未回答の終点

「西村、ちゃんと話聞いてよ」

その言葉に私は何か言うのをやめた。止められたからじゃない。もう言い訳が尽きたからだ。

「西村、これは嘘告じゃない」
「何言ってるの? 私のこと好きじゃないんでしょ? それなのに告白してるんでしょ? これが嘘告じゃないなら何?」
「……俺に協力してほしいんだ」
「協力?」

それは嘘告の……と思いかけてやめた。
長谷川くんの苦しげな瞳に吸い込まれそうになって、言葉を失った。

「俺は、恋愛感情がわからないんだ」
「え?」
「友達に対する好きと、恋人に対する好きって何が違うの? 告白されてもそんな気持ちで付き合うなんて失礼だと思うんだ」

恋愛感情がわからない。それを聞いて納得してしまう自分がいた。いつも人に囲まれていて、女の子にも人気な長谷川くんは、当然しょっちゅう告白されるわけで。仲良くない私でも、誰かが告白してきた、でも断ったなんて話はよく聞こえてきた。だけど一度も長谷川くんから恋人の話が出てくることはなかった。一時期、内緒で付き合ってる人がいるんじゃないかとか、恋愛対象が同性なんじゃないかとか様々な憶測が飛び交っていたこともある。本人はその噂のどれに対しても明言を避けていたけど。

「だから、三日だけ。三日間だけ俺と付き合ってほしい。俺に恋愛感情を教えてほしい。もちろん嫌なら断ってくれても構わないし、このことを誰かに言うつもりもない」

恋愛感情のわからない彼は、私で恋人ごっこをする。そしていつかできた本命の子と正式に恋人になる。私はただの実験道具。なんて身勝手な考えなんだろう。
でも。誠実なようで、でもやっぱり人間だから少しは自己中で。雲の上の存在だった長谷川くんが、急に身近な存在に思えた。

「それで、なんで私なの?」
「西村が一番俺に興味なさそうだったから」

ずき、と胸の奥が痛んだ。あまりにも淡々と言われて、聞き間違いかと疑った。
ああ、彼には私が自分に無関心に見えているんだ。本当の私はずっと——。

「好意を寄せてくれる人とこんなことしたら、傷つけるから」

もう十分傷ついてる。君のこと好きじゃないと思い込んでるけど、私はずっと好きだった。

「もちろん西村もいい迷惑だとわかってる。でも俺を好きな人に期待させて振るのもお互い辛いでしょ」

君は何もわかっていないんだ。私の気持ちを決めつけて、自分を好きじゃない人ってラベリングしてる。

「それで私を利用するんだ」
「……ごめん」
「……酷い人」
「わかってる。でも西村にしか頼めないんだ」

——酷い人。そしてずるい人。
一方通行だとわかっていながら付き合うなんて、苦しいに違いない。それでも長谷川くんと付き合うのは、私がずっと願っていたことだから。いつかこんな日が来たらって夢想せずにはいられなかったから。

「わかった。付き合おうか」