廊下の突き当たりで足がとまり、階段を見上げた。
この上の踊り場なら、めったに誰も来ないし、人目にもつかない。
ここに隠れていれば、今日一日くらいは……。
「望月さん? どうしたの?」
国語表現の、早川に見つかった。
次の授業はうちのクラスじゃないけど、階段の下から不思議そうに私を見上げている。
「ほら、もう授業が始まるんだから。早く教室戻んなさい」
「……。はい」
「全く、なにやってんの」
先生にまで、ため息をつかれた。
本当に、なにやってんだろ。
私は恥ずかしい人間だ。
何をやっても上手くいかないし、失敗と間違いばかりを延々とくり返している。
結局為す術もなく、自分の教室に戻ってきてしまった。
教卓の前にはすでに数学の河野がいて、遅れて入ってきた私をじろりとにらみつける。
クラス中から漏れるクスクスという冷たい笑い声も、先生には単なる遅刻に対する冷やかしにしか聞こえなかっただろう。
村松くんの横を通り過ぎた時、彼は頬杖をついたまま前を見つめ、微動だにしなかった。
私は笑い者にされたまま、彼のすぐ後ろにある自分の席につくと、大人しく教科書を広げる。
教室中の視線が、自分に集まっている気がした。
授業が始まっても、集中なんて出来ない。
目の前にあるSORAの背中が、果てしなく遠く感じる。
手を伸ばせば届くかもしれないと思えた空は、絶対に触れることの出来ない空のままだった。
涙がこぼれそうになるのを、ただ耐え続けるだけの時間が過ぎてゆく。
休み時間になっても、私は自分の席から動くことが出来ず、昼休みもその場所で一人お弁当を食べた。
一人で過ごす昼休みは、想像以上に時間が余る。
スマホを開くと、ラインのバスケグループが解散されていた。
きっと私以外の他のメンバーで、新しく作り直したのだろう。
麻友からのメッセージが一つ届いていた。
『陽菜たちと話し合ったんだけど、千和バスケやりたくないみたいだったから、体育委員に相談して、メンバーを私と交代してもらうことにしました。これまで無理矢理付き合わせてごめんね。もう練習来なくていいから。ドッチボール頑張ってください』
白々しいとは、まさにこのことだ。
その場にスマホを叩きつけてやりたくなったけど、そうしなかったのはまだ私に理性が残っていたから。
こんなことくらいでスマホを壊してダメにするほうが、バカだと思う。
もったいない。
無駄すぎる。
私は席を立ち窓際へ向かうと、教室のベランダに出た。
その付近にいた男子も女子も自然と場所を空けてくれたから、助かる。
そういえば、村松くんはどこに行ったんだろう。
授業中の背中しか今日は見ていない。
昼休みになって教室を出て行ったきり、彼をどこにも見かけなかった。
見上げた空はいつものように高く青く清んでいて、この清らかな空のようになりたいと思っていた自分が、間違いだったと気づいた。
私はこんなにも汚くて惨めで情けない人間だから、綺麗な空に憧れていただけだった。
なれないものになりたいと、高望みをしすぎた結果がこれだ。
分かっていたはずなのに、全然分かってなかった。
空の画像を撮りたかったけど、自分なんかがこれ以上盗ってはいけない気がして、撮るのをやめた。
村松くんはまだSORAのアカウントで私をブロックしたまま、解除していない。
「男子に嫌われる女子とか、ありえないよね。なにやったの」
「さぁ。よっぽど言えないことなんじゃない?」
「こわーい」
そんな笑い声が背中から聞こえ、私はベランダの手すりを強く握り締めた。
それでも顔を高くあげ、得意な作り笑いを浮かべたら、ワザとリラックスしたような空気を出す。
こんなことくらいで、泣いたり落ち込んだりしない。
だってこれは、私が悪くて招いた結果だから。
当然の反応でしかない。
もし私が泣くことがあるとしたら、それはもっと別のことでだ。
軽く汗ばむような気温の中、二階にある教室のベランダから見下ろす花壇の前で、村松くんたちがバレーをしていた。
いつも一緒にいる田中くんと横山くんも一緒だから、彼もちゃんと楽しそうにしている。
男の子たちの賑やかな声まで聞こえてこなくても、はしゃいでいる表情を見るだけでホッとする。
私がクラスで浮いていても、彼が穏やかに過ごせるなら、それでいい。
その村松くんと、目が合った。
じっと見上げるその顔は、思い詰めたような表情をしていて、私にはそれがとても苦しげに見えた。
すぐに他の男子から声をかけられ、いつもの笑顔に戻りバレーを再開したけれど、その表情のぎこちない変化の仕方には、身に覚えがありすぎる。
私が無理している時と同じだ。
私はポケットからスマホを取り出すと、彼のラインにメッセージを送った。
何てことのない、意味のないスタンプ。
踊っているうさぎのスタンプだ。
通知音に気づいたSORAは、バレーの輪を抜け出し、ズボンのポケットからスマホを取りだした。
画面を見るなり、二階のベランダにいる私を見上げる。
私はすかさず用意してあった次のメッセージを送った。
『困っていることがあったら、何でも相談して。私はSORAの味方だから』
画面に、既読の文字がついた。
村松くんは、それをそのままポケットにしまう。
え? まさかの既読無視?
しかもいま自分は校庭にいて、ベランダに出てる私とも目を合わせてたよね?
許せない!
私の中から烈火のごとく湧き上がったのは、純粋な怒りだ。
私の知っているSORAは、こんな人じゃない。
もっと優しくて、人の痛みや苦しみを理解している人だ!
しかもよく考えてみれば、私がクラスで浮いてしまったのは、村松くんに怒鳴られたからだ。
怒られるようなことをした私も悪かったけど、じゃあなんでそんなに怒ったの?
私は村松くんに知られていないサブアカウントで、SORAを検索した。
ブロックされていないアカウントは、当然のごとく本人にたどり着く。
『自分が生きている限り、この苦しみは消えない。手が届く範囲の小さな幸せですら、空のように触れることが出来ない。当たり前にそこに見えているのに』
なにが「手の届く範囲の小さな幸せ」だ。
「見えているのに触れることが出来ない」だ。
自分が見ようとも触ろうともしないで、本当にただ垂れ流しているだけのポエムだったっていうの?
私が信じ、共感し、救われた言葉を、今さら嘘や偽りになんてさせない。
『もっと自由に動けたなら、どこまでも自由でいたい。やりたいこと、やれないこと。全部やる』
そう言っていたのは、SORA自身だ。
なににどうして、自分ではしようとしないの?
私はその言葉をポケットに放りこむと、駆け出した。
教室を飛び出し、階段をすっ飛ばして校庭に殴り込む。
息を切らせて現れた私に、否応なくバレーをしていた男の子たちは気づいた。
「望月? やべーな」
「葉月のストーカーしてんの?」
「こわー」
誰に何を言われても、それがSORAの言葉でないのなら、私にとってただの雑音でしかない。
「村松くん。ちょっと話があるんだけど」
「俺はねーよ」
間もなく昼休みが終わる。
バレーの円陣から抜け出した村松くんは、私から逃げるように背を向けた。
両手をポケットに突っ込み、スタスタと歩き始める。
「待って。どこ行くの?」
彼からの返事はない。
一人歩き出した村松くんの後を、私はすぐさま追いかけた。
「友達になってくれるって言ったよね? あれは嘘だったの?」
「友達だからって、全部の友達と仲いいワケじゃないだろ」
「じゃあ仲良くなって。私は村松くんのことが知りたい」
「もう十分知ってんじゃん」
「知らない。全然知らない!」
だって、印象が全く違う。
ネットの中の彼と現実の彼が、全然同じに見えない。
それは多分、彼が私と同じだから。
彼は自分が嫌い。
私も自分自身が大嫌い。
村松くんは校舎の中に入ると、靴箱の前で革靴から上靴に履きかえ始めている。
その隣で、私も自分の靴を脱いだ。
「私のアカウントで、SORAが見られなくなってるんだけど」
「は? 知らねぇよ」
「ブロックしてるでしょ。お願い。解除して」
「だから知らないって」
「私は好きって言った」
私はあなたと対立しない。
あなたに危害を加えるつもりも、意地悪も、くだらないイタズラも、笑って嫌がらせするつもりだってない。
「だから、信じてほしい。私は味方だって」
ガン! と鋭い金属音がして、村松くんは自分の靴箱の扉を拳で殴りつけていた。
錆びだらけの歪んだ扉が、ますますぶかっこうに強くヘコんでいる。
「テメー、いい加減にしろ。次に俺に話しかけたら、マジでぶっとばすからな」
そんな脅しが本気でないことくらい、私は気づいている。
もし本当にそんなことをしたら、私は全身から血を流したまま職員室へ飛び込み警察にも行って、思いっきり泣いて騒いでこの人を悪人に仕立て上げ、停学に追い込んでやる。
「お願い。誤解しないでほしい。私はちゃんと、普通に話がしたいだけなの。天気の話とか学校であったこととか、昨日食べたものとか。それだけでいいの」
彼は自分の上履きを床に投げ捨てると、乱暴に靴を履きかえ、外靴をボロボロの靴箱へ投げ入れた。
本音を言うと、そんな彼が怖い。
だけど言わずにはいられない。
「会いたかったの。ずっと。SORAがどんな人なのか、知れてうれしいの」
彼の上靴が、傘立ての骨組みを思い切り蹴りつけた。
校庭から引き上げてきたバレー仲間の男子が、私に聞かせるための独り言を残してゆく。
「あ~ぁ。葉月がこんだけキレるとか、珍し」
「なんか知らんけど怒ってるし、これ以上関わらないほうがいいんじゃね?」
彼と仲のいい田中くんと横山くんが、私を追い越してゆく。
だけど彼らは分かっていない。
私が村松くん以上に、怒りに満ちていることを。
この上の踊り場なら、めったに誰も来ないし、人目にもつかない。
ここに隠れていれば、今日一日くらいは……。
「望月さん? どうしたの?」
国語表現の、早川に見つかった。
次の授業はうちのクラスじゃないけど、階段の下から不思議そうに私を見上げている。
「ほら、もう授業が始まるんだから。早く教室戻んなさい」
「……。はい」
「全く、なにやってんの」
先生にまで、ため息をつかれた。
本当に、なにやってんだろ。
私は恥ずかしい人間だ。
何をやっても上手くいかないし、失敗と間違いばかりを延々とくり返している。
結局為す術もなく、自分の教室に戻ってきてしまった。
教卓の前にはすでに数学の河野がいて、遅れて入ってきた私をじろりとにらみつける。
クラス中から漏れるクスクスという冷たい笑い声も、先生には単なる遅刻に対する冷やかしにしか聞こえなかっただろう。
村松くんの横を通り過ぎた時、彼は頬杖をついたまま前を見つめ、微動だにしなかった。
私は笑い者にされたまま、彼のすぐ後ろにある自分の席につくと、大人しく教科書を広げる。
教室中の視線が、自分に集まっている気がした。
授業が始まっても、集中なんて出来ない。
目の前にあるSORAの背中が、果てしなく遠く感じる。
手を伸ばせば届くかもしれないと思えた空は、絶対に触れることの出来ない空のままだった。
涙がこぼれそうになるのを、ただ耐え続けるだけの時間が過ぎてゆく。
休み時間になっても、私は自分の席から動くことが出来ず、昼休みもその場所で一人お弁当を食べた。
一人で過ごす昼休みは、想像以上に時間が余る。
スマホを開くと、ラインのバスケグループが解散されていた。
きっと私以外の他のメンバーで、新しく作り直したのだろう。
麻友からのメッセージが一つ届いていた。
『陽菜たちと話し合ったんだけど、千和バスケやりたくないみたいだったから、体育委員に相談して、メンバーを私と交代してもらうことにしました。これまで無理矢理付き合わせてごめんね。もう練習来なくていいから。ドッチボール頑張ってください』
白々しいとは、まさにこのことだ。
その場にスマホを叩きつけてやりたくなったけど、そうしなかったのはまだ私に理性が残っていたから。
こんなことくらいでスマホを壊してダメにするほうが、バカだと思う。
もったいない。
無駄すぎる。
私は席を立ち窓際へ向かうと、教室のベランダに出た。
その付近にいた男子も女子も自然と場所を空けてくれたから、助かる。
そういえば、村松くんはどこに行ったんだろう。
授業中の背中しか今日は見ていない。
昼休みになって教室を出て行ったきり、彼をどこにも見かけなかった。
見上げた空はいつものように高く青く清んでいて、この清らかな空のようになりたいと思っていた自分が、間違いだったと気づいた。
私はこんなにも汚くて惨めで情けない人間だから、綺麗な空に憧れていただけだった。
なれないものになりたいと、高望みをしすぎた結果がこれだ。
分かっていたはずなのに、全然分かってなかった。
空の画像を撮りたかったけど、自分なんかがこれ以上盗ってはいけない気がして、撮るのをやめた。
村松くんはまだSORAのアカウントで私をブロックしたまま、解除していない。
「男子に嫌われる女子とか、ありえないよね。なにやったの」
「さぁ。よっぽど言えないことなんじゃない?」
「こわーい」
そんな笑い声が背中から聞こえ、私はベランダの手すりを強く握り締めた。
それでも顔を高くあげ、得意な作り笑いを浮かべたら、ワザとリラックスしたような空気を出す。
こんなことくらいで、泣いたり落ち込んだりしない。
だってこれは、私が悪くて招いた結果だから。
当然の反応でしかない。
もし私が泣くことがあるとしたら、それはもっと別のことでだ。
軽く汗ばむような気温の中、二階にある教室のベランダから見下ろす花壇の前で、村松くんたちがバレーをしていた。
いつも一緒にいる田中くんと横山くんも一緒だから、彼もちゃんと楽しそうにしている。
男の子たちの賑やかな声まで聞こえてこなくても、はしゃいでいる表情を見るだけでホッとする。
私がクラスで浮いていても、彼が穏やかに過ごせるなら、それでいい。
その村松くんと、目が合った。
じっと見上げるその顔は、思い詰めたような表情をしていて、私にはそれがとても苦しげに見えた。
すぐに他の男子から声をかけられ、いつもの笑顔に戻りバレーを再開したけれど、その表情のぎこちない変化の仕方には、身に覚えがありすぎる。
私が無理している時と同じだ。
私はポケットからスマホを取り出すと、彼のラインにメッセージを送った。
何てことのない、意味のないスタンプ。
踊っているうさぎのスタンプだ。
通知音に気づいたSORAは、バレーの輪を抜け出し、ズボンのポケットからスマホを取りだした。
画面を見るなり、二階のベランダにいる私を見上げる。
私はすかさず用意してあった次のメッセージを送った。
『困っていることがあったら、何でも相談して。私はSORAの味方だから』
画面に、既読の文字がついた。
村松くんは、それをそのままポケットにしまう。
え? まさかの既読無視?
しかもいま自分は校庭にいて、ベランダに出てる私とも目を合わせてたよね?
許せない!
私の中から烈火のごとく湧き上がったのは、純粋な怒りだ。
私の知っているSORAは、こんな人じゃない。
もっと優しくて、人の痛みや苦しみを理解している人だ!
しかもよく考えてみれば、私がクラスで浮いてしまったのは、村松くんに怒鳴られたからだ。
怒られるようなことをした私も悪かったけど、じゃあなんでそんなに怒ったの?
私は村松くんに知られていないサブアカウントで、SORAを検索した。
ブロックされていないアカウントは、当然のごとく本人にたどり着く。
『自分が生きている限り、この苦しみは消えない。手が届く範囲の小さな幸せですら、空のように触れることが出来ない。当たり前にそこに見えているのに』
なにが「手の届く範囲の小さな幸せ」だ。
「見えているのに触れることが出来ない」だ。
自分が見ようとも触ろうともしないで、本当にただ垂れ流しているだけのポエムだったっていうの?
私が信じ、共感し、救われた言葉を、今さら嘘や偽りになんてさせない。
『もっと自由に動けたなら、どこまでも自由でいたい。やりたいこと、やれないこと。全部やる』
そう言っていたのは、SORA自身だ。
なににどうして、自分ではしようとしないの?
私はその言葉をポケットに放りこむと、駆け出した。
教室を飛び出し、階段をすっ飛ばして校庭に殴り込む。
息を切らせて現れた私に、否応なくバレーをしていた男の子たちは気づいた。
「望月? やべーな」
「葉月のストーカーしてんの?」
「こわー」
誰に何を言われても、それがSORAの言葉でないのなら、私にとってただの雑音でしかない。
「村松くん。ちょっと話があるんだけど」
「俺はねーよ」
間もなく昼休みが終わる。
バレーの円陣から抜け出した村松くんは、私から逃げるように背を向けた。
両手をポケットに突っ込み、スタスタと歩き始める。
「待って。どこ行くの?」
彼からの返事はない。
一人歩き出した村松くんの後を、私はすぐさま追いかけた。
「友達になってくれるって言ったよね? あれは嘘だったの?」
「友達だからって、全部の友達と仲いいワケじゃないだろ」
「じゃあ仲良くなって。私は村松くんのことが知りたい」
「もう十分知ってんじゃん」
「知らない。全然知らない!」
だって、印象が全く違う。
ネットの中の彼と現実の彼が、全然同じに見えない。
それは多分、彼が私と同じだから。
彼は自分が嫌い。
私も自分自身が大嫌い。
村松くんは校舎の中に入ると、靴箱の前で革靴から上靴に履きかえ始めている。
その隣で、私も自分の靴を脱いだ。
「私のアカウントで、SORAが見られなくなってるんだけど」
「は? 知らねぇよ」
「ブロックしてるでしょ。お願い。解除して」
「だから知らないって」
「私は好きって言った」
私はあなたと対立しない。
あなたに危害を加えるつもりも、意地悪も、くだらないイタズラも、笑って嫌がらせするつもりだってない。
「だから、信じてほしい。私は味方だって」
ガン! と鋭い金属音がして、村松くんは自分の靴箱の扉を拳で殴りつけていた。
錆びだらけの歪んだ扉が、ますますぶかっこうに強くヘコんでいる。
「テメー、いい加減にしろ。次に俺に話しかけたら、マジでぶっとばすからな」
そんな脅しが本気でないことくらい、私は気づいている。
もし本当にそんなことをしたら、私は全身から血を流したまま職員室へ飛び込み警察にも行って、思いっきり泣いて騒いでこの人を悪人に仕立て上げ、停学に追い込んでやる。
「お願い。誤解しないでほしい。私はちゃんと、普通に話がしたいだけなの。天気の話とか学校であったこととか、昨日食べたものとか。それだけでいいの」
彼は自分の上履きを床に投げ捨てると、乱暴に靴を履きかえ、外靴をボロボロの靴箱へ投げ入れた。
本音を言うと、そんな彼が怖い。
だけど言わずにはいられない。
「会いたかったの。ずっと。SORAがどんな人なのか、知れてうれしいの」
彼の上靴が、傘立ての骨組みを思い切り蹴りつけた。
校庭から引き上げてきたバレー仲間の男子が、私に聞かせるための独り言を残してゆく。
「あ~ぁ。葉月がこんだけキレるとか、珍し」
「なんか知らんけど怒ってるし、これ以上関わらないほうがいいんじゃね?」
彼と仲のいい田中くんと横山くんが、私を追い越してゆく。
だけど彼らは分かっていない。
私が村松くん以上に、怒りに満ちていることを。



