「いや、ダサすぎて引く」
帰り道。二人並んで歩いていると、佐伯君は頭を抱えて唸るように言った。
夕暮れのオレンジ色が、彼の眉間のシワを優しく照らしている。
「そんなことないよ。嬉しかったよ、私」
「ありがとう。でもフォローはいい。俺の中では最高級にダサい告白だった」
心底悔しそうに顔を顰める彼を見て、胸の奥からくすぐったい気持ちがこみ上げてくる。
あの後、しばらく裏庭の花壇のそばで二人で時間を潰してから、佐伯君の荷物を取りに教室へ戻った。
放課後の校舎にはもう誰もいなくて、しんとした静けさにほっと息を吐いた。
帰り際、佐伯君が担任の先生に呼び止められた。
職員室で少し話したようだったけれど、すぐに戻ってきた。廊下での騒ぎについて詳しく聞かれたらしい。
「昼の時点でSNSの話はしてたんだ。不本意な晒され方をしているって。盗撮されたのも学校だし校内の誰かが犯人だろうけど……基本的には、親に任せるってことで。今日、帰ったら親父に相談してみる」
「うん」
「あと、有栖川が犯人じゃないかって、西条たちが叫んだから一応確認されたけど、違うって言っておいた」
「え? それ、私も説明しに行った方が良かったんじゃ……」
急に自分の名前が出て焦る。
思わず足を止めてしまった。
「大丈夫。柴田先生もいて『絶対有栖川じゃないですよ』って言ってくれたんだ。それに、うちの担任も『信じてないけど念のためな』って」
「柴田先生……」
親身になってくれる良い先生だ。
「あれ、そういえば部活は?」
「休んだ。『すぐ家に帰って話し合うんで』って、担任が伝えてくれることになって。……こういう時、優等生だと信用があっていいんだよな。本当は有栖川と一緒に帰りたかっただけなのに」
「え、あ……もぅ」
佐伯君がくすくす笑う声を聞いていると、緊張で強張っていた体の力がふっと抜ける気がした。
駅に着いて、ホームで電車を待つ。
少しの間、並んでベンチに座った。
線路の向こうから風が抜けて、終わりかけの金木犀の香りを運んでくる。
「あのさ」
佐伯君がぽつりと切り出した。
「やり直し、させて」
私の方を向いた彼は、とても真剣な顔をしていた。
「もう一度、ちゃんと告白したい。だから、付き合い始めるの、それまで待って欲しい」
あ、そうか。私たちは付き合うことになるのか。
昨日までとのあまりの状況の違いに、頭がついていかなくて、どこかのんびりしたことを考えてしまう。
私自身は、告白の方法や形式にこだわりはない。
お互いの気持ちが通じ合ったのだから、それだけで十分すぎるほど嬉しいと思っている。でも、佐伯君には佐伯君の譲れない考えやこだわりがあるのだろう。
「うん、わかった。じゃあ待ってる」
そう頷くと、佐伯君は眉を下げて嬉しそうに笑った。
*
その夜、インスタグラムで噂になっていた例のアカウントは、ひっそりと消えてなくなった。
しばらくはSNS上で佐伯君を探すような投稿が散見されたけれど、日が経つと共にそれも静かに消えていった。
結局、開示請求まではしなかったらしい。
写真の内容から学校関係者、つまり相手が未成年である可能性が高いことを踏まえ、肖像権の侵害はあるものの、キャプションの内容自体は中傷を目的としていないことを考慮したのだと、佐伯君が後でこっそり教えてくれた。
念のため、スクリーンショットは保存。
もう一度何かがあった時はすぐに動くと、お父さんが決めたらしい。
次の日、登校するなり私はクラスメイトたちに一斉に囲まれた。
いつから佐伯君と仲が良かったのか、付き合っているのかなど、矢継ぎ早に質問された。
一応「付き合ってないよ」と事実を答えてみたものの、お昼休みにご飯に誘いに来た佐伯君が「まだ付き合ってないけどこれから付き合うから」と謎の宣言をしてしまい、教室に再び大きな騒動を巻き起こした。
佐伯君が園芸係であることは校内で周知の事実となり、彼が手入れをしている綺麗な花壇はちょっとした話題になった。
むやみに立ち入る人や踏み荒らす人が出ることもなく、色鮮やかな花々はみんなの心を癒している。
彼に対する周囲からのイメージも少し変わった。
ただの当たりが良い爽やか優等生ではなく「怒らせたら怖い」という認識が広がったらしい。
当の佐伯君自身も、何かが吹っ切れたように思う。
廊下や移動教室でクラスのお友達と一緒にいるのを何度か見かけたが、以前の取り繕ったような笑顔ではなく、前よりずっと、楽しそうな顔だった。
芹香と希美は、あの騒動以来すっかりおとなしくなった。
挨拶をしても返事すら返ってこないけれど、もう、これ以上はどうにもならないだろう。
*
