春夏秋冬花祭 —夏の花は、不知火に結われて—

 紅羽(くれは)の家は、どこも広い。

 それは台所だって、例外ではなかった。

 結俐(ゆり)が入り口にかけられているカーテンをくぐると、そこには下働きの絵美(えみ)だけがいた。

 広い台所に、二人きり。

 そのせいか、妙に空白を感じる。

 結俐がそんなことをぼんやりと考えていると、絵美がこちらを振り向いた。

「あら、結俐さん、いらっしゃい」

 結俐は一つお辞儀をした。

 床はタイル張りで、綺麗に磨き上げられている。

 絵美の手に雑巾が握られているから、掃除の途中だったのだろう。

こんにちは、絵美さん。ご飯と卵をいただけますか。あと、少し余っているものがあれば」

 結俐がそう言うだけで、絵美にはわかったらしい。

 彼女は笑顔で頷くと、手にしていたぞうきんを壁際に置いた。

「紅羽お嬢様に向けて、ですね。お粥の材料でよろしいでしょうか」

「はい。調理器具、いつも通り使っていいですか」

「もちろんです。お怪我にはお気をつけて」

「わかりました」

 手を洗った絵美が材料を探している間に、結俐はまな板や包丁を準備する。

 やがて、調理台の上に、いくつかの材料が並んだ。

 ご飯、水、海苔、白だし、さつまいも。

「ありがとうございます、絵美さん」

 絵美は頷き、さつまいもを指さした。

「さつまいもはふかしてからお使いください。他の使い方はお任せします。私は別の家事をしていてもいいでしょうか」

「はい。いつもありがとうございます、絵美さん」

「いいえ、お気になさらないでください。では、紅羽お嬢様のお夕飯は、お任せいたしますね」

 絵美は一つ礼をすると、台所から出て行った。

 結俐も絵美に合わせて頭を下げる。

 そして、調理台に向きなおった。

 その顔から、さっきまで浮かべていた笑みが消える。

「……」

 結俐は再びため息をつき、セーラー服の袖をまくった。

 そして、包丁を手に取る。

 紅羽のことを考えながら、調理を始めた。