未回答の終点

学生の恋愛といえば、やっぱり一緒に帰ることだ。
他愛のない話をして、分かれ道で明日を待ち遠しく思って。学園恋愛系の漫画やアニメそんな甘酸っぱい出来事を夢見ていた。
いつか、私もこんなことできたらいいな。なんて、身の丈に合わない理想を描いていた。

「西村、本当にごめん」

教室を出てから、長谷川くんはそればかりを繰り返している。
私と恋人ごっこをすることを心から申し訳なく思っているらしい。

「だから全然気にしてないってば。どうせ彼氏なんていないし」

下駄箱で靴を履き替えながら、もう何度目かわからない返事を私も繰り返す。

生徒玄関を出ると、校舎と門までの並木道が視界いっぱいに広がった。夏を過ぎて秋に差し掛かったこの時期は、暑すぎず寒すぎず過ごしやすい。夕日でできた青楓の影がコンクリートの地面に複雑な模様を作り出している。日毎(ひごと)に早くなっていく日没が私たちの帰宅を急かしている。

「迷惑だってわかってるんだ。西村に彼氏がいなくても、好きな人はいるかもしれないじゃん」

それが君なんだってば。

「いないいない。今は恋愛興味ないし」

声は震えていないだろうか。本当に興味がないように振る舞えているだろうか。そればかり気になってしまう。

「そっか。それならいいんだけど」

長谷川くんは未だに表情が晴れない。それを横目に、私はほんの少し苛立った。
そんなにくよくよするなら、やらなければいいのに。今どき恋愛なんてしなくたって、青春を謳歌する方法はいくらでもある。長谷川くんみたいな人気者なら尚更簡単に違いない。私には無理かもしれないけど。

「西村に協力してもらってるんだ、少しくらい恋愛感情を理解したい」

長谷川くんの目に決意が宿る。
まっすぐで素直で、自分の身勝手さに気づいていなくて。
いくら距離が近くても、心の距離まで近づくことはないから。だから私は君に興味ないふりを続けなければいけない。せめて、ぎりぎりまで近づきたくて。

「うん。一緒に頑張ろう」

いい子の返事で誤魔化して。私が傷ついていることに気づいていない。いや、そう見せないようにしたのは私なんだけど。

「ありがとう。西村がいてくれて良かった」

そうやって期待させるようなことを無自覚に言う。
私はそれには何も答えずに、長谷川くんの隣を歩いた。
夕日が地平線に帰っていく。静かで涼しい「今」が夏の経過と秋の訪れをノスタルジックに演出していた。