電影ゴシカ―幽閉された悪魔の仔―

 いつかは言われる予感がしていた――なんて言ったら、自惚れていたと思われるでしょうか。

 『会いたい』と、実際にそう言われてしまうと、本当は戸惑いよりも嬉しさの方が大きかった。
 でも、決して悟られてはいけない。
 だって、もし少しでも私も会いたいなんていう素振りを見せてしまえば、きっと簡単に言いくるめられて、会う約束を取り付けられてしまうことになる。
 それだけは絶対に避けなければならない。絶対に。


 会いたい気持ちは私にだってある。……いいえ、きっと私の方が、彼以上に強く、彼に会いたいと思っている。
 だから私は、彼の提示した『妥協案』に乗ってしまったのだ。

「……やっぱり危険よね……。今からでもお断りした方がいいのかしら……」

 私にとって結構なハイリスクであることはわかっているのだけれど、それでも一度頷いてしまったからには、今更やっぱり無理ですなどと言えば、今度こそ本当に嫌われてしまうかもしれない。

 ――やるしかない。

 私は入念な下準備を始めるため、とりあえずPCに向き合った。


『会うことができないなら、せめてウィンディでライブ配信をしてくれないかい?』

――それぐらいでしたら。

 ……そう答えてしまった。
 動画とは違い、リアルタイムで行うライブ配信は、私にとっては全てを失ってしまう危険と隣り合わせと言っても過言ではない。
 私は普通の女の子とは違う。【悪魔の仔】なのだ。
 ウィンディでは、はっきりと『私は悪魔の仔です。人間ではありません』と公言しているけれど、――本物の悪魔の仔というのが、つまりどういうことなのか。
 それはまだ、誰にも知られていない。それだけは決して知られるわけにはいかないのだ。
 もしも生配信中に、うっかりそれとわかるものが映り込みでもしたら。その瞬間に全てが終わる。

「やるしかない。けど……」

 やるとなれば、とにかく細心の注意が必要だ。


「………………」

 外の世界と繋がることができるようになったけれど、どうしても私と外の世界との違いを知らしめるものがいくつも存在している。
 中でも特に脅威となり得るものは、――【猫】、【本】、そして……【PC本体】。
 これらはいつもその身をもって、私が悪魔の仔であることを私に教えようとする。
 どんなに必死に努力して近付こうとしても、人間と同じになれることは永久にないのだと――。

「………………」

 考えなければならない。
 せめてライブ配信の間だけは、これらの脅威を何とかして誤魔化さなければ……。


 グレイシーは当日、猫のトイレや皿やおもちゃなどと一緒に一番信用出来る使用人に預けて、配信の間(勉強とでも言っておく)は絶対に放さないように、そして絶対にこの部屋の近くを通らないように、そう言いつけておく。

 部屋にある本は1冊残らず本棚に押し込んで、見落としがないか、直前まで何度もチェックする。
 本棚には布を掛けることを考えたけれど、滑り落ちたりしたら困るので、今のうちから全部の本棚用の分厚いカーテンを作らせておく。勿論、本棚が映らない画角にするのだけれど、それでももしも、万が一を考えて準備する。
 他には?
 本と猫を隠したら、他には何かあったかしら?
 ぐるりと一周、部屋中を見渡す。グレイシーのおやつが1つ転がっていたので、当日はこれを一番に注意しようと覚えておく。

「他は……何も無さそうよね?」

 隅々まで見渡しても、これら以外に危険なものは見当たらない。大丈夫そうだ。他のものは全て、【私専用】のものだから。
 あとは当日。私自身がPC本体に向き合うにあたって、一瞬も気を抜かずにボロを出すことなくやり切る。それだけでしょう。


「…………」

 窓から、空を仰ぎ見た。

「……どうしてこんなことを考えなければいけないのだろう」

 もしも私が悪魔の仔でなければ。

 もしも普通の子に生まれていたなら、こんなことの一切を考えずに、いくらでも、好きなだけ、自由にライブ配信もできたでしょう。
 いいえ、私を知ってもらうための配信なんてする必要もなかった。
 自由に外に出て、会いたい人に会える。――『会いたい』という言葉に、『嬉しい。私も会いたい』と、返すことができる……。

「なぜ私は…………」

 でも、それはできない。
 悪魔の仔に生まれてしまったのだから、普通の子になることなんて、できない。
 わかっているから……だから、画面の中で夢を見る。

『私は悪魔の仔です。でもほら、これが私の姿。皆と変わらない』

 私を見ている人たちにではなく、私自信に言い聞かせて。
 これからもこの画面の中で、このアミーリアでいつづけるために。
 失敗するわけにはいかないのです。