私たちは同じ人を好きになって、同じように叶わなかった仲間同士だ。
誰も悪くなくて、誰を恨むことも出来なくて、それでもいつか、この想いを乗り越えていかなくてはいけない。
ひとしきり泣いて、ようやく落ち着いた頃には、時刻は登校時間に迫っていた。
「……。望月さん、制服だよね。これから学校行くの?」
「行くでしょ。村松くんだって制服じゃん」
「そりゃだって……」
学校をサボるわけにはいかない。
私は単純にそういう性格で、村松くんにはサボれない理由がある。
彼はSORAと一緒に、高校に通っているからだ。
「学校、行きたくない時だってあるけどね」
村松くんの手が、繋いでいた私の手を握りなおした。
「ねぇ、俺が真尋のこと好きだって、望月さんにバラされた仕返ししていい?」
「え、なに?」
「小西さんと、何があったの?」
「うっ……」
小西さんとは、麻友のことだ。
「守屋さんともさ、仲良かったのに。なんでケンカした?」
「ケンカじゃない。そんなんじゃないから」
「へー。今さら俺に、そんなウソつくんだ」
ウソじゃない。
アレがケンカかと聞かれれば、ケンカではないと思う。
だけど、ケンカじゃないとしたら、なんなんだろう。
「仲直り、した方がいいと思うよ」
「そんなこと、村松くんに関係ないし!」
思わず叫んだ私に、村松くんは思いきり笑った。
「あはは。望月さんって、こんな面白い人だったんだ」
彼は手を繋いだまま、私をベンチから引き上げる。
「ほら。一緒に学校行こ。俺がついててやるから」
「すっごい頼りないんだけど」
「それでも、いないよりマシじゃね?」
小学校の遠足の時みたいに、私たちは手を繋いだまま電車に乗った。
さすがに学校につく頃には自然に離れていたけど、それでも一緒に校門をくぐり教室までの階段を上る。
「ここからは、自分で何とかしろよ」
扉の前で立ち止まり、ニッと笑った彼に、私は引くに引けなくなってしまった。
とりあえず彼より先に足を踏み入れた教室は、もうすでに登校してきたクラスメイトたちでいっぱいになっていた。
その中に、麻友と芽依の姿も見える。
一瞬麻友と目が合って、すぐに彼女は私から目をそらした。
今までならそれだけで腹を立てていただろうけど、今朝は村松くんに叱られたせいか、それほど不愉快ではない。
てゆーか、叱られた?
私が?
私は、叱られたのかな。
自分の席につくと、村松くんが遠くからこちらを見ていた。
ワザとらしく「頑張れ」と親指を立てる仕草に、少しムッとする。
頑張れと言われても、何をどう頑張っていいのやら……。
すぐに始まったホームルームはとても平和で、そのあとに始まる一時間目の授業も二時間目の授業も、何事もなく無事に終わった。
学校って、何もなければこんなにも簡単にあっさりと進んでいくものなんだと知った。
休み時間、村松くんはいつもの通り、友達と楽しそうに過ごしていて、私は一人イヤホンを耳に差しスマホを眺めている。
きっとこのままスマホを眺め続けていれば、私は望み通り何事もないまま、高校を卒業してしまえるだろう。
それも悪くないと思う自分もいる。
だけど……。
昼休みになって、私はお弁当の蓋を開けた。
閑散とした教室に一人で座り、冷えて固まったご飯にふりかけをかけ箸を通す。
麻友は陽菜たちのグループに入るのかと思っていたけど、まだ芽依と二人でお弁当を食べていた。
つい数日前まで、私はそんな二人の間にいたのに。
冷食のえびコロッケを半分に割って、口に運ぶ。
それは絶対に変わらない、間違いのない味がした。
私は机に置いたスマホ画面を指でなぞる。
手癖となってしまっているSORAのアカウントを開いた。
『今日も明日も、永久に同じ日が続くなら、このまま生きていられるだろうか。何も変わらないということは、自分も変わらないということだから』
今日と同じ日が続くなら、確かに真尋さんは生きていられたかもしれない。
だけど、何も変わらなかったら、彼の病気は治らない。
永遠に同じ病にかかったまま、苦しみ続けるだけだ!
私は自分の席から勢いよく立ち上がった。
食べかけのお弁当の蓋を閉め包み直すと、それを持って麻友たちのところへ突き進む。
「ねぇ! 私もここで、お弁当食べていい?」
二人とも目をまん丸にし、半分口を開けたまま私を見上げた。
かと思った瞬間、麻友は見慣れた不機嫌を顕わにし、芽依は腹を抱え思い切り笑い転げる。
「なに? なんなの千和は!」
「あはは。いいよ、いいよ。一緒に食べよ」
麻友はあからさまに腹を立てていたけど、芽依は私のための席を用意してくれた。
「ねー。昨日あがってた動画が、めちゃくちゃ面白くてさぁー」
芽依はこれまでのことなんて何もなかったように、サンドウィッチをかじりながらスマホを開く。
私がお弁当を広げ黙々と食べ始めるのを、麻友は思いっきりイライラしながらにらみつけていた。
私のスマホに、ポコンと芽依から送られてきたメッセージが浮かび上がる。
『で? なんでケンカしてたんだっけ?』
ヤバい。
何にも考えてなかった。
勢いでここまで来てしまった。
謝らないといけないこと。
話さないといけないこと。
キチンと整理してまとめておかないといけなかったのに、そんなことすら忘れていた。
「私が! ……。えっと……わた、私が……、わた……」
いつもなら何をどう説明して、こう言われたらあぁ言おう、こう返されたらこう言おうって、何度も何度もシミュレーションをしてから話しかけるのに、大事なところですっかりそれを忘れるなんて。
だから私は……。
「ゴメン。やっぱり、あっちで食べるね」
広げたお弁当の包みを、慌てて片付け始める。
「ちょ、千和! まっ……」
芽依が私のランチクロスの端を掴むと同時に、麻友が叫んだ。
「ゴメンね!」
麻友は誰とも目を合わせずうつむいたまま、一気にまくしたてる。
「別に千和が、誰のこと好きでも関係ないし! 私は千和のこと、からかうつもりなんか全然なくて、むしろストーカーしてるとか、そんなこと言ってないし! 勝手な誤解されて、そのままにしたくなかっただけだから!」
「……。ねぇ、待って麻友……」
今度は麻友の方が、勢いよくお弁当を食べ始めた。
余りにも勢いよくかき込むものだから、すぐにむせて咳き込み始める。
芽依はそんな麻友に、彼女の飲んでいた水を差しだした。
「麻友は、球技大会のことで怒ってるんじゃなかったの?」
「は? なにそれ」
「私が、ちゃんとバスケの練習に出なかったから……」
麻友と芽依は顔を見合わせた。
とたんに芽依は大きなため息を吐いて椅子にグダリと倒れ、麻友はまた怒り始める。
「球技た、バスケのことは! 確かにそうだけど、千和の練習を私が邪魔して……、てゆーか、千和は私のこと怒ってたんじゃないの!」
「なんで? なんで私が麻友のこと怒るの?」
「千和の練習を奪ってたから」
「……。別に、そんなこと気にしてないよ。むしろ麻友を付き合わせて、悪いことしてるなーって、ずっと思ってたよ」
芽依は盛大に息を吐き出し、机に突っ伏していた上体を持ち上げる。
「うんうん。そうだろうね。千和は勝ち負けより、流れとか空気を大事にするタイプだから」
ようやく麻友と目が合った。
彼女は真顔で私を見つめる。
「じゃあなに? 全部誤解だったってこと? てかなんで、ケンカしてたんだっけ?」
「知らないよ。麻友が最初に怒りはじめたんじゃん」
「怒ってないし」
「怒ってたよ」
「何に!」
「私に!」
いつだって、麻友と芽依は不機嫌だった。
彼女たちに合わせようと、必死だった。
「怒ってないよ」
二人は本当に不思議そうな顔をして、ポカンと私を見ている。
「え、なんで? 千和に怒るようなことある?」
「こんな優等生に、腹立てる人いないでしょ」
「むしろうちらの方が、ついていくの必死だったよ」
「もしかして千和、本気でうちらから嫌われてると思ってたの?」
二人の視線が、私に注がれる。
涙ぐみうつむいた私に、二人が抱きついた。
「やだ! そっちの方が誤解だよ~! ショック!」
「ねぇ、友達じゃないなんて、本気で言わないよね」
それは私の方こそ、ちゃんと聞いておきたいことだった。
「私のこと、嫌いじゃないの?」
「全然!」
二人の声が重なってこだまする。
泣き出した私の頭を、二人はくしゃくしゃにした。
「よかったぁ~!」
「当然だよ」
嬉しい。
その言葉を聞けただけで、勇気を出したかいがあった。
「でさ、先に聞いとくけど、村松くんとは、なんだったの?」
芽依がサラサラと流れる長い髪をかきあげる。
やっぱりその説明は、しなきゃダメだよね。
だけど……。
「私、好きな人がいたの」
「……。うん」
麻友がうなずいた。
二人はじっと私の言葉を待ってくれている。
誰も悪くなくて、誰を恨むことも出来なくて、それでもいつか、この想いを乗り越えていかなくてはいけない。
ひとしきり泣いて、ようやく落ち着いた頃には、時刻は登校時間に迫っていた。
「……。望月さん、制服だよね。これから学校行くの?」
「行くでしょ。村松くんだって制服じゃん」
「そりゃだって……」
学校をサボるわけにはいかない。
私は単純にそういう性格で、村松くんにはサボれない理由がある。
彼はSORAと一緒に、高校に通っているからだ。
「学校、行きたくない時だってあるけどね」
村松くんの手が、繋いでいた私の手を握りなおした。
「ねぇ、俺が真尋のこと好きだって、望月さんにバラされた仕返ししていい?」
「え、なに?」
「小西さんと、何があったの?」
「うっ……」
小西さんとは、麻友のことだ。
「守屋さんともさ、仲良かったのに。なんでケンカした?」
「ケンカじゃない。そんなんじゃないから」
「へー。今さら俺に、そんなウソつくんだ」
ウソじゃない。
アレがケンカかと聞かれれば、ケンカではないと思う。
だけど、ケンカじゃないとしたら、なんなんだろう。
「仲直り、した方がいいと思うよ」
「そんなこと、村松くんに関係ないし!」
思わず叫んだ私に、村松くんは思いきり笑った。
「あはは。望月さんって、こんな面白い人だったんだ」
彼は手を繋いだまま、私をベンチから引き上げる。
「ほら。一緒に学校行こ。俺がついててやるから」
「すっごい頼りないんだけど」
「それでも、いないよりマシじゃね?」
小学校の遠足の時みたいに、私たちは手を繋いだまま電車に乗った。
さすがに学校につく頃には自然に離れていたけど、それでも一緒に校門をくぐり教室までの階段を上る。
「ここからは、自分で何とかしろよ」
扉の前で立ち止まり、ニッと笑った彼に、私は引くに引けなくなってしまった。
とりあえず彼より先に足を踏み入れた教室は、もうすでに登校してきたクラスメイトたちでいっぱいになっていた。
その中に、麻友と芽依の姿も見える。
一瞬麻友と目が合って、すぐに彼女は私から目をそらした。
今までならそれだけで腹を立てていただろうけど、今朝は村松くんに叱られたせいか、それほど不愉快ではない。
てゆーか、叱られた?
私が?
私は、叱られたのかな。
自分の席につくと、村松くんが遠くからこちらを見ていた。
ワザとらしく「頑張れ」と親指を立てる仕草に、少しムッとする。
頑張れと言われても、何をどう頑張っていいのやら……。
すぐに始まったホームルームはとても平和で、そのあとに始まる一時間目の授業も二時間目の授業も、何事もなく無事に終わった。
学校って、何もなければこんなにも簡単にあっさりと進んでいくものなんだと知った。
休み時間、村松くんはいつもの通り、友達と楽しそうに過ごしていて、私は一人イヤホンを耳に差しスマホを眺めている。
きっとこのままスマホを眺め続けていれば、私は望み通り何事もないまま、高校を卒業してしまえるだろう。
それも悪くないと思う自分もいる。
だけど……。
昼休みになって、私はお弁当の蓋を開けた。
閑散とした教室に一人で座り、冷えて固まったご飯にふりかけをかけ箸を通す。
麻友は陽菜たちのグループに入るのかと思っていたけど、まだ芽依と二人でお弁当を食べていた。
つい数日前まで、私はそんな二人の間にいたのに。
冷食のえびコロッケを半分に割って、口に運ぶ。
それは絶対に変わらない、間違いのない味がした。
私は机に置いたスマホ画面を指でなぞる。
手癖となってしまっているSORAのアカウントを開いた。
『今日も明日も、永久に同じ日が続くなら、このまま生きていられるだろうか。何も変わらないということは、自分も変わらないということだから』
今日と同じ日が続くなら、確かに真尋さんは生きていられたかもしれない。
だけど、何も変わらなかったら、彼の病気は治らない。
永遠に同じ病にかかったまま、苦しみ続けるだけだ!
私は自分の席から勢いよく立ち上がった。
食べかけのお弁当の蓋を閉め包み直すと、それを持って麻友たちのところへ突き進む。
「ねぇ! 私もここで、お弁当食べていい?」
二人とも目をまん丸にし、半分口を開けたまま私を見上げた。
かと思った瞬間、麻友は見慣れた不機嫌を顕わにし、芽依は腹を抱え思い切り笑い転げる。
「なに? なんなの千和は!」
「あはは。いいよ、いいよ。一緒に食べよ」
麻友はあからさまに腹を立てていたけど、芽依は私のための席を用意してくれた。
「ねー。昨日あがってた動画が、めちゃくちゃ面白くてさぁー」
芽依はこれまでのことなんて何もなかったように、サンドウィッチをかじりながらスマホを開く。
私がお弁当を広げ黙々と食べ始めるのを、麻友は思いっきりイライラしながらにらみつけていた。
私のスマホに、ポコンと芽依から送られてきたメッセージが浮かび上がる。
『で? なんでケンカしてたんだっけ?』
ヤバい。
何にも考えてなかった。
勢いでここまで来てしまった。
謝らないといけないこと。
話さないといけないこと。
キチンと整理してまとめておかないといけなかったのに、そんなことすら忘れていた。
「私が! ……。えっと……わた、私が……、わた……」
いつもなら何をどう説明して、こう言われたらあぁ言おう、こう返されたらこう言おうって、何度も何度もシミュレーションをしてから話しかけるのに、大事なところですっかりそれを忘れるなんて。
だから私は……。
「ゴメン。やっぱり、あっちで食べるね」
広げたお弁当の包みを、慌てて片付け始める。
「ちょ、千和! まっ……」
芽依が私のランチクロスの端を掴むと同時に、麻友が叫んだ。
「ゴメンね!」
麻友は誰とも目を合わせずうつむいたまま、一気にまくしたてる。
「別に千和が、誰のこと好きでも関係ないし! 私は千和のこと、からかうつもりなんか全然なくて、むしろストーカーしてるとか、そんなこと言ってないし! 勝手な誤解されて、そのままにしたくなかっただけだから!」
「……。ねぇ、待って麻友……」
今度は麻友の方が、勢いよくお弁当を食べ始めた。
余りにも勢いよくかき込むものだから、すぐにむせて咳き込み始める。
芽依はそんな麻友に、彼女の飲んでいた水を差しだした。
「麻友は、球技大会のことで怒ってるんじゃなかったの?」
「は? なにそれ」
「私が、ちゃんとバスケの練習に出なかったから……」
麻友と芽依は顔を見合わせた。
とたんに芽依は大きなため息を吐いて椅子にグダリと倒れ、麻友はまた怒り始める。
「球技た、バスケのことは! 確かにそうだけど、千和の練習を私が邪魔して……、てゆーか、千和は私のこと怒ってたんじゃないの!」
「なんで? なんで私が麻友のこと怒るの?」
「千和の練習を奪ってたから」
「……。別に、そんなこと気にしてないよ。むしろ麻友を付き合わせて、悪いことしてるなーって、ずっと思ってたよ」
芽依は盛大に息を吐き出し、机に突っ伏していた上体を持ち上げる。
「うんうん。そうだろうね。千和は勝ち負けより、流れとか空気を大事にするタイプだから」
ようやく麻友と目が合った。
彼女は真顔で私を見つめる。
「じゃあなに? 全部誤解だったってこと? てかなんで、ケンカしてたんだっけ?」
「知らないよ。麻友が最初に怒りはじめたんじゃん」
「怒ってないし」
「怒ってたよ」
「何に!」
「私に!」
いつだって、麻友と芽依は不機嫌だった。
彼女たちに合わせようと、必死だった。
「怒ってないよ」
二人は本当に不思議そうな顔をして、ポカンと私を見ている。
「え、なんで? 千和に怒るようなことある?」
「こんな優等生に、腹立てる人いないでしょ」
「むしろうちらの方が、ついていくの必死だったよ」
「もしかして千和、本気でうちらから嫌われてると思ってたの?」
二人の視線が、私に注がれる。
涙ぐみうつむいた私に、二人が抱きついた。
「やだ! そっちの方が誤解だよ~! ショック!」
「ねぇ、友達じゃないなんて、本気で言わないよね」
それは私の方こそ、ちゃんと聞いておきたいことだった。
「私のこと、嫌いじゃないの?」
「全然!」
二人の声が重なってこだまする。
泣き出した私の頭を、二人はくしゃくしゃにした。
「よかったぁ~!」
「当然だよ」
嬉しい。
その言葉を聞けただけで、勇気を出したかいがあった。
「でさ、先に聞いとくけど、村松くんとは、なんだったの?」
芽依がサラサラと流れる長い髪をかきあげる。
やっぱりその説明は、しなきゃダメだよね。
だけど……。
「私、好きな人がいたの」
「……。うん」
麻友がうなずいた。
二人はじっと私の言葉を待ってくれている。



