「……いる?」
「いる。本当だったんだ」
カシャッ
「撮れそう?」
「うん、望遠ズームのカメラアプリ入れたから。ちょっと待って、もう少し……」
カシャッ、カシャッ
「見てこれ。かなりハッキリ写ってる」
「うんいい感じ。あーかっこいい。やっぱ好きだわぁ」
「大丈夫。これをうまく使えば目を覚ますでしょ。あの女がいい子ちゃんのフリをしているだけだってわかれば……」
「……ふふっ」
*
「つぎ佐伯。調子いいじゃないか」
担任に名前を呼ばれ、模試の結果を返された。
二週間ほど前に特進クラスだけが受けたものだ。
「全国順位も上がってる。今の調子なら100番以内も狙えるぞ。よくやったな」
「……ありがとうございます」
成績表を受け取りながら、試験があった頃を思い出していた。
有栖川と朝の練習会を始めて少し経った日。あの時は毎朝が楽しくて、部活も勉強もやたらと前向きに取り組めていた。
「すげえ、佐伯めっちゃ上がったな」
後ろの席のクラスメイトが覗き込んでくる。
「いや、運が良かったんだよ」
特に数学では自分の得意な単元ばかりが出た。ラッキー要素が大きい。
それに、すっかり気落ちしている今の自分が、あの時ほど前向きに机に向かえているかと言うと疑問だった。
「謙虚ねえ佐伯君。私がこの点だったら自慢してるわ」
隣の席の女子が、ため息をつきながら自分の成績表をたたむ。
「どうせ高二だけが対象の模試だよ。実際の受験時には浪人生も加わるんだから、こううまくはいかない」
ウィンターカップに向けた秋の大会が終われば、間もなく引退だ。
進学クラスの中には高校三年まで部活を継続するやつもいるけど、特進はそうはいかない。
年が明けて三年の受験が終われば、次は自分たちの番だ。
勉強漬けの一年がやってくる。
「佐伯、悪いけどこの問題教えてくれるかな?」
「いいよ、どれ?」
そもそも、積極的に部活をしていないクラスメイトも多い。
いま、毎日ボールを追いかけている俺は、部活を言い訳にしないためにももっと頑張らなければいけないはずなのだ。本当なら……。
「なるほど、この定理も使うのか」
「そうそう。二個目に気づけるかどうかがミソだよな」
隣でノートを見ていた奴が、納得したように声を上げる。
「模範解答みたいでわかりやすいな。俺も書き移していい?」
「もちろん。一問千円」
「たっけーな」
ケラケラと笑うクラスメイトに、いつもの愛想笑いを返してノートを差し出した。本気で金を取るわけじゃないってことくらい、みんなわかっている。
俺の仮面は、前と変わらず分厚い。
みんなに親切で、先生の評価も高くて、でも、真面目一辺倒じゃなくて小さな冗談も言える。
汚い言葉遣いはせず、怒らず、大きな声も出さない、冷静な爽やか優等生。
『うっわ、まじか』
『すげぇ』
『あははは』
有栖川と喋っていた時は、色々頭で考えなくても大丈夫だった。俺らしいかどうかなんて、いちいち悩まなくても言葉を出して良かった。
有栖川が、いつも笑ってくれたから。
練習会の最後の二日間は最低だった。
自分の気持ちを隠すために黙りこくって、彼女が得た新しい友達との話に嫉妬して、長谷部先輩との予定を聞いて不機嫌さを丸出しにした。
有栖川は無理をして笑おうとしていたけれど、どんどん顔が硬くなっていくのがわかった。
他の人の前では笑えているのに、俺のせいで仮面の笑顔を貼り付けさせている。
そう思ったら、苦しくて……。
『もうやめよう』
耐えきれなくなって逃げた。
謝りたいけれど、許してもらえないんじゃないか、軽蔑されるんじゃないかと思うと怖くて動けない。
「佐伯、お客さん!」
教室の入り口の扉の方から、大きな声が響く。
*
