電影ゴシカ―幽閉された悪魔の仔―

「うーむ……」

 あの日以降、アミーリアは宣言通り時々ライブ配信もするようになってくれた。
 それは素晴らしいことである。あぁ、とても素晴らしいことなのだ!
 ……しかしながら、わかっていたことではあるのだが、彼女がライブ配信を行うたびに、1人また1人とフォロワーが増えてゆく。ライブ配信を行わなくても、どこかで動画を見た視聴者がフォロワーになり、1人また1人と増えてゆく。
 それも素晴らしいことである。アミーリアの存在は埋もれさせていてよいものではない。1人でも多くの人間に、この最高の芸術を教えてやらなくてはならない。それは僕の使命でもあるだろう!
 だがそれは同時に、……僕の特権が失われてしまうということでもあるのだ。

『あなたは特別な人です』

 アミーリアが度々口にするこの言葉。
 真意は未だによくわからないままではあるものの、これは僕にとっても、とても心地の良い言葉だ。
 だから僕は、これから先、自分にこの言葉が向けられなくなるのは嫌なのだ。
 僕にとってのアミーリアは、言うまでもなく特別な存在。それなら僕も、彼女にとってそうでありたいと思う。

 もし、この先。

 彼女がたいそう有名な配信者になり、彼女の周りには沢山のファンや取り巻き、信奉者、下僕、豚野郎、ひいてはガチ恋勢などというものまで……そんなものが大量に湧いてきてしまうとして。
 それはどうだろう? 僕はそれを両手放しで喜ばしいことだと言えるのだろうか……?

「なんてことだ……」

 否。言えるわけがない。
 そんなものは僕が思い描く輝かしい未来ではない。てかもう使命とかどうでもいい。教えてやらなくてはとか僕は何を言っているんだ、馬鹿なのか。

「あぁ、だめだ! 考えれば考えるほど会いたい気持ちは募るばかりだ!」

 配信で見たアミーリアは、美しさを半減させる意味のわからない眼鏡をかけていても、なお余りある恐ろしいばかりの可憐さと美しさで、また僕を魅了した。
 動画を見ているだけの時に少なからず持っていた、偶像崇拝に似た非現実的な感覚は、画面越しの彼女がリアルタイムで言葉を交わしてくれた瞬間に、ついに完璧に現実のものとなった。
 同じ世界に存在している彼女に、やっぱり会いたい。

 ――もう一度伝えてみよう。

 彼女は今、何を思っているのだろう。僕と同じ気持ちを、本当は少しでも持ってくれているのではないのだろうか……?

 僕たちは、共に特別な存在。
 それならば、やっぱり彼女の方だって……――。


『やぁ。しつこいと思われるだろうけれど、どうしても、もう一度だけ言わせて欲しい。
 君に会いたい。
 何度も断られていることはわかっている。でも、これは今の君にこそ改めて伝えるべきだと思ったんだ』

『……ありがとうございます』

『君の答えは?』

『…………本当は、私だって…………いいえ、私の方が、あなた以上にあなたにお会いしたいと思っています』

『それならば……!』

『でも、できないのです』

『……そろそろ理由を聞かせてくれないかい?』

『…………私は、私の全てを偽ってあなた方にお見せしているのです』

『でも、動画もライブ配信も、映っているのは君本人だろう?』

『ええ。紛れもなく本物の私です。それでも私は私を偽っているのです』

『それはどういうことだい? メイクや髪型で誤魔化している? それともPC初心者と言いながらちゃっかり加工アプリなんか覚えて、「盛れる見た目」とやらにしているとか? そんなの、女の子なら当たり前のようにやっていることじゃないか』

『……いいえ、違います』

『それも違うというなら、もしかして整形しているとか? そうなると色々な意見が出てくるだろうけれど、僕はそれさえも受け入れることができるよ。メイクだって、ヘアアレンジだって、整形だっていい。それが今の君の姿であるのならば、僕は君という作品を心から美しいと思う』

『…………』

『それでもまだダメかい?』

『……整形もしていません。……でも、嬉しいです』

『それはよかった! これが僕の君に対する素直な気持ちだ。今一度、君の答えを聞きたい。僕たちは出会うべきなんだ! 画面上ではなく、太陽が輝くこの世界で!』

『……私は外の世界の人をほとんど知らないけれど、あなたはきっと、すごく変な人で間違いないのでしょうね』



《明日の夕方、18時なら――。父が不在の間に、屋敷のある森の中腹まで来て頂くことができるなら、――迎えに行きます》



 ――……。

 ついに、返事をもらってしまった。
 夢ではない。
 本当に、彼女に会うことができるのだ。

 やっと、アミーリアに会える……。僕が出会った最高の芸術……美しい女神――小鳥のように可憐な、とらわれの姫君に。