水面に残らない

 翌朝。
 目覚ましの音で目を覚ました。
 いつもなら、止めたらすぐに起き上がる。
 でも今日は、布団の中から出られなかった。

「……行きたくない」

 口に出してみる。
 その言葉が、自分が思っていたより重く響いた。
 学校に行きたくないわけじゃない。
 友達に会いたくないわけでもない。
 いつも通りの一日を過ごすことはできる。
 ただ、部活に行きたくなかった。
 あのプールサイドに立って、ストップウォッチを握ること。
 ノートを開いて、今日の日付を書くこと。
 陽菜が来て、何かを見つけて、また褒められるのを見ること。
 それを想像しただけで、胸の奥が重くなった。
 枕元のスマホを見る。
 時刻は、いつも家を出る時間に近づいていた。
 そろそろ起きないと。
 分かっているのに、体が動かなかった。
 布団の中で膝を抱える。
 昨日の私は、泣きながら自転車を漕いだ。
 今日の私は、泣くことすらできなかった。
 ただ、疲れていた。
 陽菜と比べてしまう自分に。
 比べるたびに、羨ましいと思ってしまうことに。
 そして、考えれば考えるほど、だんだん自分が何もしていないような気持ちになることに。
 私はゆっくりと布団から出た。
 鏡の中の私は、目が少し腫れていた。

「……最悪」

 小さく呟いて、前髪を整える。
 教室に行けば、いつも通り笑えると思う。
 澪に会えば、きっと昨日みたいにくだらない話もできる。
 でも、放課後のことを考えると、また胸が苦しくなった。
 制服に着替えて、鞄を肩にかける。
 玄関のドアを開けると、朝の光が一気に差し込んできた。
 眩しくて、私は思わず目を細めた。
 こんなに明るい朝なのに、私の心だけが、昨日の夜から暗いままだった。
 放課後。部活。
 その二つの言葉を頭の中に浮かべただけで、足が止まりそうになる。
 私はそれを振り払うように、自転車のペダルを踏み込んだ。