とある少女の物語

ピーッ、とホイッスルの音が体育館に響く。

……そうだ。今は部活中だった。

部活といっても、事務所から「ケガをするようなことはしないように」と言われているため、
私は男子バスケ部のマネージャーをしている。

本当は、美術部とか写真部とか、絶対に安全な部活にするように言われていた。

けれど、運動したいという気持ちを抑える代わりに、マネージャーなら……と、しぶしぶ了承を得たのだ。


「集合ー!」

先生の掛け声とともに、部員たちが集まってくる。

話が終わり、十分間の休憩に入ると、みんなそれぞれ自由に過ごし始めた。

シュート練習をする人がいたり、友達と談笑する人がいたり。

私は、ドリンクやタオルを欲しがっている人に配った。

笑顔と「お疲れさま」を忘れずに。

そうすると、決まってみんなが笑顔になる。


「乃愛ちゃん、ありがとー! 元気出るわ」

「やっぱアイドルいると、癒やされるー」


そんな言葉が飛び交う。

私は控えめに笑って、「そんなことないですよー」と受け流す。

ここでもし、私が「うれしいです」なんて言ったら、今度はどんな噂が流れるんだろう。

そんなことを考えながら。

……私も、外の空気を吸ってこようかな。


「外の空気、吸ってきます」


そう言い残して、体育館の外へ出た。

新鮮な空気が肺いっぱいに入ってくる。

なんだか、胸の中でもやもやしていた気持ちまで、全部なくなってしまうようだ。


「……なくならないんだけどね」


自嘲気味につぶやいた、そのとき。

「なにがなくならないの?」


「へっ?」


びっくりした。

まさか先客がいたなんて。恥ずかしい。

しかも、この人って……。

「神谷、先輩?」


神谷碧。


うちの学校のバスケ部を引っ張る若きエース。

三年生が引退したら、部長はこの人になるだろうと言われている。

「そうだけど。で、なにがなくならないの?」

まずい。しっかり聞かれていた。

とりあえず、こういうときは……。

「あ、あー、た、体重ですよ、体重! 最近、太っちゃったなーって」

あはは、と笑ってみせる。

先輩は、私をじっと見つめた。

……バレた、か?


「ふーん」


私の焦る気持ちとは裏腹に、先輩は間の抜けた返事をした。

バレて、ない……?

とりあえず、切り抜けられたかな。

「じゃ、じゃあ、私、行きますね! 先輩、次の試合は休憩でしたよね? 
じゃあ、まだそこで休んでてください。それじゃあ――」

くるりと背を向けて歩き出す。

すると。

「辛いときは、吐いちゃったほうが楽だよねー」

「……え?」

思わず振り返った。

先輩は、何事もなかったかのように寝転がっていた。

「ひとりごと」

そう言った先輩の声は、独り言にしては少し大きかった。

……わざと、なのかな。

そんなことを思ってしまう。

でも、なぜか心がぽかぽかしてきて――。

「そうですね」

私は微笑んで、再び歩き出した。

今日なら、誰にどんな噂を流されようが、強くいられる。

そんな気がした。