「ふはははははははははははは」
「…………………………………」
アミーリアのライブ配信が決まってからというもの、コイツは今まで以上に浮かれ野郎になってしまった。
「……来るんじゃなかった。帰るわ」
「え? 帰るって、今来たばかりじゃないか。君は一体何をしにここに来たんだい?」
(……ほんとに何しに来たんだか)
「…はあ~ぁ!」
帰る、とは言ったものの、自分の部屋に戻っても、そこはまだダニエルの部屋の隣。なんだかいたたまれなくて、結局近くのカフェに入って時間を潰しているという有様だ。
そういえば実家にいた頃、家が近いという理由で始めたコンビニのバイトで、円満とはいえない辞め方をしたことがあった。その結果、重宝していた近所のコンビニに行けなくなってしまって、しばらくの間不便な生活をすることになっていた。
……何となく、そんなことを思い出してしまった。やたらと近くを選ぶのも考えものだということだ。
「えぇ~? 遅くなったのは謝るけど、そんな凄いため息つかなくてもいいじゃない」
突然正面から発せられた聞き慣れた声に、俯いていた顔を上げると、声の主はのんびりと向かいの席に座り、すでに卓上の季節限定メニューのポップに視線と興味を移していた。
「へ? あ、ジュディ! ごめん、違うのよ。またあのバカがさー」
「相変わらずね。子供の時と何も変わらないじゃない」
「それはあたしも含まれるの?」
「当然でしょ」
「~……」
「それで? カフェなんかに呼び出すなんて珍しいじゃない。何か改まって話すようなことでもあるの?」
そう。時間を潰しているとは言いつつも、私は今日彼女をちゃっかりここへ呼び出していたのだ。
彼女――ジュディは、ダニエルと同じく昔から仲の良い友人の1人なのだけれど、今日ここへ呼び出したのには理由があった。
「……自他ともに認めるオカルトマニアのあなたに、折り入って相談したいことがあるの」
「あら、意外だわ。ベルといえばこの手の話にはてんで興味がなくて、私が話を振ってもいつも突っぱねてくるのに。これは何か、よっぽどのことがあるとみたわ」
「……いや、そんな大したことではないと思うんだけど。……たぶん」
「ふーん?」
「ねぇ、ジュディは悪魔についても詳しいの?」
「悪魔?」
「うん」
「そうねぇ、悪魔学は興味はあるけれど、まだそんなに触れてきてないかな。私はUMAとか超常現象の方が好み」
確かにジュディは昔から、未確認生物だの未確認飛行物体だの、超能力だの催眠術だの、そういう話ばかりを集めてきては目をキラキラさせていたし、今ももちろん変わっていない。
だからこの件が専門外だというのもその通りなのだけれど……
「そっか……う~ん、でもやっぱりあなたの意見が聞きたいわ。
私ひとりで考えていても、何だかよくわからないままなのよ」
「いいわよ。お役に立てるかはわからないけど、話ぐらいはいくらでも聞くわ」
「……あのね、自分のことを『悪魔の仔』だと言っている、ウィンディの動画配信者がいて……――」
私はスマートフォンでアミーリアの動画をいくつかジュディに見せながら、自分の抱いている違和感や、ダニエルに危険が迫っているのではないかという漠然とした不安、そして、近々彼女のライブ配信が行われるということまで、一通り全てを話してみた。
「……っていうところなんだけれど、ジュディ、どう思う?」
「……ん~…………そうねぇ……」
「…………」
「さっきも言ったように、私は悪魔関連に関しては専門外だから、これだけでは何ともいえないというのが素直な感想だけれど……。でも確かに、ベルの言う不自然さみたいなのも何となくわかるわ」
「やっぱり……?」
私以外の第三者、しかもオカルトに造詣の深いジュディが見てもそう思うのだから、全くの思い過ごしというわけではないと考えてよさそうだ。
「……そうね、ここはちょっと、一度持ち帰らせてもらっていい? 好奇心で悪いけど、私も少し興味があるし、悪魔学の資料を見つけて照らし合わせながら調べてみることにする」
「えぇっ? そこまでしてもらっていいの?」
「半分趣味みたいなものだから気にしないで。……ん~、でも。
代わりに私が気になっていることにも答えてもらおうかなー」
「?」
言うとジュディは、目を半月の形にしてニヤリと笑うような顔をした。……これは見覚えのある顔ね。昔から、彼女がこの顔をすると、この後の話の流れがよくないことになるのだ。
「ベル。あなたはなぜ、ダニーに『嫌だ』って言わないの?」
「え……?」
「ほんとは嫌なんでしょう? ダニーが彼女に会いたがっているのも、ダニーのためにライブ配信が行われることも、……彼女にここまで心酔していること自体も」
「――……」
「アンタって、昔から何でもはっきり言うし、素直でわかりやすいのに、ダニエルのことになると違うよね」
「そんなこと……」
「…………」
……ほらね。完全によくない流れ。
「……だって、あたしが言ったってどうせ聞く耳持たないだろうし。それに、あんまりうるさく言って……嫌われたりとか、したくないし……」
「ほぉ~?」
「な、なによ……」
こういう時のジュディは本当に嫌な顔をする。でも、そんな顔も私よりずっと可愛いから腹が立ってしまう。オカルト趣味がなければ、この子はかなりモテていたのかもしれない。
「そっかそっか。うん。でもさ、そんなことないと思うわよ?」
「へ?」
「聞く耳持たないとか、嫌われるとか、私はそうは思わないけど?」
「え………」
「でもまあ、これは相談されてないから、これ以上は何も言わなーい」
「えぇっ?」
「私は自分の発言に自信が持てないから、不確かなことは伝えない主義。余計なことは言わないでおくから、アンタは自分に素直に行動しなよ」
「………」
「だから、アミーリアちゃんのことも実は少し引っかかることがあるけれど、せめてもう少し確信に近付くまでは、助言は控えさせてもらうわね」
ジュディは奇抜なようでいて、案外堅実なのだ。そういうところにいつも助けられていて、……今回もそうなりそうな予感がする。
「わ、わかった……。ありがとう、ジュディ」
「じゃあ、用件聞いただけでごめんだけど、これから彼氏が家に来るから私はこのへんで! 悪魔のこと何かわかったら連絡するわね」
「うん。お願い」
「またねー」
自分に、素直に……?
「あたしは……本当は、どうしたいのか…………」
「…………………………………」
アミーリアのライブ配信が決まってからというもの、コイツは今まで以上に浮かれ野郎になってしまった。
「……来るんじゃなかった。帰るわ」
「え? 帰るって、今来たばかりじゃないか。君は一体何をしにここに来たんだい?」
(……ほんとに何しに来たんだか)
「…はあ~ぁ!」
帰る、とは言ったものの、自分の部屋に戻っても、そこはまだダニエルの部屋の隣。なんだかいたたまれなくて、結局近くのカフェに入って時間を潰しているという有様だ。
そういえば実家にいた頃、家が近いという理由で始めたコンビニのバイトで、円満とはいえない辞め方をしたことがあった。その結果、重宝していた近所のコンビニに行けなくなってしまって、しばらくの間不便な生活をすることになっていた。
……何となく、そんなことを思い出してしまった。やたらと近くを選ぶのも考えものだということだ。
「えぇ~? 遅くなったのは謝るけど、そんな凄いため息つかなくてもいいじゃない」
突然正面から発せられた聞き慣れた声に、俯いていた顔を上げると、声の主はのんびりと向かいの席に座り、すでに卓上の季節限定メニューのポップに視線と興味を移していた。
「へ? あ、ジュディ! ごめん、違うのよ。またあのバカがさー」
「相変わらずね。子供の時と何も変わらないじゃない」
「それはあたしも含まれるの?」
「当然でしょ」
「~……」
「それで? カフェなんかに呼び出すなんて珍しいじゃない。何か改まって話すようなことでもあるの?」
そう。時間を潰しているとは言いつつも、私は今日彼女をちゃっかりここへ呼び出していたのだ。
彼女――ジュディは、ダニエルと同じく昔から仲の良い友人の1人なのだけれど、今日ここへ呼び出したのには理由があった。
「……自他ともに認めるオカルトマニアのあなたに、折り入って相談したいことがあるの」
「あら、意外だわ。ベルといえばこの手の話にはてんで興味がなくて、私が話を振ってもいつも突っぱねてくるのに。これは何か、よっぽどのことがあるとみたわ」
「……いや、そんな大したことではないと思うんだけど。……たぶん」
「ふーん?」
「ねぇ、ジュディは悪魔についても詳しいの?」
「悪魔?」
「うん」
「そうねぇ、悪魔学は興味はあるけれど、まだそんなに触れてきてないかな。私はUMAとか超常現象の方が好み」
確かにジュディは昔から、未確認生物だの未確認飛行物体だの、超能力だの催眠術だの、そういう話ばかりを集めてきては目をキラキラさせていたし、今ももちろん変わっていない。
だからこの件が専門外だというのもその通りなのだけれど……
「そっか……う~ん、でもやっぱりあなたの意見が聞きたいわ。
私ひとりで考えていても、何だかよくわからないままなのよ」
「いいわよ。お役に立てるかはわからないけど、話ぐらいはいくらでも聞くわ」
「……あのね、自分のことを『悪魔の仔』だと言っている、ウィンディの動画配信者がいて……――」
私はスマートフォンでアミーリアの動画をいくつかジュディに見せながら、自分の抱いている違和感や、ダニエルに危険が迫っているのではないかという漠然とした不安、そして、近々彼女のライブ配信が行われるということまで、一通り全てを話してみた。
「……っていうところなんだけれど、ジュディ、どう思う?」
「……ん~…………そうねぇ……」
「…………」
「さっきも言ったように、私は悪魔関連に関しては専門外だから、これだけでは何ともいえないというのが素直な感想だけれど……。でも確かに、ベルの言う不自然さみたいなのも何となくわかるわ」
「やっぱり……?」
私以外の第三者、しかもオカルトに造詣の深いジュディが見てもそう思うのだから、全くの思い過ごしというわけではないと考えてよさそうだ。
「……そうね、ここはちょっと、一度持ち帰らせてもらっていい? 好奇心で悪いけど、私も少し興味があるし、悪魔学の資料を見つけて照らし合わせながら調べてみることにする」
「えぇっ? そこまでしてもらっていいの?」
「半分趣味みたいなものだから気にしないで。……ん~、でも。
代わりに私が気になっていることにも答えてもらおうかなー」
「?」
言うとジュディは、目を半月の形にしてニヤリと笑うような顔をした。……これは見覚えのある顔ね。昔から、彼女がこの顔をすると、この後の話の流れがよくないことになるのだ。
「ベル。あなたはなぜ、ダニーに『嫌だ』って言わないの?」
「え……?」
「ほんとは嫌なんでしょう? ダニーが彼女に会いたがっているのも、ダニーのためにライブ配信が行われることも、……彼女にここまで心酔していること自体も」
「――……」
「アンタって、昔から何でもはっきり言うし、素直でわかりやすいのに、ダニエルのことになると違うよね」
「そんなこと……」
「…………」
……ほらね。完全によくない流れ。
「……だって、あたしが言ったってどうせ聞く耳持たないだろうし。それに、あんまりうるさく言って……嫌われたりとか、したくないし……」
「ほぉ~?」
「な、なによ……」
こういう時のジュディは本当に嫌な顔をする。でも、そんな顔も私よりずっと可愛いから腹が立ってしまう。オカルト趣味がなければ、この子はかなりモテていたのかもしれない。
「そっかそっか。うん。でもさ、そんなことないと思うわよ?」
「へ?」
「聞く耳持たないとか、嫌われるとか、私はそうは思わないけど?」
「え………」
「でもまあ、これは相談されてないから、これ以上は何も言わなーい」
「えぇっ?」
「私は自分の発言に自信が持てないから、不確かなことは伝えない主義。余計なことは言わないでおくから、アンタは自分に素直に行動しなよ」
「………」
「だから、アミーリアちゃんのことも実は少し引っかかることがあるけれど、せめてもう少し確信に近付くまでは、助言は控えさせてもらうわね」
ジュディは奇抜なようでいて、案外堅実なのだ。そういうところにいつも助けられていて、……今回もそうなりそうな予感がする。
「わ、わかった……。ありがとう、ジュディ」
「じゃあ、用件聞いただけでごめんだけど、これから彼氏が家に来るから私はこのへんで! 悪魔のこと何かわかったら連絡するわね」
「うん。お願い」
「またねー」
自分に、素直に……?
「あたしは……本当は、どうしたいのか…………」


