沈丁花

 「大丈夫だからね!颯!」
 俺はまた倒れた。年が明け春が近づく頃、また入院生活が始まった。どんどん体に力が入らなくなり、食べるのもままならなくなった。意識が良く飛ぶようになった。俺は力が入る陰り絵を描き続けた。どうしても最後の絵だけは描き終えたくて。描き終わったかと思えば、突然苦しくなり傍にいた母がナースコールを押した。
 「大丈夫よ大丈夫」
 母が俺の手を握りながら必死に神様に祈る。父は知らせを聞いたのかすぐにやってきた。俺は精一杯手を動かす。大丈夫だと伝えたくて。それと同時にもうだめなんだと分かる自分がいる。本当に幸せだったな。今まで走ることができたのも。たくさん仲間ができてふざけあったのも。佐江さんと出会って絵を描くことができたのも。東がそばで支えてくれたのも。そして何より家族が優しくて暖かくて、もっと生きていきたいと思った。走れないとしても、もっと長い時間を一緒に過ごしたかった。
 親不孝者でごめんね。
 生んでくれてありがとう。
 先に逝くけどずっと見守っているから。
 大好きだよ。
 「…あ、り、が、と」
 声が出せなかった。だけど少しでも伝わればとなるべく口を大きく開きながら言う。母も父もそういって笑う俺に涙を流しながらも笑い返してくれた。
 「風見さん入ります!」
 かすかに白衣が見えた。多分最後に心肺蘇生を行うのだろう。
 「愛しているわ颯」
 俺はもう無理なんだと思う。母も父もそれをわかっている。
 (あぁ、だいすきだな)
 幸せだった。たくさん幸せにしてもらった。ありがとう皆。どんどん意識が遠のく。何も考えられなくなって静かに眠りについた。