私は自分のことを可愛いだなんて思ってないし、性格がいいとか気が利くとか女子力高いとか、コミュ力高くて明るく元気な陽キャだとか、いわゆる男子からモテるタイプだとは全然思っていない。
だから無視されたり相手にされないのは当然だとしても、思った以上にあっさりしているんだなとも思った。
そもそも「サブアカ見つけちゃった」とか、本人に直接言ってしまう方も基本的に頭おかしいし、どうかしていた。
村松くんに、すっかり避けられるようになってしまった。
それまでほとんど意識していなかったけど、「おはよう」の挨拶は自分の四方の席の子たちに普通に声をかけていて、同じくらいの気軽さで村松くんも挨拶を返してくれていたのに、それすら返ってこなくなった。
なんなら休み時間には必ず席を立って私から離れていくし、昼休みはもちろん放課後も私から声をかけられないよう、サッと席を離れ逃げて行ってしまう。
昨日の今日でこれだけあからさまに態度を変えられれば、いくら鈍感な私だって気づく。
SORAにまで嫌われてしまった。
私はそのことに、どうしようもない孤独と後悔を抱えている。
「ちーよりっ!」
麻友が気持ち悪いほど上機嫌な愛想笑いを浮かべ、私の肩へ飛びついてきた。
「ね、今日はどうする?」
「どうするって?」
麻友に体当たりされ、若干痛む肩を手でおさえる。
麻友はいつもなら私の前の村松くんの席に座るのに、空いていた隣の男子の席に腰を下ろした。
そのすぐ後ろに、芽依も座り込む。
「放課後バスケの練習、来るでしょ」
「あぁ……、まぁ……」
大会まであと一週間、果てしなく持て余す時間を前に、私たちはいつだって退屈していた。
「今日はさ、いつもの屋外コートが取れなかったから、体育館横の空き地でやるんだって。なんかさ、もう来週が本番だから、うちのクラスの男子バレーも練習するらしいよ」
男子バレー。
突然そんな話を持ち出してくる麻友には、悪意しか感じない。
絶対に何かを誤解している。
申し訳ないけど、ここには踏み込んできてほしくない。
「そうなんだ。てか、ドッチボールはいいのかな」
「ドッチ? なんで?」
「うん。バスケはちゃんと練習してるけど、男子とか他の競技の人たちも練習するんだったら、女子のドッチはいいのかなって、ずっと気になってるんだよね。たまにやってるよね。他の学年かもしれないけど、グラウンドでドッチの練習してる子たち。てか、麻友はドッチがメインだよね。そっちはいいんだ」
「は?」
麻友の顔が怒りに歪み、黙って聞いていた芽依はフッと冷ややかな冷笑を放つ。
「だからさぁ、なんでドッチの話になんの? 千和、そんなにバスケ嫌だったんだ。ゴメンね、なんか私が無理に誘っちゃって。選手でもないのに」
「麻友こそなんで怒ってんの。私は麻友の心配しただけなんだけど」
「だいたいさ、私がなんでこんな気を遣ってるか分かる? 昨日のバスケチームのライン見た? 返事くらいすれば? みんなしてるよ? 興味ないのは分かったけど、せめて大会終わるくらいまでは合わせてもよくない?」
麻友を怒らせるのは、もの凄く面倒くさい。
もの凄く面倒くさいと分かっていても、今の私は止まらない。
なんで私が誰とも合わせてないとか言えるの?
これだけ色々気を遣って散々注意してやってるのに、これ以上求められても無理。
「別にバスケが嫌いなワケじゃないよ。そもそも勝手に立候補したの私だし」
「そうだよね、自分で手を挙げたんだよね。なのに何でそんなにやる気ないの? だったらバスケなんてやらなきゃよかったじゃん」
「私は自分の意志でバスケに手を挙げただけで、麻友に付き合ってもらいたいとか言ってない」
「私のことはどうでもいいって! じゃあなんで千和は練習する気ないの? 陽菜とか、コーチやってくれてるんだよ? 選手でもないのにわざわざ参加してくれてさ。ねぇ、千和って結局、球技大会なんかどうでもいいと思ってんでしょ」
「だから、どうでもいいとか思ってないって……」
「だったらちゃんとしてよ。あと一週間でしょ? 練習たって、もうあと二、三回あるかないかだし、それくらい出来ない?」
「言われなくても、ちゃんとやるから」
「ウソつき」
そんなこと、ガチで本気で麻友に言われる筋合いはない。
「ウソじゃないって。ちゃんとやるから」
「……。ホントに?」
「うん」
なんで麻友がこんなに必死になってるのか分かんない。
てか、そんなにバスケしたいなら、麻友が最初に自分で手を挙げればよかったのに。
なんだかんだいっても、結局自分には関係ない他人事だから、そんな簡単に何でも言えるんでしょ。
ざわついた昼休みの教室で、村松くんが席に戻ってきた。
探し物でもあったのか、自分の机に手を突っ込む。
麻友はそのタイミングで席を立つと、どこかへ行ってしまった。
芽依はまだ座り込んだまま、机に肘をつきぼんやりとしている。
私はごそごそと探し物をする彼に、焦点を合わせた。
彼には、言いたいことがある。
私を無視しないで。
話を聞いて。
そうは思っているけれど、彼にしてみれば今までろくに話したこともなければ接点もなかった人間に、いきなりそんなことを言われても困るだけ。
そもそも私とSORAの接点は、空しかない。
文字通り空っぽ。
何もない。
村松くんは、一瞬私と目を合わせたのに、サッと目をそらした。
それに気づかないフリをして、芽依に目線を移す。
彼が離れて行くのを、私を意図的に避けているであろうことを、私は引き留めることも避難することも出来ない。
芽依は片手に持った四角い手鏡を見ながら、唇にリップを塗り直していた。
「芽依は、今日の練習、予定大丈夫なの?」
「へーき。別にヒマだし」
「そっか」
麻友は陽菜たちのグループに駆け寄り、何かを必死に訴えていた。
私はもはやその内容に、興味すら湧かなくなっている。
麻友はすっかり陽菜たちに受け入れられていて、意気揚々と大げさな身振り手振りを加え演説を繰り広げていた。
芽依はリップを塗り終わると、手鏡をパタンと閉じる。
「千和は、本当によかったの?」
「なにが?」
「いろいろ」
芽依はいつも、私を本当に心配しているのか、単に面白がっているだけなのか、よく分からない。
私は並んだ机の向こうに見える麻友のせわしない背中をにらみつけたまま、真顔で答えた。
「色々って?」
芽依は視線を天井に向け、とぼけたような顔で「色々」を誤魔化す。
「……。色々」
「別に何もないよ」
「そっか」
芽依はもちろん、麻友や陽菜のことは嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど、好きでもない。
バスケだって、本当に嫌いじゃない。
だけど、球技大会はそこまで好きではない。
少なくとも、陽菜や麻友たちのようにまで、夢中にはなれないという意味で。
新学年になって、誰もが不安でもあり浮かれている時期に行われる最初の行事だし、それなりに気合いの入ってるフリはするけど、練習とか作戦会議とかいう名目で、意味もなくカラオケやマックにかり出されるのは、正直勘弁してほしい。
麻友の言う通り、あとちょっとの期間限定だからまだ我慢出来るけど、このノリがずっと続くようなクラスなら、自分の振る舞いを考えたい。
さすがに疲れる。
「てかさー、一組。クラティー作るらしいよ」
「えー、すごーい。いいなぁー」
「ねー。うちらも作ればよかったねー」
「だよねー。そういえばそういう話、全然出なかったよねー」
「うちのクラスじゃ無理でしょ」
そんな高らかな笑い声が一部の女子から発せられ、教室に響く。
彼女たちは体育祭の時には絶対作ろうねと、自分たちで勝手に約束していた。
クラスティーシャツが作りたかったのなら、さっさとそう言えばいいのに。
てか、今からだともう間に合わないのか。
ざわついた教室はそんな声を気にもしないで、昼休みの終わりを告げるチャイムを鳴らす。
それぞれが自分の席に戻る中、麻友から個別のラインが入った。
『今日の放課後、コート取れたって。千和も練習来てね』
それはもうお願いでも約束でもなく、命令だ。
バスケチームで作ったグループラインの方にも同じメッセージが放たれ、私はそれに既読だけをつけ、返信やスタンプの入る振動を次々と感じながらポケットにしまう。
こんなものに、わざわざ返信をする義理はない。
既読をつけただけで十分だ。
昼休みが終わり、授業開始という強制イベントで席に戻された村松くんは、今度は最初から私と目を合わさないよう注意しながら自分の席についた。
ごめんなさい。
私が余計なことをしたせいで、彼にまで居心地を悪くさせてしまった。
午後からの授業はずっと彼の背中だけを見つめていて、近づいた分遠くなった背中に息を潜める。
こんなことになるくらいなら、席なんて遠い方がよかった。
クラスだって同じじゃなかったら、私は本当のことを知らずにすんだのに……。
SORAが思いを込めて放った言葉は、どこかにたどり着くための言葉ではなく、ただ空に漂うための言葉であって、どこかへ届いてはいけないものだった。
私はバカだからそのことに気づかないまま、本当に余計なことをした。
彼に話し掛けられないまま授業は終わり、放課後になってしまった。
バスケの練習という懲役が控えている私は、昇降口で上靴を履きかえると、麻友と芽依の後ろをただ子ガモのようについて歩く。
こんなことしている場合じゃないのに。
村松くんはあれ以来、明確に私を避けている。
教室で見かける時も、廊下ですれ違う時も、目を伏せ無言でこれ以上近寄るなと圧を放っている。
これまで何の接触もなかったから、今までと変わらないといえばそれはそう。
だけど、私の彼を見る目が違ってしまっている。
私はSORAと仲直りがしたい。
SORAはいつだってすぐそばにいて、私を励ましていてくれたのに……。
校舎から外へ出ると、少し動けば汗ばみそうな気温で、春も終わりの明るい午後の日差しが校庭を突き抜けていた。
誰からも見捨てられたバスケットゴールは、ボロボロに崩れた木製ボードに金属の輪だけが楔のように打たれていて、よくこんな状態になっても平気で立っていられるなと、尊敬する。
私には無理だ。
シュートするリングにネットだなんていう贅沢なものはなく、日に焼け雨風に吹かれ、とっくの昔に朽ちて姿をなくしていた。
「じゃ、やろっかー」
散々イヤミを言われていたから、今日は最初から私も練習に参加する。
麻友は大人しく荷物番を務め、陽菜はアドバイスのような、ただの応援のような声をあれこれとあげていた。
練習といっても、仲良し女子グループで集まっての、お遊びみたいなものだ。
少なくとも、私はそう思っている。
だから無視されたり相手にされないのは当然だとしても、思った以上にあっさりしているんだなとも思った。
そもそも「サブアカ見つけちゃった」とか、本人に直接言ってしまう方も基本的に頭おかしいし、どうかしていた。
村松くんに、すっかり避けられるようになってしまった。
それまでほとんど意識していなかったけど、「おはよう」の挨拶は自分の四方の席の子たちに普通に声をかけていて、同じくらいの気軽さで村松くんも挨拶を返してくれていたのに、それすら返ってこなくなった。
なんなら休み時間には必ず席を立って私から離れていくし、昼休みはもちろん放課後も私から声をかけられないよう、サッと席を離れ逃げて行ってしまう。
昨日の今日でこれだけあからさまに態度を変えられれば、いくら鈍感な私だって気づく。
SORAにまで嫌われてしまった。
私はそのことに、どうしようもない孤独と後悔を抱えている。
「ちーよりっ!」
麻友が気持ち悪いほど上機嫌な愛想笑いを浮かべ、私の肩へ飛びついてきた。
「ね、今日はどうする?」
「どうするって?」
麻友に体当たりされ、若干痛む肩を手でおさえる。
麻友はいつもなら私の前の村松くんの席に座るのに、空いていた隣の男子の席に腰を下ろした。
そのすぐ後ろに、芽依も座り込む。
「放課後バスケの練習、来るでしょ」
「あぁ……、まぁ……」
大会まであと一週間、果てしなく持て余す時間を前に、私たちはいつだって退屈していた。
「今日はさ、いつもの屋外コートが取れなかったから、体育館横の空き地でやるんだって。なんかさ、もう来週が本番だから、うちのクラスの男子バレーも練習するらしいよ」
男子バレー。
突然そんな話を持ち出してくる麻友には、悪意しか感じない。
絶対に何かを誤解している。
申し訳ないけど、ここには踏み込んできてほしくない。
「そうなんだ。てか、ドッチボールはいいのかな」
「ドッチ? なんで?」
「うん。バスケはちゃんと練習してるけど、男子とか他の競技の人たちも練習するんだったら、女子のドッチはいいのかなって、ずっと気になってるんだよね。たまにやってるよね。他の学年かもしれないけど、グラウンドでドッチの練習してる子たち。てか、麻友はドッチがメインだよね。そっちはいいんだ」
「は?」
麻友の顔が怒りに歪み、黙って聞いていた芽依はフッと冷ややかな冷笑を放つ。
「だからさぁ、なんでドッチの話になんの? 千和、そんなにバスケ嫌だったんだ。ゴメンね、なんか私が無理に誘っちゃって。選手でもないのに」
「麻友こそなんで怒ってんの。私は麻友の心配しただけなんだけど」
「だいたいさ、私がなんでこんな気を遣ってるか分かる? 昨日のバスケチームのライン見た? 返事くらいすれば? みんなしてるよ? 興味ないのは分かったけど、せめて大会終わるくらいまでは合わせてもよくない?」
麻友を怒らせるのは、もの凄く面倒くさい。
もの凄く面倒くさいと分かっていても、今の私は止まらない。
なんで私が誰とも合わせてないとか言えるの?
これだけ色々気を遣って散々注意してやってるのに、これ以上求められても無理。
「別にバスケが嫌いなワケじゃないよ。そもそも勝手に立候補したの私だし」
「そうだよね、自分で手を挙げたんだよね。なのに何でそんなにやる気ないの? だったらバスケなんてやらなきゃよかったじゃん」
「私は自分の意志でバスケに手を挙げただけで、麻友に付き合ってもらいたいとか言ってない」
「私のことはどうでもいいって! じゃあなんで千和は練習する気ないの? 陽菜とか、コーチやってくれてるんだよ? 選手でもないのにわざわざ参加してくれてさ。ねぇ、千和って結局、球技大会なんかどうでもいいと思ってんでしょ」
「だから、どうでもいいとか思ってないって……」
「だったらちゃんとしてよ。あと一週間でしょ? 練習たって、もうあと二、三回あるかないかだし、それくらい出来ない?」
「言われなくても、ちゃんとやるから」
「ウソつき」
そんなこと、ガチで本気で麻友に言われる筋合いはない。
「ウソじゃないって。ちゃんとやるから」
「……。ホントに?」
「うん」
なんで麻友がこんなに必死になってるのか分かんない。
てか、そんなにバスケしたいなら、麻友が最初に自分で手を挙げればよかったのに。
なんだかんだいっても、結局自分には関係ない他人事だから、そんな簡単に何でも言えるんでしょ。
ざわついた昼休みの教室で、村松くんが席に戻ってきた。
探し物でもあったのか、自分の机に手を突っ込む。
麻友はそのタイミングで席を立つと、どこかへ行ってしまった。
芽依はまだ座り込んだまま、机に肘をつきぼんやりとしている。
私はごそごそと探し物をする彼に、焦点を合わせた。
彼には、言いたいことがある。
私を無視しないで。
話を聞いて。
そうは思っているけれど、彼にしてみれば今までろくに話したこともなければ接点もなかった人間に、いきなりそんなことを言われても困るだけ。
そもそも私とSORAの接点は、空しかない。
文字通り空っぽ。
何もない。
村松くんは、一瞬私と目を合わせたのに、サッと目をそらした。
それに気づかないフリをして、芽依に目線を移す。
彼が離れて行くのを、私を意図的に避けているであろうことを、私は引き留めることも避難することも出来ない。
芽依は片手に持った四角い手鏡を見ながら、唇にリップを塗り直していた。
「芽依は、今日の練習、予定大丈夫なの?」
「へーき。別にヒマだし」
「そっか」
麻友は陽菜たちのグループに駆け寄り、何かを必死に訴えていた。
私はもはやその内容に、興味すら湧かなくなっている。
麻友はすっかり陽菜たちに受け入れられていて、意気揚々と大げさな身振り手振りを加え演説を繰り広げていた。
芽依はリップを塗り終わると、手鏡をパタンと閉じる。
「千和は、本当によかったの?」
「なにが?」
「いろいろ」
芽依はいつも、私を本当に心配しているのか、単に面白がっているだけなのか、よく分からない。
私は並んだ机の向こうに見える麻友のせわしない背中をにらみつけたまま、真顔で答えた。
「色々って?」
芽依は視線を天井に向け、とぼけたような顔で「色々」を誤魔化す。
「……。色々」
「別に何もないよ」
「そっか」
芽依はもちろん、麻友や陽菜のことは嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど、好きでもない。
バスケだって、本当に嫌いじゃない。
だけど、球技大会はそこまで好きではない。
少なくとも、陽菜や麻友たちのようにまで、夢中にはなれないという意味で。
新学年になって、誰もが不安でもあり浮かれている時期に行われる最初の行事だし、それなりに気合いの入ってるフリはするけど、練習とか作戦会議とかいう名目で、意味もなくカラオケやマックにかり出されるのは、正直勘弁してほしい。
麻友の言う通り、あとちょっとの期間限定だからまだ我慢出来るけど、このノリがずっと続くようなクラスなら、自分の振る舞いを考えたい。
さすがに疲れる。
「てかさー、一組。クラティー作るらしいよ」
「えー、すごーい。いいなぁー」
「ねー。うちらも作ればよかったねー」
「だよねー。そういえばそういう話、全然出なかったよねー」
「うちのクラスじゃ無理でしょ」
そんな高らかな笑い声が一部の女子から発せられ、教室に響く。
彼女たちは体育祭の時には絶対作ろうねと、自分たちで勝手に約束していた。
クラスティーシャツが作りたかったのなら、さっさとそう言えばいいのに。
てか、今からだともう間に合わないのか。
ざわついた教室はそんな声を気にもしないで、昼休みの終わりを告げるチャイムを鳴らす。
それぞれが自分の席に戻る中、麻友から個別のラインが入った。
『今日の放課後、コート取れたって。千和も練習来てね』
それはもうお願いでも約束でもなく、命令だ。
バスケチームで作ったグループラインの方にも同じメッセージが放たれ、私はそれに既読だけをつけ、返信やスタンプの入る振動を次々と感じながらポケットにしまう。
こんなものに、わざわざ返信をする義理はない。
既読をつけただけで十分だ。
昼休みが終わり、授業開始という強制イベントで席に戻された村松くんは、今度は最初から私と目を合わさないよう注意しながら自分の席についた。
ごめんなさい。
私が余計なことをしたせいで、彼にまで居心地を悪くさせてしまった。
午後からの授業はずっと彼の背中だけを見つめていて、近づいた分遠くなった背中に息を潜める。
こんなことになるくらいなら、席なんて遠い方がよかった。
クラスだって同じじゃなかったら、私は本当のことを知らずにすんだのに……。
SORAが思いを込めて放った言葉は、どこかにたどり着くための言葉ではなく、ただ空に漂うための言葉であって、どこかへ届いてはいけないものだった。
私はバカだからそのことに気づかないまま、本当に余計なことをした。
彼に話し掛けられないまま授業は終わり、放課後になってしまった。
バスケの練習という懲役が控えている私は、昇降口で上靴を履きかえると、麻友と芽依の後ろをただ子ガモのようについて歩く。
こんなことしている場合じゃないのに。
村松くんはあれ以来、明確に私を避けている。
教室で見かける時も、廊下ですれ違う時も、目を伏せ無言でこれ以上近寄るなと圧を放っている。
これまで何の接触もなかったから、今までと変わらないといえばそれはそう。
だけど、私の彼を見る目が違ってしまっている。
私はSORAと仲直りがしたい。
SORAはいつだってすぐそばにいて、私を励ましていてくれたのに……。
校舎から外へ出ると、少し動けば汗ばみそうな気温で、春も終わりの明るい午後の日差しが校庭を突き抜けていた。
誰からも見捨てられたバスケットゴールは、ボロボロに崩れた木製ボードに金属の輪だけが楔のように打たれていて、よくこんな状態になっても平気で立っていられるなと、尊敬する。
私には無理だ。
シュートするリングにネットだなんていう贅沢なものはなく、日に焼け雨風に吹かれ、とっくの昔に朽ちて姿をなくしていた。
「じゃ、やろっかー」
散々イヤミを言われていたから、今日は最初から私も練習に参加する。
麻友は大人しく荷物番を務め、陽菜はアドバイスのような、ただの応援のような声をあれこれとあげていた。
練習といっても、仲良し女子グループで集まっての、お遊びみたいなものだ。
少なくとも、私はそう思っている。



