フィボナッチ

 その頃から、継原と放課後に一緒にいる事が増えた。

 数学の続きを教えてほしいと言われれば図書室に行くし、帰る時間が重なればそのまま駅まで歩く。

 そして今日も声をかけられた。

「相原、今日暇?」

「なんかあるの?」

「遊びの誘い。今日、暇なんだよねー」

「まぁ、暇だけど」

「じゃあさ、帰り駅前寄ってかない? 文房具見たい」

「文房具なんて見てどうすんだよ」

「ワクワクするんだよ」

 真顔で言われた。なんだそれ、文房具でワクワクする感性なんて中学時代に置いてきたぞ。

「相原もワクワクしに行こうぜ」

 継原は勇ましい仕草で鞄を担いでみせる。

 断る理由も特になかったので、結局そのまま一緒に学校を出た。決してワクワクしたいからではない。

 駅前の文房具屋に入ると、継原は真っ先にペンが並んだ棚へ向かった。

「これ可愛くない?」

「普通のペンに見えるけど」

「デザインが可愛い」

「よく分からん」

 すると今度は、隣に並んだ別のペンを手に取った。

「こっちは?」

「さっきより値段が高いな」

「値札じゃなくてデザインを見んかい」

「まぁ、いいんじゃないの? シンプルなデザインで」

「相原が言うと、無難なデザインに見えてきた」

「失礼だな。お前が聞いてきたんだろ」

 その後も色んなペンを手に取っては試し書きし、書き心地や握りやすさまで確かめていく。

 俺にはどれも大差ないように見えるが、継原にとってはそうでもないらしい。

 結局、散々迷った末に買ったのは、最初に手に取ったペンだった。

「結局それにしたんだ」

「これ以外の選択肢を潰すために見てたようなもんだから」

「ふーん」

「興味なさそう」

「いや、面倒臭いなと思って」

「回り道のない人生なんて退屈でしょ?」

「ちょくちょく人生論語るよな」

「こう見えて色々考えてるんだよ」

「なら勉強でも頭使おうな」

「それは別」

「都合いいなぁ」

 店を出る。

 これで用事は終わったはずなので駅へ向かおうとすると、隣を歩いていた継原が急に足を緩めた。

「なんか、歩いたら甘いもの食べたくなっちゃった。ね、アイス食べない? コンビニ寄ろうよ」

「まぁ、いいけど」

 頷くと、継原は少し先にあるコンビニへ歩いていく。

 俺もその後を追い、適当にアイスを一本選んだ。

 店を出たところにあるベンチへ並んで座ると、継原が俺の手元を見た。

「相原って甘いの好きじゃなかった?」

「アイスは別」

「基準が分からないんだけど」

「さっぱりしてるのはいいんだよ」

「面倒臭いね」

「お前に言われたくねーよ」

「私は一貫して甘いもの好きだよ」

 継原がアイスを齧りながら笑う。

 俺も一口食べてから、なんとなく時計を見る。学校を出てから、もう一時間以上経っていた。

 ふと継原の横顔が目に留まり、ぼんやりと思う。

 そういえば、継原とこうして何の貸し借りもなく一緒にいるのは初めてかもしれない。

 今日はなにかをしてもらった訳でもないし、俺もなにかを返すためについてきた訳じゃない。

 文房具を見て、アイスを食べただけだ。

 それだけで、一時間は思っていたよりずっと短かった。

「そろそろ帰ろっか」

 見ると、継原の手にはアイスの棒だけがあり、俺の容器もいつの間にか空になっている。

「そうだな」

 ゴミを片付けた後、俺達は再び駅へ向かった。