『君の作品も見てみたい』
そう言われてしまった。
「どうしましょう……」
作品と言われても、私は彼のように絵が描けるわけでもないし、何か作品を生み出せるような才能は、私にはない。
「正直に言ってお断りするしかないわよね」
何もできないなんて言ったら、失望されてしまうかもしれない……。けれど、曖昧なまま誤魔化し続けたりしたら、彼のような人にはもっと嫌われてしまうと思う。
そうなるぐらいならば、やっぱり私は配信者の立場ではないと伝えて、これからも視聴者の一人としてあなたの動画を見て応援したいと言おう。
……そうしたら、何と返事が来るのだろう?
わかってもらえるのかな? がっかりされてしまうのかな? それとももう、返事も来なくなってしまうのかしら……?
――そこまで考えて、私はふと、シャンデリアの輝く天井を仰ぎ見た。
「……嘘みたいね」
私は今、誰かのことを考えている。
こんなにも真剣に、いろいろ想像しながら、他人のことを考えている……――。
生まれて初めて。
一生関わることができないと思っていた外の世界の人と、こんな風に、何度も言葉を交わして、今……私の頭の中に“その人”がいて。そして、その人も少なからず私のことを考えてくれている。
本を読んで、物語をものした作家に思いを馳せるのとは全然違う。互いに存在を知って、かかわり合っている。それだけで私にとっては信じられないようなことなのだけれど……。
「それだけじゃない。彼は私に……何かを≪求めて≫くれた」
誰かから求められるということ。それは私がこの世界に確かに存在しているという証明だった。
――嬉しかった。
生まれてきて、この部屋に独りで生きてきて、こんなに嬉しいことがあったでしょうか……?
「……やっぱり、応えたい」
私にできることなんて、どれだけあるというのかわからない。本当に何もないのかもしれない。
それでも、せめて何を求められているのかきいてみよう。彼の言う“私の作品”って、一体何のこと……?
『正直なところ、お応えできる自信がないのですが……ダニエルさんの仰る“君の作品”というのは何のことですか? 私は絵を描いたことも、物語を創作したこともございません。そんな私にあなたが何を求めていらっしゃるのか、教えて頂けますか?』
ほどなくして返信が届いた。
印象を悪くしてしまったのではないかと心配していたけれど、短い文面からでも彼の弾むようなうきうきとした気分が伝わってきて、ひとまずは安心した。
「よかった。でも、これは……」
『何を謙遜しているんだ! 君の作品は、絵画でも物語でもない。君自身が、君という存在自体が素晴らしい作品なのさ! 僕らの最高の出会いの場となったこのウィンディで、君という作品を≪動画≫にして、その姿を僕に見せて欲しい!』
「ウィンディって、こういうものなのでしょうか……? 私が知らないだけで、インターネットではみんなこういうやり取りをしているのかな……」
姿を見たいと言われてしまった。
私は普通の子じゃない。
私は悪魔の子供。
姿を見せるなんて、できるはずがない。
でも、応えたい。
私に何かを求めてくれた人は初めて。同じひとつの世界にいると思わせてくれた人は初めて。こんなに誰かのことを考えたのは、初めて。
私はどうしても、彼の気持ちに応えたかった。
慣れてきたインターネットで、動画の作り方を検索してみる。お父様はインターネットを許しても、私の姿を映すカメラなどの機材は一切与えてはくれないでしょう。当然、スマートフォンなんて生涯触ることもできないと悟っている。
――しかしお父様は、私が思っていた以上にパソコンのことを知らなかったのかもしれない。
どうやら私の使っているノートパソコンには、【ウェブカメラ】というものが搭載されているようだった。
「えぇと…ここが、カメラなのね。設定はここを……? よくわからないけれど……こうすれば……――あ、映った……!?」
必死に調べて、何とかウェブカメラの扱い方を何となく理解するところまで来られた。
「けど、これじゃ……あぁ、全然だめ。どうすればいいの? 設定はここからって……設定の仕方にも種類があるの……? こっちから……あ、ここで変えられるのね!……うーん、難しい……どうすれば、この画面に……」
『ダニエルさん、すみません。ウェブカメラが使えることまでは理解できたのですが、……ちょっとこちらの問題で、カメラの調整にとても時間がかかりそうです。申し訳ありませんが、もうしばらくお待ち頂ければ幸いです』
そう言われてしまった。
「どうしましょう……」
作品と言われても、私は彼のように絵が描けるわけでもないし、何か作品を生み出せるような才能は、私にはない。
「正直に言ってお断りするしかないわよね」
何もできないなんて言ったら、失望されてしまうかもしれない……。けれど、曖昧なまま誤魔化し続けたりしたら、彼のような人にはもっと嫌われてしまうと思う。
そうなるぐらいならば、やっぱり私は配信者の立場ではないと伝えて、これからも視聴者の一人としてあなたの動画を見て応援したいと言おう。
……そうしたら、何と返事が来るのだろう?
わかってもらえるのかな? がっかりされてしまうのかな? それとももう、返事も来なくなってしまうのかしら……?
――そこまで考えて、私はふと、シャンデリアの輝く天井を仰ぎ見た。
「……嘘みたいね」
私は今、誰かのことを考えている。
こんなにも真剣に、いろいろ想像しながら、他人のことを考えている……――。
生まれて初めて。
一生関わることができないと思っていた外の世界の人と、こんな風に、何度も言葉を交わして、今……私の頭の中に“その人”がいて。そして、その人も少なからず私のことを考えてくれている。
本を読んで、物語をものした作家に思いを馳せるのとは全然違う。互いに存在を知って、かかわり合っている。それだけで私にとっては信じられないようなことなのだけれど……。
「それだけじゃない。彼は私に……何かを≪求めて≫くれた」
誰かから求められるということ。それは私がこの世界に確かに存在しているという証明だった。
――嬉しかった。
生まれてきて、この部屋に独りで生きてきて、こんなに嬉しいことがあったでしょうか……?
「……やっぱり、応えたい」
私にできることなんて、どれだけあるというのかわからない。本当に何もないのかもしれない。
それでも、せめて何を求められているのかきいてみよう。彼の言う“私の作品”って、一体何のこと……?
『正直なところ、お応えできる自信がないのですが……ダニエルさんの仰る“君の作品”というのは何のことですか? 私は絵を描いたことも、物語を創作したこともございません。そんな私にあなたが何を求めていらっしゃるのか、教えて頂けますか?』
ほどなくして返信が届いた。
印象を悪くしてしまったのではないかと心配していたけれど、短い文面からでも彼の弾むようなうきうきとした気分が伝わってきて、ひとまずは安心した。
「よかった。でも、これは……」
『何を謙遜しているんだ! 君の作品は、絵画でも物語でもない。君自身が、君という存在自体が素晴らしい作品なのさ! 僕らの最高の出会いの場となったこのウィンディで、君という作品を≪動画≫にして、その姿を僕に見せて欲しい!』
「ウィンディって、こういうものなのでしょうか……? 私が知らないだけで、インターネットではみんなこういうやり取りをしているのかな……」
姿を見たいと言われてしまった。
私は普通の子じゃない。
私は悪魔の子供。
姿を見せるなんて、できるはずがない。
でも、応えたい。
私に何かを求めてくれた人は初めて。同じひとつの世界にいると思わせてくれた人は初めて。こんなに誰かのことを考えたのは、初めて。
私はどうしても、彼の気持ちに応えたかった。
慣れてきたインターネットで、動画の作り方を検索してみる。お父様はインターネットを許しても、私の姿を映すカメラなどの機材は一切与えてはくれないでしょう。当然、スマートフォンなんて生涯触ることもできないと悟っている。
――しかしお父様は、私が思っていた以上にパソコンのことを知らなかったのかもしれない。
どうやら私の使っているノートパソコンには、【ウェブカメラ】というものが搭載されているようだった。
「えぇと…ここが、カメラなのね。設定はここを……? よくわからないけれど……こうすれば……――あ、映った……!?」
必死に調べて、何とかウェブカメラの扱い方を何となく理解するところまで来られた。
「けど、これじゃ……あぁ、全然だめ。どうすればいいの? 設定はここからって……設定の仕方にも種類があるの……? こっちから……あ、ここで変えられるのね!……うーん、難しい……どうすれば、この画面に……」
『ダニエルさん、すみません。ウェブカメラが使えることまでは理解できたのですが、……ちょっとこちらの問題で、カメラの調整にとても時間がかかりそうです。申し訳ありませんが、もうしばらくお待ち頂ければ幸いです』


