沈丁花

静かな空気と冷えた風が冬の訪れを知らせる。あれからもう何か月も経って、気づけば十二月。また色々と絵を描いた。毎日飽きることなく絵を描いていると、気づけば三冊、四冊、五冊とスケッチブックの量が増えていった。もう六冊目になるこの冊子に何を描こうかと少し窓を開けて外を眺めていた。
「あ、雪だ」
 初雪が降り出した。今季初めての雪だった。どんどん体が冷えていくので窓を閉め布団に入る。あれから入退院を繰り返して今は家にいる。クリスマスと年越しは家で過ごしたかったからだ。
「颯ー!ご飯できたよ」
 母の声に返事をしてすぐに下へ向かう。
「今日は鍋パーティよ」
「うわ!絶対おいしいやつ!」
「ただいま」
「あ、おかえり父さん」
 父と母とこんな風に過ごせるのがうれしくて、俺はいつも幸せだ。今まで走ること以外に何も考えていなかったからこんな小さな幸せに気づけていなかった。後悔が募るばかりだけど、気づくことができてよかったと心から思う。食べ終わってから俺は今日食べた鍋の絵を描き始めた。病気で少ししか食べることができなかったけど、この暖かさは食べなくてもわかるくらいだ。
「あ、そういえば」
 俺はあることを思い出して一度自分の部屋に戻る。紙袋の中からあるものを取り出して、背中に隠しながらこっそりと持っていく。
「母さん、父さん」
 二人は同時に俺の方を向く。優しい視線に俺はうれしくなる。
「これ、あげる」
 俺は一枚の絵を差し出す。俺が一番大好きな絵だ。
「これって……」
 母が近寄ってきて、この絵を手に持つ。父もそれを母の後ろから見る。
「はやて…ありがとお」
 母は大粒の涙を流しながら、俺に感謝の言葉を述べて、ついには膝から崩れ落ちた。父はそんな母を支えながら目頭を押さえる。
「大好きだよずっと」
「私たちも愛しているわ」
「お前は自慢の息子だ」
 俺も二人につられて涙が止まらなくなる。三人で抱き合って泣いて、一緒の布団で眠りについた最後の冬だった。次の日起きるとこの絵は部屋の真ん中に飾られていた。幸せそうに母と父が笑いあっている姿が。