とある少女の物語

「ちょ、ちょっと、休憩……」

「えー、もう? まだやろーよー!」

「ちょっと絵里、澪ちゃん、今日始めたばっかりだよ?」

体感二時間。実際には、まだ二十分。

私はへとへとに疲れていた。

私に声をかけてくれた絵里ちゃんは、人懐っこくて、誰とでもすぐに打ち解けられる子なんだな、と思った。

「もっと頑張らないと! 湊先輩みたく、バシバシ打てるようになりたいの!」


湊先輩。


さっきの大きな音もそうだったけど、あの人はそんなにすごいのだろうか。

そう思って聞いてみると、

「すごいよ!! 湊先輩は、出場した地区大会は全部優勝してるし、高体連でも県大会への出場が決まったんだよ!」

「そうなんだ。すごいんだね」

私が笑ってそう返すと、絵里ちゃんは「それだけじゃないよ!」と身を乗り出した。

「先輩は、次の部長になることも決まってるんだよ! 普段はけだるい雰囲気をまとってるけど、バドのことになると、目の色が変わるんだよ~!」

自分のことのように、楽しそうに話す絵里ちゃん。

なんだか、推し活をしている私を見ているみたいだな。


「……もしかして絵里ちゃんってさ、湊先輩のこと……」

「うん、……なぁに?」

「推しだったりする?!」

「……へ? 推し?」

「絵里ちゃんの話し方とか見てると、先輩への愛が伝わってきてさ~。
これはもしや!? って思ったんだよ~! そっか~、身近に推しがいるのも悪くないよね~!」

「あの、澪ちゃん? わたし、推しっていうわけじゃ……」

「うんうん、わかるよ。ん? 推しじゃない?」

じゃあ、絵里ちゃんにとって、先輩ってなに?

そんな素朴な疑問が、心に浮かんだ。

まるで私の心の中を読んだかのように、絵里ちゃんは答えた。

「ふふ、じゃあ、なに? って思ったでしょ、いま」

そう言って笑う。

笑った顔も、かわいらしい。

「うん、思った。わからなくて……」

「そっかー。澪ちゃん、この気持ちの名前を知らないのかー」

かわいい~。

そう言って、また笑う。

この子は、花が咲いたみたいに笑うんだな、なんて思った。

「じゃあ、教えてあげる。私はね、湊先輩のこと……」

──そのときだった。


「ねぇ」


聞き覚えのある声がしたのは。