ていたので、混乱してうわ言を……!」
 必死で取り繕う凛子を、悠一朗は探るような目で見つめる。
 悠一朗はふっと小さく吐息を漏らすと、静かに立ち上がった。
 
「……まぁいい、今は信じよう」
 悠一朗は水をグラスに注ぎ、凛子に飲ませてくれる。
 面倒見がよすぎる悠一朗に凛子の心臓が小さく跳ねた。