答えのない問題

三者面談の週は午前授業だったので、駅前のドーナツ店はうちの制服だらけだった。窓際の席に夕菜と向かい合って座ると、暖房が効きすぎていてコートを脱いでも背中に汗が滲んでくる。
「どうだった、昨日」
「んー、普通。お母さんが結構しゃべってた。先生とお母さんで盛り上がっちゃって、私ほとんど聞いてるだけ」
窓の外を、同じ学校の子が三人連れで通り過ぎていく。
「結局あそこにしようかな、前に言ったとこ。県立の」
学費の一覧に載っていた五つのうち、いちばん上に書いてあった名前だ。
「それ、お母さんが決めたの」
「決めたっていうか、勧められた」
「じゃあ、そういうことじゃん」
「そういうことって?」
春はアイスコーヒーのストローを回した。氷がぶつかって、軽い音が立つ。
「それって、自分で決めてないじゃん。だって、親に勧められたんでしょ。自分で選んだわけじゃなくて」
「勧められたよ。でも、私もそこがいいと思ったし」
「でもさ、それってさ……」
「春さ」
夕菜の声が少し低くなった。
「じゃあ、誰かの意見を聞いて決めたら、自分で決めたことにならないの?」
「そうは言ってないけど」
「言ってるよ」
「いや、だから、なんていうか……最初から自分で見つけたほうが、その」
「見つけたら偉いの?」
夕菜は手を膝に下ろして、まっすぐこちらを見ていた。ストローから離した春の指先が、グラスの水滴で濡れている。
「人に相談することと、人に人生を決めてもらうことは違うよ」
そう言ってから、夕菜は残りのドーナツを口に入れた。
しばらく何も言わずに噛んで、空になった紙コップを持って立ち上がり給水機に行った。戻ってきたとき、夕菜は紙コップを二つ持っていて、一つを春の前に置いた。
「はい」と言った声は、もういつもの高さに戻っている。
その後は普通に話した。冬休みの予定とか、二組の担任の髪型が変わったとか、そういうことを。夕菜はいつもどおり笑っていたし、別れ際に手を振っていた。
帰り道は自転車を押して歩いた。最寄りの駅の駐輪場から家まで十五分。空はもう暗くなりはじめていて、風が耳の後ろを通り抜けるたびに、首元が冷たくなる。
人に相談することと、人に人生を決めてもらうことは違う。
理屈としては、たぶん正しいのだろう。正しいとは思う。思うのに、どこかに引っかかったまま外れない。
誰かに聞いた時点で、その誰かの影が混ざってしまうのではないか。混ざったものを、自分で決めたと呼んでいいのか。