その在り処は君の中に

『君のことが好きなんだ』
誰もいない放課後の教室。
夕焼けが窓から差し込む時間にそんな、ありきたりの言葉が書かれた文を読み進めた。

高校生になって、少し大人の仲間入りを果たしたが未だその感情がわからない、未川 咲。
街中で手を繋ぐ男女の姿。
SNSで流れてくるツーショットの写真。
どれも、幸せそうに目に映る物のその感情には理解ができない自分がいた。

この年になるまで経験がないからかもしれない。
それもそのはず、ずっとこの歳まで本にしか時間を費やすことしかしなかった。
人と関わるタイミングも見失い当たり前にぼっち学生生活突入。
恋人以前に「恋」の一文字すら無い自分の生活は、世界は静かに時間が過ぎっていっていた。

「はぁ‥」

読み終わった本を閉じて、ため息をひとつ。
改めてパラパラと読んだ本を読み返す。
今回の恋愛小説も、もちろんハッピーエンドで終わった。
拗れに拗れた男女が最終的には、手を取り合い結ばれるという、ありきたりなハッピーエンド物語。

自分もこんな恋に時間を費やしてみたい。
でも、そんな勇気も度胸もなくこうして、本の中の物語に浸っている自分がいる。
綺麗に纏められた物語は好きだ。
ハッピーエンドで終わるものは特に。
どんな、ありきたりな物語でも、成立のするハッピーエンドが迎えられるなら、恋もしてみたいと何度も夢に描く。

くだらない話をして、手を繋いで、その先もきっと幸せな物なのだろうと勝手な妄想を繰り広げては現実に戻される。
おさげの三つ編みに、分厚いメガネ。
周りの女子と比べれば断然、地味の中の地味すぎる。
そんな自分には恋人なんて分は相応か。
でも、いつかの先の未来で自分の運命の人と出会ってその人と時間を共に過ぎ去って過ごしていきたい。
そんな、夢くらい持ってても良いだろう。

でも、時々疑問が頭をよぎる。
恋はしてみたい。
恋人は、ほしい。
でも、なんでそんな強く願望を抱くのか、わからずにいた。
今の生活に不満があるわけでも無い。
人というのは欲があるというが、そういう感覚なのだろうか。
でも、夢に見るくらいなのだからこの気持ちに疑問なんて抱くことがおかしいのかもしれない。

「わかんないな〜」

独り言をごちるも答えは出るはずもない。
そんなことを考えて、窓の外を見ればもう直ぐ陽が暮れる。
そろそろ、見回りの先生も来ることだろう。
注意される前に帰ろうと荷物をまとめ、教室を出た。