電影ゴシカ―幽閉された悪魔の仔―

 ついに、この時が来てしまった。
 これから僕は、実物のアミーリアに会えるのだ。
 彼女の顔の造形の美しさは画面越しでも十分にわかっている。しかしこれから現れる本物のアミーリアは、四角く切り取られた平面の姿ではないのだ。
 僕は何度も想像する。僕の目前に立つ、それはそれは愛くるしい少女の姿を。
 彼女は一体どれほどに繊細で、どれほどに可憐なのだろう。遠目に僕を見つけると、微かに頬を上気させて駆け出して来るかもしれない。その足取りといえば、雲の上を歩くように軽やかなのだろう。

「あぁ、もう待ちきれない。愛しいアミーリア、僕のとらわれの姫君。早く現れておくれ。僕はここにいる!」




「ダニエルさん、お待たせ致しました」

「……え? 今の声は、アミーリアなのか……?」

 遠くから――そう、遠くからのはずだ――……僕の名を呼ぶ美しい声は、確かに間違えようもない、彼女のそれだった。

 けれど、おかしい。
 ――彼女の声がこんなふうに聴こえるはずがない……。

「えぇ、そうです。――私が、アミーリアです。あなたが『会いたい』と言ってくれた、アミーリアです――」



《その悪魔論によるとね、》



『悪魔が人間の女性との間に子供をもうけると、生まれてくる子供は【巨人】になるの』


 ――え!? 猫の声が入っていましたか!? 姿は映っていないですよね!?

 ――本棚の紹介は後日改めて。本棚だけの動画を出しますね。

 ――皆さんのコメントが読めないと困るので、今日は眼鏡が必要なのです。

 ――すみません、ウェブカメラの調整に時間がかかります。


 ――PC本体を持って歩き回っているにしては、まるでスマホか何かで撮影しているように、軽やかすぎるのよ……。



『その説に当てはめて考えると、これまでの全部が辻褄があうの』
「………………」
『だから、……まあ、馬鹿馬鹿しい考えなんだけどさ、もし彼女に会いに行くってまだ言ってるようなら、一応、止めておいたほうがいいんじゃないかな? 一応、ね?』
「…………いえ、ジュディ。それはもう遅いのよ」
『遅い?』
「アイツ……今日、彼女に会いに行ったの。待ち合わせが何時なのかは聞いていないから、まだ会っていないのか、もう会っているのかはわからないのだけれど。……ちなみにあれから一度も連絡はないわ」
『……そっか………………』
「…………」
『……や、やだ、こんな有り得ない話、本気で心配したりしなくていいんだからね? 最初に言ったでしょ、私の想像でしかないから話半分に聞いてねって!』
「そう、よね……。うん、わかってるわ」
『なんかごめん……わかったことは伝えた方がいいかと思って電話したんだけど、こんな余計な情報、教えない方がよかったかもね……』
「いいえ、そんなことはないのよ。……そうね、せっかく教えてもらったから、一応、アイツに電話しておこうかな!」
『そうね。まあ、こんな馬鹿らしい話はただの想像だったって、当人の浮かれた声でも聴けばすぐにわかるでしょ』
「えぇ。ほんと、一応かけてみるだけ……」


▽▼▽▼


「これが私だから、絶対にお会いすることはできないと思っていたけれど。あなたはどんな私でも受け入れてくれると言ったから。
 信じていいのですよね――?」
「………………だ………っ……」
「ねえ、ダニエルさん?」



「化け物だ!!!!!!」



「――……」
「来るな……来るな……うわあああああああああ!!!!」
「――」



 『どんな君でも受け入れる』――そう言ってくれた。


「……ねえ?」
「――っ!?」


 やっぱり私は、悪魔の仔。

「右腕」

 外に出してはいけない子。

「左腕」

 どんなに頑張ったところで、

「右脚」

 人間と同じになどなれるはずがない。

「左脚」

 誰に出会ったとしても。

「胴体」

 私が私でいる限り。

「……頭」


《ありのままの姿で愛してもらえることなど、永久にないのですね》


 ……もう、何もなくなってしまいましたね。
 そろそろ目を覚まさなければ。
 今度の夢は、少し長すぎたわ。
 戻るのよ。最初から何もなかったの。
 私には、いつだって何もなかったのですから。

 ……あら? 何か音が聴こえる?
 あ……もしかしてこれが、スマートフォンというものかしら。
 拾った方がいい?……あ、拾っただけで潰れてしまったわ。
 すぐに壊れてしまうのね。何でも。
 えぇ、そう。すぐに全部なくなってしまうのです。
 全部なくなってしまうのです。


【終】