このアカウントは、偶然見つけたものだった。
空の画像を撮ってSNSにあげた時、アプリのオススメに流れてきて、そのままフォローした。
いつも決まったような場所から撮った空の画像ばかりをあげているアカウントで、そこに時折投稿者のコメントが添えられている。
見ている人もほとんどいなくて、ただただひっそりと投稿主が自分のためだけに運用しているアカウントだった。
最新の更新履歴は二週間前で、更新頻度も不定期。
SORAの投稿をちゃんと見ているのは、きっと世界で私しかいないと思う。
だけどそのひっそり感がいい。
誰もが自由に見られるはずなのに、誰も見ていない秘密の場所。
だからこのまま、誰に知られなくてもいい。
学校の友達や家族とも繋がる表アカとは違う裏アカは、私だけのもの。
誰にも知られず誰にも教えず、自分が楽しむためのアカウントでなら、表では絶対に言えない本音が言えた。私
は虚空の世界に向かって現実では言えない言葉を吐き出す。
『今日はもう最悪。また失敗した。もう嫌だ。こんな毎日と自分』
文字にして書き込んだ自分の脳内が、体から離れスマホの中で見るようになると、それは自分が書いたものではないような気になる。
送信して画面に表示されたとたん、ようやく客観的に見えた自分の姿に、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、私は自分で書いた文字をすぐに消した。
SORAのアカウントには、私なら決して残すことの出来ないようなメッセージが並んでいる。
『痛いのも、悪いのも、全部自分のせい。誰かを恨みたくても、恨む場所すら与えられない』
この人はどんな思いでこんな言葉を並べたのか。
閲覧数も一桁や多くても二桁程度で、コメントにイイネ一つつくこともない。
インターネットは世界に繋がっているとはいうけれど、どこにも繋がらずただ広い空に放たれた思いに、私はいつも助けられている。
同じ思いをしている人がこの世界のどこかにいるんだと、救われる。
『自分の場所はこんなところじゃない。だけど逃げられない。自分が自分じゃなくなるには、どうしたらいい?』
私はSORAの投稿から特に好きなものをまとめて、一覧表示できるように編集していた。
撮影された空は澄みわたるような青空のことが多いけど、曇りや雨の日の空もある。
嫌なことがあると、私は自分で作ったSORAだけのタイムラインをさかのぼった。
この人の何気ない一言が、私に重く強く響く。
『ここに縛られたまま、終わるつもりはない』
そんなコメントのついた空は、灰色の雲が流れる今にも雨の降り出しそうな重い空で、SORAの感じている息苦しさそのもののよう。
『自分が生きていることに、何の意味がある? このまま消えたい。でもそれが出来ない。許されない。生きていてごめん』
SORAの見る空を、私も見ている。
同じ空の下で、私たちは繋がっている。
SORAの苦しみは私の苦しみ。
もし私を理解してくれる人がいるとしたら、この世界にSORA以外ありえない。
制服のまま寝転がったベッドの上で、小さな画面を見ながら次第に意識が遠のいてゆく。
スマホが暗転する頃には、私も眠りに落ちていた。
二週間後の球技大会に向け、他のクラスもちらほらと練習を始めているようだった。
競技の種別によって配点に違いはないけれど、運動が苦手な女子たちの集まったドッチボール組に練習なんて概念はなく、集まって話し合おうとかいう雰囲気すら感じられない。
きっとこのまま、ぶっつけ本番になる流れだ。
お昼休み、学校の中庭できゃあきゃあと楽しそうにドッチボールをしている同じ学年子たちを横目に見ながら、うちのクラスはそれで大丈夫なのかな、いいのかなと、私は相変わらずそんな心配ばかりしていた。
そんなドッチボール組とは対照的に、バスケチームの士気は高い。
猫の絵文字で飾られたSNSグループで集合がかけられ、正式参加メンバーの五人とコーチ役の陽菜、なぜか一緒にグループに入っている無関係な麻友の七人で、放課後練習をすることになっている。
麻友はあれほど球技大会を嫌がっていたのに、気づけば毎日私たちの練習に付き合っているし、練習にも積極的だ。
だったら最初からバスケにしておけば、こんなややこしいことにならなかったのになんて思いながらも、私は麻友に練習を譲っている。
自分からバスケを頑張るとか楽しみだと言った気持ちに嘘はないけれど、せっかく来てくれている麻友を放置しておくわけにもいかない。
「千和! そろそろ交代しない?」
「あ、うん」
コーチ役の陽菜に言われて、私は荷物番をしていた屋外コートの脇から立ち上がった。
「ゴメンね、陽菜。付き合ってくれてありがとう」
「え? なんで?」
「いや、申し訳ないなって」
「は? なにそれ」
私は陽菜と交代して、コートの中に入る。
麻友は思っていた以上にバスケが上手かったし、シュートもよく決まる。
運動神経も悪くなかった。
「じゃ、始めるよー」
芽依が私にパスを投げ、受け取った私はそれをすぐに麻友に向かって投げた。
麻友は膝を落とした姿勢から機敏なステップでターンをして、ゴール下でジャンプする。
片手で持ち上げたボールが、するりとリングに吸い込まれた。
「やっぱ麻友、なにげにバスケ上手いよね!」
「はは。千和は褒めすぎ」
口元だけを見れば笑っているけれど、麻友の目は真剣なまま前を向いている。
声も平坦で抑揚がない。
そのアンバランスな表情に、私はまた恐怖にも似た罪悪感を抱く。
私いま、何か悪いことした?
気に障るようなことあった?
彼女がなぜそんなに不機嫌なのか、何に対して怒っているのか、気になって気になって仕方がない。
だけど私がこんなに不安な気持ちになってしまうのは、そうさせてしまった自分が悪いんだ。
攻守が交代して、今度は玲奈たちが攻める番になった。
私は軽く両腕を広げ、ディフェンスの態勢をとる。
コーチをしてくれている陽菜は当然だけど、いまドリブルをしている玲奈は中学でバスケをやっていたと聞いた。
これまでのプレイを見ていても、経験者なんだなということは分かる上手さだ。
そもそもドッチからバスケに一番に移動する意志をみせたのも玲奈だし、美琴や愛未に対してだって、私みたいなヘタクソが混ざり込んでしまったという、申し訳ない気持ちがある。
「千和! 前!」
「わぁ!」
そんなことを考えながらプレイしていたら、突然切り込んできた玲奈と体がぶつかった。
バランスを失った私は、その場にべしゃりと尻もちをつく。
「大丈夫?」
玲奈がドリブルの手を止めた。
そのままシュートしてしまえばよかったのに、私はまたみんなの迷惑になってしまった。
「ゴメン。こっちこそぶつかってゴメンね」
「え? う、うん……」
私は心配をかけないよう、激痛に顔を歪め笑顔を浮かべる。
「あはは。ゴメンね。ぼーっとしちゃってた。もっと集中しないとダメだね。玲奈のドリブルの上手さに見とれてた」
「……。おしり、痛くないの?」
「うん! 平気!」
慌てて両手を左右に振り否定を示した私の手を、玲奈がつかみ取った。
「やだ、千和、血が出てるよ!」
転んだとき、地面についた左手の平の皮がズルリとむけていた。
「あぁ。こんなの、すぐ治るから」
それまで気づきもしていなかった傷なのに、見てしまった時から激しく痛み始める。
流れ出る血は、手首を伝っていた。
「いや、保健室行こ?」
「その前に、洗ってくるね。私のことはいいから、みんなは練習してて」
「でも、けっこう血がでてるよ」
「もー。ちょっと転んだだけでこんなになるなんて、私も大げさだよね。平気平気! ほら、練習時間がもったいないよ! 戻って戻って」
玲奈や陽菜がついてきてくれようとしていたけれど、ワザとらしいほど平気な顔をして、大声で笑って手を振ってみせた。
だって私なんかより、みんなにとっては練習の方が大事だから。
大丈夫だと断って、私は一人、ゆっくりと余裕を見せつけながら歩きだした。
体育館脇の手洗い場にたどり着くと、一呼吸おいてから流れる血を水道水で洗う。
めり込んでいた小石を絞り出すと、ハンドタオルで赤く濁った水分を拭き取った。
出血は止まったものの、傷口は深そうだ。
赤く色づく自分の血を、とても不思議なものに感じた。
私にもちゃんと、人として血が流れていたんだ。
この体に流れているのは、赤ではなく青か透明な液体だと思っていた。
ズキズキと痛む傷口が教えてくれている。
裂けた皮膚の隙間から滲み出る視覚的な赤と現実的な痛みが、私の輪郭を形作っている。
自分が持つ自分の肉体を、初めて実感したような気がした。
「千和? 大丈夫?」
麻友だ。
怪我をした手を眺めぼんやりとしていた私を、探しに来てくれた。
麻友は自分の両腕を背中に回し、血の流れ出る私の左手をのぞき込む。
「わ。痛そ」
あまりにも軽く言い放った麻友に、イラッとする。
そりゃ麻友的にはそういう反応になるよね。
だって完全なる他人事だもん。
「ねぇー、こんなところでサボってていいの? 早く保健室行くか練習しなよ。千和がやんないと意味ないよね」
麻友って案外しつこい。
別に練習したいとか、本気で思ってないし。
そもそもこんな練習がまともな練習だとも思ってないし。
みんな好き勝手に優勝とか言って盛り上がってるけど、本気で勝てるとか思ってんのかな。
「い、意味ないなんてことはないと思うよ。こうやってみんなで集まって体動かしてるだけでも、連帯感って生まれるもんだと思うし」
「ふふ。出た出た」
麻友は可愛い顔をして、そうでなくても細い目をさらに細くしてニヤリと微笑む。
「絆創膏。貼ってあげるよ。持って来たんだぁ。私のお気に入りの、かわいいやつ」
「あ、ありがとう。だけど、もったいないからいいよ」
「ダメだよぉ、だって千和は怪我してるのにー」
麻友は私の手を取ると、血の滲み出る左手を広げた。
ピンク色をした絆創膏には、いま人気のハチワレ猫と白い子グマ、ウサギのキャラクターイラストが描かれていて、仲良く三人でカスタネットとトライアングル、タンバリンを鳴らしながら踊っている。
空の画像を撮ってSNSにあげた時、アプリのオススメに流れてきて、そのままフォローした。
いつも決まったような場所から撮った空の画像ばかりをあげているアカウントで、そこに時折投稿者のコメントが添えられている。
見ている人もほとんどいなくて、ただただひっそりと投稿主が自分のためだけに運用しているアカウントだった。
最新の更新履歴は二週間前で、更新頻度も不定期。
SORAの投稿をちゃんと見ているのは、きっと世界で私しかいないと思う。
だけどそのひっそり感がいい。
誰もが自由に見られるはずなのに、誰も見ていない秘密の場所。
だからこのまま、誰に知られなくてもいい。
学校の友達や家族とも繋がる表アカとは違う裏アカは、私だけのもの。
誰にも知られず誰にも教えず、自分が楽しむためのアカウントでなら、表では絶対に言えない本音が言えた。私
は虚空の世界に向かって現実では言えない言葉を吐き出す。
『今日はもう最悪。また失敗した。もう嫌だ。こんな毎日と自分』
文字にして書き込んだ自分の脳内が、体から離れスマホの中で見るようになると、それは自分が書いたものではないような気になる。
送信して画面に表示されたとたん、ようやく客観的に見えた自分の姿に、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、私は自分で書いた文字をすぐに消した。
SORAのアカウントには、私なら決して残すことの出来ないようなメッセージが並んでいる。
『痛いのも、悪いのも、全部自分のせい。誰かを恨みたくても、恨む場所すら与えられない』
この人はどんな思いでこんな言葉を並べたのか。
閲覧数も一桁や多くても二桁程度で、コメントにイイネ一つつくこともない。
インターネットは世界に繋がっているとはいうけれど、どこにも繋がらずただ広い空に放たれた思いに、私はいつも助けられている。
同じ思いをしている人がこの世界のどこかにいるんだと、救われる。
『自分の場所はこんなところじゃない。だけど逃げられない。自分が自分じゃなくなるには、どうしたらいい?』
私はSORAの投稿から特に好きなものをまとめて、一覧表示できるように編集していた。
撮影された空は澄みわたるような青空のことが多いけど、曇りや雨の日の空もある。
嫌なことがあると、私は自分で作ったSORAだけのタイムラインをさかのぼった。
この人の何気ない一言が、私に重く強く響く。
『ここに縛られたまま、終わるつもりはない』
そんなコメントのついた空は、灰色の雲が流れる今にも雨の降り出しそうな重い空で、SORAの感じている息苦しさそのもののよう。
『自分が生きていることに、何の意味がある? このまま消えたい。でもそれが出来ない。許されない。生きていてごめん』
SORAの見る空を、私も見ている。
同じ空の下で、私たちは繋がっている。
SORAの苦しみは私の苦しみ。
もし私を理解してくれる人がいるとしたら、この世界にSORA以外ありえない。
制服のまま寝転がったベッドの上で、小さな画面を見ながら次第に意識が遠のいてゆく。
スマホが暗転する頃には、私も眠りに落ちていた。
二週間後の球技大会に向け、他のクラスもちらほらと練習を始めているようだった。
競技の種別によって配点に違いはないけれど、運動が苦手な女子たちの集まったドッチボール組に練習なんて概念はなく、集まって話し合おうとかいう雰囲気すら感じられない。
きっとこのまま、ぶっつけ本番になる流れだ。
お昼休み、学校の中庭できゃあきゃあと楽しそうにドッチボールをしている同じ学年子たちを横目に見ながら、うちのクラスはそれで大丈夫なのかな、いいのかなと、私は相変わらずそんな心配ばかりしていた。
そんなドッチボール組とは対照的に、バスケチームの士気は高い。
猫の絵文字で飾られたSNSグループで集合がかけられ、正式参加メンバーの五人とコーチ役の陽菜、なぜか一緒にグループに入っている無関係な麻友の七人で、放課後練習をすることになっている。
麻友はあれほど球技大会を嫌がっていたのに、気づけば毎日私たちの練習に付き合っているし、練習にも積極的だ。
だったら最初からバスケにしておけば、こんなややこしいことにならなかったのになんて思いながらも、私は麻友に練習を譲っている。
自分からバスケを頑張るとか楽しみだと言った気持ちに嘘はないけれど、せっかく来てくれている麻友を放置しておくわけにもいかない。
「千和! そろそろ交代しない?」
「あ、うん」
コーチ役の陽菜に言われて、私は荷物番をしていた屋外コートの脇から立ち上がった。
「ゴメンね、陽菜。付き合ってくれてありがとう」
「え? なんで?」
「いや、申し訳ないなって」
「は? なにそれ」
私は陽菜と交代して、コートの中に入る。
麻友は思っていた以上にバスケが上手かったし、シュートもよく決まる。
運動神経も悪くなかった。
「じゃ、始めるよー」
芽依が私にパスを投げ、受け取った私はそれをすぐに麻友に向かって投げた。
麻友は膝を落とした姿勢から機敏なステップでターンをして、ゴール下でジャンプする。
片手で持ち上げたボールが、するりとリングに吸い込まれた。
「やっぱ麻友、なにげにバスケ上手いよね!」
「はは。千和は褒めすぎ」
口元だけを見れば笑っているけれど、麻友の目は真剣なまま前を向いている。
声も平坦で抑揚がない。
そのアンバランスな表情に、私はまた恐怖にも似た罪悪感を抱く。
私いま、何か悪いことした?
気に障るようなことあった?
彼女がなぜそんなに不機嫌なのか、何に対して怒っているのか、気になって気になって仕方がない。
だけど私がこんなに不安な気持ちになってしまうのは、そうさせてしまった自分が悪いんだ。
攻守が交代して、今度は玲奈たちが攻める番になった。
私は軽く両腕を広げ、ディフェンスの態勢をとる。
コーチをしてくれている陽菜は当然だけど、いまドリブルをしている玲奈は中学でバスケをやっていたと聞いた。
これまでのプレイを見ていても、経験者なんだなということは分かる上手さだ。
そもそもドッチからバスケに一番に移動する意志をみせたのも玲奈だし、美琴や愛未に対してだって、私みたいなヘタクソが混ざり込んでしまったという、申し訳ない気持ちがある。
「千和! 前!」
「わぁ!」
そんなことを考えながらプレイしていたら、突然切り込んできた玲奈と体がぶつかった。
バランスを失った私は、その場にべしゃりと尻もちをつく。
「大丈夫?」
玲奈がドリブルの手を止めた。
そのままシュートしてしまえばよかったのに、私はまたみんなの迷惑になってしまった。
「ゴメン。こっちこそぶつかってゴメンね」
「え? う、うん……」
私は心配をかけないよう、激痛に顔を歪め笑顔を浮かべる。
「あはは。ゴメンね。ぼーっとしちゃってた。もっと集中しないとダメだね。玲奈のドリブルの上手さに見とれてた」
「……。おしり、痛くないの?」
「うん! 平気!」
慌てて両手を左右に振り否定を示した私の手を、玲奈がつかみ取った。
「やだ、千和、血が出てるよ!」
転んだとき、地面についた左手の平の皮がズルリとむけていた。
「あぁ。こんなの、すぐ治るから」
それまで気づきもしていなかった傷なのに、見てしまった時から激しく痛み始める。
流れ出る血は、手首を伝っていた。
「いや、保健室行こ?」
「その前に、洗ってくるね。私のことはいいから、みんなは練習してて」
「でも、けっこう血がでてるよ」
「もー。ちょっと転んだだけでこんなになるなんて、私も大げさだよね。平気平気! ほら、練習時間がもったいないよ! 戻って戻って」
玲奈や陽菜がついてきてくれようとしていたけれど、ワザとらしいほど平気な顔をして、大声で笑って手を振ってみせた。
だって私なんかより、みんなにとっては練習の方が大事だから。
大丈夫だと断って、私は一人、ゆっくりと余裕を見せつけながら歩きだした。
体育館脇の手洗い場にたどり着くと、一呼吸おいてから流れる血を水道水で洗う。
めり込んでいた小石を絞り出すと、ハンドタオルで赤く濁った水分を拭き取った。
出血は止まったものの、傷口は深そうだ。
赤く色づく自分の血を、とても不思議なものに感じた。
私にもちゃんと、人として血が流れていたんだ。
この体に流れているのは、赤ではなく青か透明な液体だと思っていた。
ズキズキと痛む傷口が教えてくれている。
裂けた皮膚の隙間から滲み出る視覚的な赤と現実的な痛みが、私の輪郭を形作っている。
自分が持つ自分の肉体を、初めて実感したような気がした。
「千和? 大丈夫?」
麻友だ。
怪我をした手を眺めぼんやりとしていた私を、探しに来てくれた。
麻友は自分の両腕を背中に回し、血の流れ出る私の左手をのぞき込む。
「わ。痛そ」
あまりにも軽く言い放った麻友に、イラッとする。
そりゃ麻友的にはそういう反応になるよね。
だって完全なる他人事だもん。
「ねぇー、こんなところでサボってていいの? 早く保健室行くか練習しなよ。千和がやんないと意味ないよね」
麻友って案外しつこい。
別に練習したいとか、本気で思ってないし。
そもそもこんな練習がまともな練習だとも思ってないし。
みんな好き勝手に優勝とか言って盛り上がってるけど、本気で勝てるとか思ってんのかな。
「い、意味ないなんてことはないと思うよ。こうやってみんなで集まって体動かしてるだけでも、連帯感って生まれるもんだと思うし」
「ふふ。出た出た」
麻友は可愛い顔をして、そうでなくても細い目をさらに細くしてニヤリと微笑む。
「絆創膏。貼ってあげるよ。持って来たんだぁ。私のお気に入りの、かわいいやつ」
「あ、ありがとう。だけど、もったいないからいいよ」
「ダメだよぉ、だって千和は怪我してるのにー」
麻友は私の手を取ると、血の滲み出る左手を広げた。
ピンク色をした絆創膏には、いま人気のハチワレ猫と白い子グマ、ウサギのキャラクターイラストが描かれていて、仲良く三人でカスタネットとトライアングル、タンバリンを鳴らしながら踊っている。



