君に、届かない恋をした

 次の日。

 私は学校から帰ってくるなり、自分のパソコンを開いた。

 私はスマホを持っていない。

「スマホは高校生になってから」

 それが、我が家のルールなのだ。

 でも、小学4年生の頃にパパから買ってもらった

 私専用のパソコンがある。

 家族の誰かが使うこともない。

 だから、私にとっては、ちょっとした秘密基地みたいなものだった。

 そして今日は、そのパソコンで蓮くんのことを、調べまくる。

 まずプロフィール。

 そして好きなタイプ。

 蓮くんのインスタ、過去ドラマ、TikTok……。
 一通り見終えると、ドラマの公式Xを見て、次回予告もチェックする。

 そして、蓮くんが所属している『NEX7』のSNSも、見られるものは全部見た。

 とにかく、夢中だった。

 すごく、はまった。

 そして何より──ドタイプだった。

 それからは、毎日が幸せだった。

 
ある日は蓮くんの写真を見ながら、

「かっこいいなぁ……」

「会いたいなぁ……」

 なんて言って、泣いた。

 でも、そんな私の気持ちを、家族は知らない。

 というか、言っていない。

 言ったら、絶対に面倒くさいことになるから。

 うちのパパは、私が男の人の話をすると、すぐに、

「どんなやつだ!?」

 と聞いてくるタイプ。

 ママも、恋愛の話になると、すぐにキャーキャー言い始める。

 それだけなら、まだいい。

 問題は、蓮くんが私より二回りくらい年上だということ。

 パパより少し下くらいの年齢の人なのだ。

 そんな人を、

「私、この人が好きなの」

 なんて、言えるわけがない。

 だから、蓮くんのことは、私だけの秘密。

 家族には、絶対に言わない。

 蓮くんのために変わりたい。

 もっともっと可愛くなって、蓮くんのタイプになりたい。

 つらいときに目を閉じれば、浮かんでくるのは、ほかでもなく蓮くん。

 誰に何と言われようが、私はすっかり沼にはまっていた。

 ──好き。

 そんな言葉が、すとん、と心の中に落ちてきた。

 好きだ。

 大好きなんだ。

 年の差なんて関係ないと思えるくらい、大好きなんだ。

 ……ああ。

 私、蓮くんのことが好きなんだ。

 しかも、ただの「推し」じゃない。

 私は、蓮くんに本気で恋している。

 会いたい。

 知ってもらいたい。

 覚えてもらいたい。

 できることなら、好きになってもらいたい。

 ……自分でも、ちょっと重いと思う。

 でも、それくらい好きなのだ。

 ──女優に、なろうかな。

 なれないことは、わかってるけど。

 でも、もしそうでも、芸能界に関わる仕事に就けば、会えるかな。

 本当に、ばかみたいだと思う。

 だけど、それくらい大好きになっていた。

 ──もう、いっそのこと『NEX7』を知ってみようかな。

 今まで、興味なかったけど、

 男性アイドルグループを知る、きっかけになるかもしれないし。

 どうか、どうか。

 夏休みが明けるまでに、可愛くなれますように。

 そう願った。

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 蓮くん以外の男の人なんて、眼中にない。

 そもそも夏休み中だから、学校に行かない限り、男子に会うこともない。

 モテたい、なんて。

 そんなふうに強く思ったのは初めてだった。

 一人に限り、だけど。

 ……笑。

 でも、つらかった。

 ドラマで共演する女優さんたちは、もちろん、きれいでかわいくて。

 蓮くんのタイプって、つまりこういう人なのかな。

 そう思ってしまうこともあった。

 最近は、ずーっとつらくて、苦しくて。

好きな人って、会おうと思えば会える距離にいるのが普通じゃん。

 私も、会おうと思えば会える距離にいる。

 ……でも、私が住んでいるのは、かなりの田舎だ。

 電車だって、一時間に一本くらいしか来ない。

 東京みたいに、駅に行けば次々と電車が来て、どこへでも行けるような場所じゃない。

 だから、「会おうと思えば会える」と言ったって、実際にはそう簡単に会いに行けるわけじゃない。

 中学生の私がどれだけ頑張ったって、会えない可能性のほうが高い。

 ましてや、相手は私を知らない。

 恋は一方通行って、このことなんだね。

 同じ国にいるのに。

 近いはずなのに。

 すごく、遠い。

 今なら、家に押しかけちゃうファンの気持ちも、すっごくわかるなぁ~、なんて思ってしまう。

 会いたいもんね。

 知ってもらいたいし、覚えてもらいたい。

 だって、好きだから。

 この気持ちは誰にも負けない。

 そう思うのも、きっとみんな一緒なんだ。

 ……まあ、これだけ語っておいて、私は最近知ったばっかり。

 まだ、ライブに行ったことがない。

 歌だって、まだ一曲しか知らない。

 メンバーの顔も、名前も、ちゃんと覚えられていない。

 でも。

 蓮くんのことだけは、少しだけわかる。

 知りたい、って思えたから。

 眼鏡も似合う。

 スーツだと思えば、今度はヤンキーみたいな服になってるし。

 短髪も金髪も似合う。

 もう、私、死んじゃう……。

 そう思うくらい、一人のアイドルに心を奪われている。

 とにかく!

 会えないから苦しいし、涙も出る。

 それでも私は、今、すっごく幸せ。

 神様。

 この「氷室蓮」くんに出会わせてくれて。

 蓮くんという存在を、私に教えてくれて。

 本当に、ありがとうございます!