「気難しい方ですね」
思わず漏れてしまった本音に凛子は慌てて口を手で押さえる。
「ふふっ、そうね。でもお優しい方よ」
文乃はふっと笑うと、手をパンパンと叩き「さあ、持ち場に戻って」と女中たちに指示を飛ばす。
「凛子さん、寝室の掃除の仕方を教えるわ」
「はい、お願いします」
文乃に教わった寝室の掃除も、特に変わったこともなく普通の掃除だった。
ベッドのシーツを変えたり、拭き掃除や掃き掃除、カーテンを綺麗に整えたり、特別なことはしていないように思えた。
どうして他の人ではダメなのだろう?
「これでここは終わり。午後は書斎をお願いね」
「はい。ありがとうございます」
午後も特に変わったこともなく、教わった通りに掃除を終えた凛子は、1階の廊下の奥にある掃除道具入れに片付ける。
「あ、凛子さんだったかしら。今って手は空いている?」
「はい、大丈夫です」
いつもいろいろ優しく教えてくれる素朴な菊代とは全然違うタイプの、派手な女中に凛子は少し驚いた。
こんなに真っ赤な口紅をする女中さんもいるのね。
髪型もなんだかおしゃれだわ。
もしかしてそれなりに名家のお生まれなのかしら。
「ちょっと手伝ってほしいの。蔵に行灯の予備油を取りに行きたいのよ」
「蔵、ですか?」
「そうよ。早くしないと日が落ちちゃうわ」
派手な女中は冷たい笑みを浮かべながら、凛子の背中を強引に押す。
屋敷の北側、手入れの行き届いていない薄暗い雑木林の奥にある古い土蔵へと向かった凛子は、こんな場所に予備油が? と首を傾げた。
「この中よ。右の奥の棚にあるはずだから、取って来て頂戴」
あそこよと派手な女中は指を差す。
「ほら、早く。私はここで扉を押さえているから」
「あ、はい」
蔵の中は埃っぽく、もう数年は誰も足を踏み入れていないのではないかと凛子は思った。
歩くたびに足元はギシギシと鳴り、だんだん中は暗くなる。
「あの、もっと奥ですか?」
振り返った瞬間、重厚な音が響き、視界は途端に真っ暗になった。
「えっ? あの!」
カチャリと外から重い南京錠が施錠される金属音が聞こえてくる。
閉じ込められた!?
嘘でしょ!
「あ、開けてください!」
「新入りのくせに悠一朗様に色目を使うなんて」
女中の嘲笑う声が遠ざかっていく。
色目を使った覚えはないが、特別扱いを面白く思わない女中もいたということだ。
そうか……そうよね。
ずっとここで働いていた人からすれば、怒るのは当然かもしれない。
だとしても蔵に閉じめるのはよくないけれど。
だんだん暗闇に目が慣れて来た凛子は、ゆっくりと扉の方へ戻る。
日暮れとともに蔵の中の気温は急速に下がり、薄着の凛子の肌を刺すような寒さが襲いかかった。
思わず漏れてしまった本音に凛子は慌てて口を手で押さえる。
「ふふっ、そうね。でもお優しい方よ」
文乃はふっと笑うと、手をパンパンと叩き「さあ、持ち場に戻って」と女中たちに指示を飛ばす。
「凛子さん、寝室の掃除の仕方を教えるわ」
「はい、お願いします」
文乃に教わった寝室の掃除も、特に変わったこともなく普通の掃除だった。
ベッドのシーツを変えたり、拭き掃除や掃き掃除、カーテンを綺麗に整えたり、特別なことはしていないように思えた。
どうして他の人ではダメなのだろう?
「これでここは終わり。午後は書斎をお願いね」
「はい。ありがとうございます」
午後も特に変わったこともなく、教わった通りに掃除を終えた凛子は、1階の廊下の奥にある掃除道具入れに片付ける。
「あ、凛子さんだったかしら。今って手は空いている?」
「はい、大丈夫です」
いつもいろいろ優しく教えてくれる素朴な菊代とは全然違うタイプの、派手な女中に凛子は少し驚いた。
こんなに真っ赤な口紅をする女中さんもいるのね。
髪型もなんだかおしゃれだわ。
もしかしてそれなりに名家のお生まれなのかしら。
「ちょっと手伝ってほしいの。蔵に行灯の予備油を取りに行きたいのよ」
「蔵、ですか?」
「そうよ。早くしないと日が落ちちゃうわ」
派手な女中は冷たい笑みを浮かべながら、凛子の背中を強引に押す。
屋敷の北側、手入れの行き届いていない薄暗い雑木林の奥にある古い土蔵へと向かった凛子は、こんな場所に予備油が? と首を傾げた。
「この中よ。右の奥の棚にあるはずだから、取って来て頂戴」
あそこよと派手な女中は指を差す。
「ほら、早く。私はここで扉を押さえているから」
「あ、はい」
蔵の中は埃っぽく、もう数年は誰も足を踏み入れていないのではないかと凛子は思った。
歩くたびに足元はギシギシと鳴り、だんだん中は暗くなる。
「あの、もっと奥ですか?」
振り返った瞬間、重厚な音が響き、視界は途端に真っ暗になった。
「えっ? あの!」
カチャリと外から重い南京錠が施錠される金属音が聞こえてくる。
閉じ込められた!?
嘘でしょ!
「あ、開けてください!」
「新入りのくせに悠一朗様に色目を使うなんて」
女中の嘲笑う声が遠ざかっていく。
色目を使った覚えはないが、特別扱いを面白く思わない女中もいたということだ。
そうか……そうよね。
ずっとここで働いていた人からすれば、怒るのは当然かもしれない。
だとしても蔵に閉じめるのはよくないけれど。
だんだん暗闇に目が慣れて来た凛子は、ゆっくりと扉の方へ戻る。
日暮れとともに蔵の中の気温は急速に下がり、薄着の凛子の肌を刺すような寒さが襲いかかった。
