麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

 女中としての生活が始まって数日。
 支給された紺色の女中服に白いエプロンを身にまとった凛子は、少しずつ手伝わせてもらえるようになった。
 コーヒーは一人で淹れられるようになったし、洗濯も菊代に教わった。
 悠一朗様の下着の洗濯は争奪戦らしく、凛子はシーツを洗って干したが、シーツは大きくて干すのが大変だからみんな嫌なのだろうか?
 下着の方が恥ずかしくて嫌だけれど。
 
「掃除道具は1階の奥のここにあって……」
「菊代さん、ここの掃除道具はどの部屋でも使ってもいいの?」
「あっ、左側が悠一朗様のお部屋専用なので、右側ならどれでも大丈夫ですよ」
 なるほど。悠一朗様のお部屋用を新しくすると、そのほかの部屋にお古が回ってくるみたいな感じね。
 
 菊代と一緒に廊下の掃除をしていると、あっという間に夕方に。
 夜は悠一朗様にコーヒーを淹れたら一日の仕事が終わり。
 あとは自由時間なのも嬉しい。
 根元だけ髪を黒く染めて、みんながいない時間に黒い染料が落ちないよう細心の注意を払いながら湯あみをして、自由に読んでいいと言われた本を借りて読むのが、私のささやかな楽しみになった。
 
 翌日、凛子が任命されたのは窓ふきだった。
 
「お屋敷が大きいと掃除も大変だわ」
 このお屋敷、とっても立派で綺麗だけど、なんだか少し空気が重たいのよね。

 帝都は人が多く、あやかしの邪気や人々の欲望が渦巻いている。
 連日のあやかし討伐で持ち帰られた怪異の残り香や、過酷な公務の圧迫感が充満しているのだろう。
 樹海に比べて、ここは息苦しい。
 
「せめて窓ガラスくらいピカピカにして、お日様の光をたくさん入れたいわ」 
 凛子はバケツの水に、持ってきた樹海の薬草をほんの少し溶かし、雑巾にごくわずかな霊力を込めた。
 小さな脚立に乗り、雑巾で窓を拭くと太陽の光が差し込んでいく。
 
「ふふっ、綺麗になってきた」
 やっぱりお日様の光はいいわね。
 心が軽くなる気がする。
 調子に乗って少し背伸びをし、窓枠の一番高いところへ手を伸ばした凛子は、しまったと焦る。
 
「あっ……!」
 グラリと脚立の足が揺らぎ、凛子の身体は宙に浮いた。