「かわいい」
折れてしまった蕾を持ち帰ってきた。
ハサミで茎をうんと短く切り揃え、小さなガラスのグラスにそっと浮かべる。ネットで調べた方法だ。
「咲くかな……」
窓辺の淡い光の下に置き、スマホを構えてカシャっと一枚。自分の個人アカウントへ投稿する。
気負ってばかりいると良い写真が撮れないから、こっちは写真部のアカウントでの投稿の練習のようなものだ。
画面をスクロールすると、芹香の投稿が上がってきた。
希美やクラスの女子数人とカラオケで撮ったらしい一枚だ。みんな制服ではなく、私服を着ている。今日撮ったものではない。
「……週末だ」
私は誘われなかった。
時々は声がかかる。横浜へ行こうとか、お祭りへ行こうとか、遊園地へ行こうとか、特別なイベントがある日だけ。
そういう日は、綺麗な写真を撮ってくれる撮影係が必要だから。
でも、普段の何気ない週末の何気ない日常で誘われることはなかった。そんなこと、最初からわかっている。
「……そう。わかってるもん」
自分に言い聞かせるように呟いた瞬間、画面の上部にピコンと通知が跳ねた。
「あ、いいねが来た」
地味な花の写真に、ぽつんとひとつのハートマークが灯る。知らないアカウントだ。それでも、誰かが見てくれたことが嬉しくて、私は静かに口角を上げた。
*
『では、これで学年集会を終わります』
体育館に集められていた二年生たちが、ぞろぞろと立ち上がりながら思い思いに伸びをした。冷たい床に長時間座っていたので、お尻がじんじんと痛む。
担任の先生が、最後に声を張り上げた。
「教室に戻る前に連絡な。校外学習のグループは好きなメンバーで組んでいいぞ」
その言葉が出た瞬間、体育館のあちこちから「やったー!」「誰と組む?」と歓声が上がる。
「決まったら先生に報告すること。じゃあ解散」
胸の奥がぎゅっと詰まる。私にとって、一番緊張する時間が始まってしまった。好きなメンバーと言われるのが一番困る。もしあぶれてしまったらどうしよう。
この間の花壇の一件は終わったこととして、芹香や希美とは何事もなかったかのように普通に過ごしている。
けれど、もし声がかからなかったら?
私以外のメンバーで枠が埋まってしまったら?
嫌な汗が背中を滑り落ちる。
最悪の想像が頭を駆け巡り、足がすくんだ。
「有栖ちゃん、一緒に組もう」
背後から芹香の声がした。弾んだ明かるいトーンだ。
どっと安堵が押し寄せ、私は引きつりそうな顔を必死に整えて振り向く。
「うん、一緒に組もう」
笑顔で答える私の横を、男子生徒たちの賑やかな声が通り抜けていく。
「颯真! 一緒に回ろうぜ」
「なに言ってんだよ。クラス違うじゃん」
「あーあ。俺も特進だったらなー」
佐伯君と仲が良い、バスケ部の村田君が悔しそうに声を上げていた。佐伯君は呆れたように肩をすくめている。
「特進に入りたかったら勉強しろ」
「俺が勉強したって入れるわけねーだろ」
ケラケラと笑う村田君の楽しそうな声が体育館に響いた。クラスの垣根なんて気にも留めていない様子で、彼らは肩を叩き合いながら教室へと戻っていく。
「颯真は誰と組むの?」
「うちのクラスは番号順」
「かーっ。つまんねー」
遠ざかっていく声を聞きながら、心底羨ましくなった。
出席番号順なら、こんなに胸を痛めて悩む必要なんてないのに。
全部学校側が番号で機械的に決めてくれたら、あぶれる心配をしなくていいし、誰にも声を掛けられない自分を想像してお腹がぎゅっと痛むこともない。
私は小さく、誰にも聞こえない溜息を吐いた。
*
