翌朝、目が覚めると同時に襲ってきたのは、どうしようもない切なさだった。
好きな人と付き合った。その字面だけ見ればとても幸せなことなのに、期間限定。向こうは私を好きじゃない。こちらからだけ好意を寄せている。しかも彼にこの好意に気づかれてはいけない。付き合うために好きという気持ちを押し殺さないと、付き合い続けられない。
「はあ……」
重い身体を怒鳴りつけて、無理やり身体を起こす。体調は悪くない。でも気持ちが海底まで沈んでしまっている。
窓から差し込む朝日は私の部屋を明るく照らす。
今日を含めてあと二日。二日も好きな人と付き合えるということは、あと二日はこの苦しみに耐えなければいけないということだ。
「……もっとよく考えるべきだったかな」
長谷川くんと付き合えるってことばかりに目が向いて、三日間どういう心情で過ごすことになるのかよく考えていなかった。
今ならやめられる。現時点では傷は完全に開いていない。まだ癒せる。
「美緒ー、早く起きなさーい」
部屋の前からお母さんの声が聞こえてくる。
私はこんなに悩んでいるのに、お母さんはなんて呑気なんだろう。って、八つ当たりしてもしょうがないけど。
「今行く」
いつも通りに答えたつもりだけど、思ったより素っ気ない返事になってしまった。
私はこの小さな違いにお母さんが気づいていないことに安堵しながら、朝食を食べるために自室を後にした。
放課後に一緒に帰る時は、人の少ない時間を選ぶ。私が後から追加したルールだ。
長谷川くんと一緒に帰っているところを見られたら、明日からクラス中の女子に無視されそう。それくらい長谷川くんは特別だから。
「あ、美緒。こっち」
校門のところで待っていた長谷川くんが、人懐っこい笑みを浮かべて軽く手を振ってくれる。
そういうところが思わせぶりなんだってば。本当は私のこと好きなんじゃないかって勘違いしちゃう。ちょっとした仕草だけじゃない。
美緒って呼んでくれると、まるで自分の名前に粉砂糖をかけたように甘くなる。でもかけすぎて甘くなりすぎて逆に食べられなくなっちゃうかな。
「おまたせ、い、伊月くん……」
精一杯の勇気をこめて私も名前呼びにしてみる。これは朝から決めていたことだ。私も協力するといった以上、ただ長谷川くんの隣に突っ立って彼からの愛情表現に応えるだけじゃダメだ。恋人っぽいことを私もやっていかないと。私にはこれ以上できる気がしないけど。
長谷川くんの反応を窺うと、彼は目を輝かせていた。
「おお、なんか恋人っぽい……!」
素直に受け止める長谷川くんに、きりきりと心が痛んだ。私は長谷川くんに美緒って呼んでもらえると舞い上がっちゃうのに、私が伊月くんって呼んでも「恋人っぽい」で済ませるなんて、改めて一方通行の想いなんだと認識する。
「そうでしょ? で、これ聞いて何か心境の変化はあった?」
あるって言ってもないって言っても私を傷つけるのに訊いてしまう。
好きな人と付き合った。その字面だけ見ればとても幸せなことなのに、期間限定。向こうは私を好きじゃない。こちらからだけ好意を寄せている。しかも彼にこの好意に気づかれてはいけない。付き合うために好きという気持ちを押し殺さないと、付き合い続けられない。
「はあ……」
重い身体を怒鳴りつけて、無理やり身体を起こす。体調は悪くない。でも気持ちが海底まで沈んでしまっている。
窓から差し込む朝日は私の部屋を明るく照らす。
今日を含めてあと二日。二日も好きな人と付き合えるということは、あと二日はこの苦しみに耐えなければいけないということだ。
「……もっとよく考えるべきだったかな」
長谷川くんと付き合えるってことばかりに目が向いて、三日間どういう心情で過ごすことになるのかよく考えていなかった。
今ならやめられる。現時点では傷は完全に開いていない。まだ癒せる。
「美緒ー、早く起きなさーい」
部屋の前からお母さんの声が聞こえてくる。
私はこんなに悩んでいるのに、お母さんはなんて呑気なんだろう。って、八つ当たりしてもしょうがないけど。
「今行く」
いつも通りに答えたつもりだけど、思ったより素っ気ない返事になってしまった。
私はこの小さな違いにお母さんが気づいていないことに安堵しながら、朝食を食べるために自室を後にした。
放課後に一緒に帰る時は、人の少ない時間を選ぶ。私が後から追加したルールだ。
長谷川くんと一緒に帰っているところを見られたら、明日からクラス中の女子に無視されそう。それくらい長谷川くんは特別だから。
「あ、美緒。こっち」
校門のところで待っていた長谷川くんが、人懐っこい笑みを浮かべて軽く手を振ってくれる。
そういうところが思わせぶりなんだってば。本当は私のこと好きなんじゃないかって勘違いしちゃう。ちょっとした仕草だけじゃない。
美緒って呼んでくれると、まるで自分の名前に粉砂糖をかけたように甘くなる。でもかけすぎて甘くなりすぎて逆に食べられなくなっちゃうかな。
「おまたせ、い、伊月くん……」
精一杯の勇気をこめて私も名前呼びにしてみる。これは朝から決めていたことだ。私も協力するといった以上、ただ長谷川くんの隣に突っ立って彼からの愛情表現に応えるだけじゃダメだ。恋人っぽいことを私もやっていかないと。私にはこれ以上できる気がしないけど。
長谷川くんの反応を窺うと、彼は目を輝かせていた。
「おお、なんか恋人っぽい……!」
素直に受け止める長谷川くんに、きりきりと心が痛んだ。私は長谷川くんに美緒って呼んでもらえると舞い上がっちゃうのに、私が伊月くんって呼んでも「恋人っぽい」で済ませるなんて、改めて一方通行の想いなんだと認識する。
「そうでしょ? で、これ聞いて何か心境の変化はあった?」
あるって言ってもないって言っても私を傷つけるのに訊いてしまう。
