「なぁ、利旺。俺、最近見られてる気がしてしょうがないんだけどさ〜。誰か俺に片想いして見つめてると思う?」
勇崎が座った椅子をグラグラと後ろに傾けながら俺に聞いてくる。
「さぁ?気のせいだろ。」
危ない。隠し撮りは気をつけないとな。
俺は勇崎を撮りたい。
やりたいことは極めたいほうだ。
カメラは少し腕前がある方だから、撮るのをよく頼まれる。
クラス写真もしょっちゅうだ。
そんな時、勇崎のアップも撮っておくのは絶対忘れない。
持ち帰ったデータの編集は、まず周囲の奴らを削除するところから始まる。
それから背景を自然な感じに加工する。
一番あいつの笑顔を活かせるよう作業を着々と行う。
集合写真で困るのは、俺だけが写らないことではない。だから、カメラの固定はしない。
勇崎を綺麗に撮るのは俺の義務だから、固定なんてしてられない。
困っているのは、あいつのポジションとポーズだ。
陽キャなだけにいつもど真ん中にいて、周りにはクラスメイト。消すのが大変だ。
ポーズも普通に立っててくれればいいのに。
体育祭のクラス写真なんか、地べたに寝っ転がってピースを出していたりする。
涅槃像かよ。
このレアポーズをどう自然に見せればいいんだ…
ある日、勇崎が窓辺に腰掛けていた。
教室の隅の窓を全開にしている。
両腕をついて、足をぶらぶらさせている。
風を感じて気持ちよさそうだ。
俺はその脇でカメラのレンズを手入れしていた。隙あらば、撮る態勢。
バランスが少し崩れた…!!?
勇崎の背中が窓の外に傾いた。
ここ、3階だぞ!!!
俺はすかさず背中を抱き留めた。
カメラを投げ出す。
窓から校庭に落ちていく俺のカメラ。
木っ端微塵になる音が聞こえる。
全てがスローモーションに感じた。
勇崎は……
無事だった。
荒々しい言葉が俺の口をついて出た。
「バカやろう!!」
「何してんだ!!心配させんな!!」
「お前いつもそうだ!!
危なっかしいことばっかりで!!」
「ふざけんなよ!! いつか死ぬぞ!!」
「バカだ!!バカの極みだ!!」
スラスラと出てくる大声。
俺が声を荒げるのは珍しい。
みんなが振り返る。
勇崎がうつむく。
「心配かけてごめん。
……ありがとな。ちょっとだけバランス崩しただけだったんだけど…」
「カメラ、壊れちまった…ごめん。
愛用品だもんな…替えが効くとは思わない…だけどせめてお金だけでも返したい。あ…データ…」
「…そんなのどうでもいい。」
聞こえるか聞こえないかの呟き。
カメラもデータもそんなのはどうでもいいんだ。
「……よかった……
お前が…いなくなるかと思った…」
…お前が俺の目の前にいてくれさえいればいい…
思わず勇崎を抱きしめていた。
両腕を回し、目をきつく閉じて。
戸惑いながら勇崎が言う。
「あ…ごめ…
分かった分かったよ。
降りるから離せ、な?落ち着け。」
はっと我に返る。
えっ?!
近い!顔が近い!っていうか密着してる!
勇崎の足の間に俺の身体が収まって…てか抱きしめてたのか?!
なんだよ、この体勢!
どれくらいの間こうしていたんだ?!
カッと顔が赤くなる。
この体勢をどうしたら良いか分からず、固まる。
勇崎が俺の肩に手をかけてきた。
ポンポンと。
「もう絶対しないから、な?」
そう言うと、勇崎は俺の腕をスルリとくぐり抜けた。
「ごめんな。ありがとう。」
俺の心臓はなかなか静まらなかった。
肩が上がったまま、まばたきもせず、まっすぐ前を向いていた。
本当は崩れ落ちそうだった。
あくる日、勇崎は友達とふざけ合っている。
教室と廊下の間の窓に跨っている。
確かに校舎の壁側の窓ではない…。
勇崎は急所をぶつけたらしい。
窓から落ちた。
教室の机に頭を打って、頭を抱えている。
…懲りてねぇ。
バカな奴ほど、かわいいってこれか…

