冷たい唇、その奥に

 高校生になっても、わたしと貴利の関係は変わらなかった。
 わたしは相変わらず、母の目を盗んでは貴利の部屋に忍び込んでいた。
 貴利は高校三年生になっても、わたしと大して変わらない背丈だった。
 線は細く痩身だ。
 指先は細長く真っ直ぐ伸びている。
 あと一年で、貴利は成人する。
 同じ高校生でいられるのは、あと一年間しかない。
 大人に向かって、ひとりで進んでいく。
 わたしは、いつも貴利を追ってばかりだ。
 ある日、学校から帰宅して、自分の部屋で雑誌を読んでいた。
 珍しく貴利が、部屋のドアを三回ノックした。
「美咲、僕の部屋に来ないか?」
「行く」
 わたしは間髪をいれずに答えた。
 貴利の部屋に入ると、いつも通り本棚に本が整然と並んでいた。
 貴利のお気に入りの本は、貴利の視線の高さに置いてある。
 わたしはお気に入りの本が並べてある段の一段下の本を、無造作に一冊手に取った。
 タイトルには一文字だけ読めない漢字があった。
「珍しいね。貴利から誘うなんて」
「座って」
 貴利はそう言うと、ベッドにわたしを座らせた。
「勉強はどう?」
「それなりに」
「わからないところがあれば、僕が教えてあげる」
「ありがとう。貴利が教えてくれるなら、心強いな」
「じゃあ、はじめようか」
 わたしは、勉強を始めるのかと思って、腰を上げようとした。
 貴利が手で制止した。
「勉強じゃない」
 心臓が脈打つ。
 貴利にベッドに横にさせられた。
 貴利も同じように横になった。
 顔が近い。
 貴利の目に、わたしが映り込んでいる。
 映り込んだわたしは、どこか揺れているようだった。
 わたしの目には、貴利はどんな風に映り込んでいるのだろうか。
 いつものように、わたしの人差し指を口のなかに含む。
 貴利から。
 貴利の中指を、口のなかに入れる。
 わたしのなかに。
 しばらく舐め合ってから、キスをする。
 何度目だろうか。
 今では、心を落ち着かせるための行為のひとつだ。
 それ以上先が無いのは、兄妹だからだろうか。
 男女がキスをすれば、その先に何が待っているのか。
 わたしにも想像ぐらいはできる。
 貴利は、キス以上を、わたしに求めてこない。
 わたしは、大切にされているようで、貴利に頭を預けた。
 このまま、時間が止まればいいのに――。