冷たい唇、その奥に

 立川先輩は、わたしの静かなところがいい、と言ってくれた。
 そこが、好き、だと。
 わたしは、ただ自分の気持ちを上手く相手に伝えることが苦手なだけだ。
 自分から他人に話しかけることなんてほとんどない。
 いつも貴利と二人で、限られた空間のなかに閉じこもっている。
 貴利との関係はいったい何なのだろう。
 異性としての関係なのだろうか。
 答えがわからない。
 貴利とは一緒にいて心が波立つことはない。
 でも、立川先輩がわたしにかけてくれた言葉ほど、心が音を立てることはない。
 貴利は、いつもそばにいてくれる。
 これからも、それは変わらないかもしれない。
 わたしは、いつまで貴利を求めるのだろうか。
 この先、何年も今の関係が続くとは思えない。
 いつかは、それぞれに相手ができるかもしれない。
 今は、立川先輩のことを思い浮かべることが多い。
 初めてだった。
 わたしを、好きだと言ってくれる男の人は。
 未だに、学年で人気がある先輩から告白されたなんて考えると頭がふわふわする。
 頬は紅潮してしまう。
 告白された日。
「美咲ちゃんと付き合いたいんだ」
 立川先輩はわたしの目を真っ直ぐ見てそう言ってくれた。
 よく知らない相手に対して、どうしてそこまで言い切れるのか。
 わたしは言葉が喉から出てこなくて、指で太ももをなぞっていた。
 ただ、先輩の真っ直ぐな目には、嘘はないように見えた。
「どうして……わたしなんですか?」
「理由が必要? 知り合ったばかりかどうかは関係ないよ。付き合いながら、お互いのことを知っていけばいいんじゃない?」
 立川先輩はそうも言ってくれた。
 他人と付き合うということは、そういうことなのだろうか。
 貴利のことは頭のなかには常にあった。
 わたしは、立川先輩と付き合うことにした。
 貴利を試したかったのかもしれない。