「あ……、あのね。なんで二人にその話が出来なかったかって言うと、ネットの人だったから。芸能人でもないし、有名なインフルエンサーとかじゃなくて、普通にSNSやってる人で……。そういう人が、本気で好きって言ったら、引かれるかなとか、反対されるかなって思って……。それで言えなかった」
「……。まぁ、そりゃ心配はするよね。友達としては」
芽依は腕組みして背を伸ばし、麻友は真剣な表情を崩さないまま、先を促す。
「で、それが村松くんだったってこと?」
「私も、最初はそうかと思ったんだけど……」
ここから先は、自分のことだけでいい。
余計なことまで、話す必要はない。
私は大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。
「違ってた。その人は村松くんの従兄弟で、もう亡くなってる人だったんだ」
「えっ……?」
スマホの画面を見て誤解したこと。
彼に間違って告白したこと。
私の好きだったネットの人が村松くんではないと分かるまで、互いの行き違いがあったこと。
そういうことを、私は慎重に言葉を選びながら二人に説明した。
「……。じゃあ、もう今は村松くんとの誤解も解けて、その、なんて言うか、和解出来たの?」
ずっと心配してくれていた芽依には、申し訳ないことをした。
「うん。お互いに、いいお友達になれた。……と、私は思ってる。私だけかもだけど」
「千和のよくないところはさぁ!」
それでも麻友また、怒り始めた。
「そうやって、全部自分で自己完結しちゃうところでしょ。千和にしてみれば、私なんか役にも立たないし頼りになんないかもしれないけど、バカにされてんのかと思うとムカつく」
「バカにしてない。そんなの、バカになんて……」
余計なことは言わないように。
相手の気持ちを考えて、どうすれば誰も傷つかないでいられるか、人とぶつからずにすむか。
そうやって生きることが正解で正しくて、上手な大人のやり方だって、思ってた。
そうしておけば、間違いないんだって。
失敗はないんだって。
だけどこれ以上、私は麻友と芽依に、自分を誤魔化したくない。
ずっと自分に嘘をつき続けていたように、これ以上誰にも、自分のことで嘘をつきたくない。
この二人になら、それを打ち明けてもいいような気がした。
「……麻友は……、麻友には分からないんだよ。麻友は可愛くて頭良くてお金持ちの家の子で、人気もあって。他のクラスの子とも上手くやれて。私みたいなのがどれだけ努力して頑張って追いつこうとしてるのか、そういうの分かんないから、そんなことが言えるんだよ。冗談っぽくいうのも、軽く受け答えするのも、全部全部色々考えて言ってんのに、そういうの気にしないでいられるのは、すごくうらやましい」
本当に、そう思っている。
私は食べかけのお弁当の横に、箸をおいた。
「だから、私は一生懸命周りに気をつかって、みんなに合わせて、必死で追いつこうと、置いていかれないよう、努力してて……」
なんでこんな話をしないといけないんだろう。
本当はこんなこと、恥ずかしくて言いたくなかった。
こんな努力、みんなしてて当たり前のことなのに。
その当たり前が出来ないで、弱音を吐いてる自分が恥ずかしい。
「だから、なんの努力もせず、普通にそういうことが出来てる麻友と芽依から見れば、私はもの凄く鈍くて、見ててダルいし、鬱陶しいと思うこともあるんだろうなって……」
あぁ、だからやっぱり、私はダメなんだ。
こんなこと、他人に話すべき内容じゃない。
「ゴメン。やっぱ面倒くさいよね。余計なこと言っちゃった。私、やっぱり一人で……」
「そんなの、私だって思ってるし!」
そう叫んだ麻友の目がなぜか、いつも以上に潤んでいる。
「私は、いっつも千和がうらやましかった! 普通にいい子で、真面目で先生からも気に入られてて! 私には絶対そんなこと出来ないし、どれだけ頑張っても千和にはなれないなって!」
「なんで? 麻友はそのままで十分だよ」
「これでも私は、必死で作ってんの! 自分をよく見せたいと思って頑張るのって、そんなに悪いこと?」
「麻友は普通に楽しく、努力とか関係なしにそういうこと出来ちゃう人かと思ってた」
「必死で努力してます! そう見えないように、頑張って努力隠して、何でもないように見せる努力もしてます!」
麻友の勢いに負けることなく、芽依まで身を乗り出した。
「私だってそうだよ! あんま流行モノ興味ないフリしてるのは、本当に興味ないんじゃなくて、数とか種類が多すぎて、ついていけないからだし! だから、千和が麻友の持ってるグッズとか、後でこっそり教えてくれるのすっごい助かってたし! 自分の好きな動画押しつけるのも、他のが分かんないからなの! 嫌がられてるなーってのは分かってたけど、みんな優しいから一緒に見てくれるのありがたかったし、それに……」
麻友は完全な泣き顔になって、芽依の腕を掴んだ。
「芽依、私の推しグッズ分かってなかったのー?」
「べ、勉強したよ! あのグッズはどんなキャラで、相関関係とかネットで調べて! ほら!」
芽依はスマホに保存した、キャラ相関図を見せた。
「は、話が分かんなくなったら、スマホでこれ見ながら聞いてた」
「めい~……」
麻友が泣きながら芽依に抱きつく。
「芽依、私の話、通じてなかったの?」
「つ、通じてたよ! 頑張って、追いつこうとしてた!」
「分かんなかったら、言ってよ~。芽依、ずっと興味ないのかと思ってたぁー」
「きょ、興味はあるんだけど、情報量が多すぎて、すぐには追いつけないだけで……」
芽依はスマホを操作すると、呼び出した画面を麻友に見せた。
「ほ、ほら! 最新作のグッズ、麻友に聞かれてもすぐ分かるように、検索だけはしてるの!」
「私も、芽依はクールな人かと思ってた……」
「え? 千和まで?」
「芽依はいつもクールで冷静で大人っぽくて、うちらみたいな子供っぽいのは、相手してらんないとか思ってるのかと思ってた」
「……。いっつも、ヘンなお笑い動画見ろって送ってんのに?」
三人で三人の顔を見合わす。
私たちは同時に吹き出した。
「あはは! 芽依のオススメ動画、いっつもキャラに合わないなーとは思ってた!」
「うわ、麻友ひど」
「だけど麻友も、可愛い系できてるのに、見てるのは結構グロいのとか好きだよね」
「やっぱ千和は分かってんじゃん。私、可愛いのも好きだけど、病んでる系も好きなんだよね」
「え、麻友って病んでたの?」
「違うよ、芽依。そういう系統ってこと」
「え? 千和、もっとちゃんと分かるように説明して」
「そりゃ千和はなんだってよく知ってるもん。千和なら分かってるよ」
麻友と芽依の好奇心にとんだ目が、私を見つめた。
「……。アレ? ね、うちらって、なんでケンカしてたんだっけ」
芽依が本気で悩み始めたのを、麻友が笑い飛ばす。
「いいじゃん。もうそういうの忘れて、楽しくいこ!」
「そうだね。ま、いっか!」
麻友が私を見上げ、にこっと微笑んだ。
芽依もすっごい可愛い顔で笑ってる。
「私、ここにいてもいい?」
「当然!」
「ずっといていいよ!」
久しぶりに、三人の笑い声が重なった。
何がおかしいのか分からないけど、腹を抱え笑い転げる私たちのところへ、陽菜が声をかけてくる。
「あー。そこの三人、仲直りしたー?」
「したー!」
「したした!」
「もう大丈夫だよー」
玲奈や美琴、愛未も加わると、私たちは久しぶりに賑やかな昼休みを過ごした。
「……。まぁ、そりゃ心配はするよね。友達としては」
芽依は腕組みして背を伸ばし、麻友は真剣な表情を崩さないまま、先を促す。
「で、それが村松くんだったってこと?」
「私も、最初はそうかと思ったんだけど……」
ここから先は、自分のことだけでいい。
余計なことまで、話す必要はない。
私は大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。
「違ってた。その人は村松くんの従兄弟で、もう亡くなってる人だったんだ」
「えっ……?」
スマホの画面を見て誤解したこと。
彼に間違って告白したこと。
私の好きだったネットの人が村松くんではないと分かるまで、互いの行き違いがあったこと。
そういうことを、私は慎重に言葉を選びながら二人に説明した。
「……。じゃあ、もう今は村松くんとの誤解も解けて、その、なんて言うか、和解出来たの?」
ずっと心配してくれていた芽依には、申し訳ないことをした。
「うん。お互いに、いいお友達になれた。……と、私は思ってる。私だけかもだけど」
「千和のよくないところはさぁ!」
それでも麻友また、怒り始めた。
「そうやって、全部自分で自己完結しちゃうところでしょ。千和にしてみれば、私なんか役にも立たないし頼りになんないかもしれないけど、バカにされてんのかと思うとムカつく」
「バカにしてない。そんなの、バカになんて……」
余計なことは言わないように。
相手の気持ちを考えて、どうすれば誰も傷つかないでいられるか、人とぶつからずにすむか。
そうやって生きることが正解で正しくて、上手な大人のやり方だって、思ってた。
そうしておけば、間違いないんだって。
失敗はないんだって。
だけどこれ以上、私は麻友と芽依に、自分を誤魔化したくない。
ずっと自分に嘘をつき続けていたように、これ以上誰にも、自分のことで嘘をつきたくない。
この二人になら、それを打ち明けてもいいような気がした。
「……麻友は……、麻友には分からないんだよ。麻友は可愛くて頭良くてお金持ちの家の子で、人気もあって。他のクラスの子とも上手くやれて。私みたいなのがどれだけ努力して頑張って追いつこうとしてるのか、そういうの分かんないから、そんなことが言えるんだよ。冗談っぽくいうのも、軽く受け答えするのも、全部全部色々考えて言ってんのに、そういうの気にしないでいられるのは、すごくうらやましい」
本当に、そう思っている。
私は食べかけのお弁当の横に、箸をおいた。
「だから、私は一生懸命周りに気をつかって、みんなに合わせて、必死で追いつこうと、置いていかれないよう、努力してて……」
なんでこんな話をしないといけないんだろう。
本当はこんなこと、恥ずかしくて言いたくなかった。
こんな努力、みんなしてて当たり前のことなのに。
その当たり前が出来ないで、弱音を吐いてる自分が恥ずかしい。
「だから、なんの努力もせず、普通にそういうことが出来てる麻友と芽依から見れば、私はもの凄く鈍くて、見ててダルいし、鬱陶しいと思うこともあるんだろうなって……」
あぁ、だからやっぱり、私はダメなんだ。
こんなこと、他人に話すべき内容じゃない。
「ゴメン。やっぱ面倒くさいよね。余計なこと言っちゃった。私、やっぱり一人で……」
「そんなの、私だって思ってるし!」
そう叫んだ麻友の目がなぜか、いつも以上に潤んでいる。
「私は、いっつも千和がうらやましかった! 普通にいい子で、真面目で先生からも気に入られてて! 私には絶対そんなこと出来ないし、どれだけ頑張っても千和にはなれないなって!」
「なんで? 麻友はそのままで十分だよ」
「これでも私は、必死で作ってんの! 自分をよく見せたいと思って頑張るのって、そんなに悪いこと?」
「麻友は普通に楽しく、努力とか関係なしにそういうこと出来ちゃう人かと思ってた」
「必死で努力してます! そう見えないように、頑張って努力隠して、何でもないように見せる努力もしてます!」
麻友の勢いに負けることなく、芽依まで身を乗り出した。
「私だってそうだよ! あんま流行モノ興味ないフリしてるのは、本当に興味ないんじゃなくて、数とか種類が多すぎて、ついていけないからだし! だから、千和が麻友の持ってるグッズとか、後でこっそり教えてくれるのすっごい助かってたし! 自分の好きな動画押しつけるのも、他のが分かんないからなの! 嫌がられてるなーってのは分かってたけど、みんな優しいから一緒に見てくれるのありがたかったし、それに……」
麻友は完全な泣き顔になって、芽依の腕を掴んだ。
「芽依、私の推しグッズ分かってなかったのー?」
「べ、勉強したよ! あのグッズはどんなキャラで、相関関係とかネットで調べて! ほら!」
芽依はスマホに保存した、キャラ相関図を見せた。
「は、話が分かんなくなったら、スマホでこれ見ながら聞いてた」
「めい~……」
麻友が泣きながら芽依に抱きつく。
「芽依、私の話、通じてなかったの?」
「つ、通じてたよ! 頑張って、追いつこうとしてた!」
「分かんなかったら、言ってよ~。芽依、ずっと興味ないのかと思ってたぁー」
「きょ、興味はあるんだけど、情報量が多すぎて、すぐには追いつけないだけで……」
芽依はスマホを操作すると、呼び出した画面を麻友に見せた。
「ほ、ほら! 最新作のグッズ、麻友に聞かれてもすぐ分かるように、検索だけはしてるの!」
「私も、芽依はクールな人かと思ってた……」
「え? 千和まで?」
「芽依はいつもクールで冷静で大人っぽくて、うちらみたいな子供っぽいのは、相手してらんないとか思ってるのかと思ってた」
「……。いっつも、ヘンなお笑い動画見ろって送ってんのに?」
三人で三人の顔を見合わす。
私たちは同時に吹き出した。
「あはは! 芽依のオススメ動画、いっつもキャラに合わないなーとは思ってた!」
「うわ、麻友ひど」
「だけど麻友も、可愛い系できてるのに、見てるのは結構グロいのとか好きだよね」
「やっぱ千和は分かってんじゃん。私、可愛いのも好きだけど、病んでる系も好きなんだよね」
「え、麻友って病んでたの?」
「違うよ、芽依。そういう系統ってこと」
「え? 千和、もっとちゃんと分かるように説明して」
「そりゃ千和はなんだってよく知ってるもん。千和なら分かってるよ」
麻友と芽依の好奇心にとんだ目が、私を見つめた。
「……。アレ? ね、うちらって、なんでケンカしてたんだっけ」
芽依が本気で悩み始めたのを、麻友が笑い飛ばす。
「いいじゃん。もうそういうの忘れて、楽しくいこ!」
「そうだね。ま、いっか!」
麻友が私を見上げ、にこっと微笑んだ。
芽依もすっごい可愛い顔で笑ってる。
「私、ここにいてもいい?」
「当然!」
「ずっといていいよ!」
久しぶりに、三人の笑い声が重なった。
何がおかしいのか分からないけど、腹を抱え笑い転げる私たちのところへ、陽菜が声をかけてくる。
「あー。そこの三人、仲直りしたー?」
「したー!」
「したした!」
「もう大丈夫だよー」
玲奈や美琴、愛未も加わると、私たちは久しぶりに賑やかな昼休みを過ごした。



