電影ゴシカ―幽閉された悪魔の仔―

「………………」

 ライブ配信が、終わった。

「…………」

 まだどこか現実感がなくて、夢でも見ているような、不思議な気持ちだった。

 眼鏡のくだりは内心とても焦っていた。
 直前に気づいた時は、とんでもないミスを犯してしまったと思い、混乱して配信開始が告知より5分ほど遅れてしまった。
 けれど、「近視だから」と言って堂々としていれば深追いはされないだろうと信じて、思い切って普段通りの眼鏡で初めてカメラに向き合った。
 やっぱり話題に出されてしまい、かなりハラハラしたけれど、何とか平静を装って乗り切ることができた。
 他にも、何かの間違いでグレイシーが入ってきてしまったらどうしようと配信の間じゅう心配だったり、本の話題に向いていきそうになると、上手いこと軌道を逸らして別の話題に持っていったりと、配信中は常に緊張が解けなかった。
 今日に至るまでの下準備も大変だったし、何から何まで不安だらけで、正直、凄く疲れた。

「ほんとに……ライブ配信、大変だったな……」

 でも――。

 それよりも、その何千倍も……すごくすごく、幸せだった。


 初めてウィンディを知って、よくわからないままにライブ配信に入室してしまったあの時。
 『こんにちは』と入力したら、画面の中の誰かも『こんにちは』と言って手を振ってくれた。
 あの時実感した、外の世界も同じように動いているという事実が。――自分が発信する側となって、もっと深く、全身に染み渡った。

 言葉を発したら、言葉が返ってくる。

 画面の向こうに同じように画面を見ている人がいて、同じ時間を共有している。
 私も彼らも、今ここにいる。
 外の世界じゃない。同じ世界にみんないる。
みんなが当たり前に知っていることを、…………やっと、私も知ることができた。


『次は、当たり前を当たり前にしよう』

「………………え?」


《皆が当たり前だと思っていることを、君にとっても当たり前のことにするんだ。
 世界はこんなに広い。君は狭い部屋に閉じ込められているべきではない。
 どうか、僕の前にその姿を現して欲しい。いつまでもずっと待っている》


「………………」


 彼に出会わなければ、私が自分を発信することは永遠になかったのかもしれない。
 私がずっと求めていた、今この手に掴めているものは、全部、彼がくれた。

「……あなたは私の、特別なひと」

 あなただけは、特別な人。
 だから…………

 だから、やっぱり……――!