ありふれた毎日に泡の花束を

「おねえちゃん、きょうのごはんなあに?」
夕焼けに照らされる道、私の左手を一生懸命握ってプラプラさせている花鈴はかわいらしく首を傾げた。
あの後何とか電車に間に合って無事、花鈴のお迎えに間に合った。

「んーなにがいいかなぁ。花鈴は何が食べたい??」
そう聞くと彼女は「オムライス!」 と元気よく答えた。
花鈴はいいなぁ、自分が欲しいものをすぐ口にできて。うらやましい。

「じゃあ、オムライスにしよっか!」
というとぱあっと顔が輝いて、きらきらした瞳で「やったー!」 と喜んでいる。
花鈴はオムライスが大好きなのだ。そんな天使のような笑顔で喜ばれると、こっちも作りがいがある。

 家に着くなり、花鈴はダイニングの椅子にちょこんと座って、目を輝かせながらキッチンを見つめている。
鶏肉と玉ねぎを炒め、ご飯を投入してケチャップで色づける。
香ばしい匂いが漂うたびに、花鈴が「いいにおい!」 と嬉しそうに鼻をひくつかせた。
バターを溶かしたフライパンできれいな薄焼き卵を作ってチキンライスの上にそっと滑らせれば、
特製オムライスの完成だ。
仕上げにケチャップで大きなハートを描くと、花鈴は「わあ……!」 と声を弾ませた。

 ご飯を食べて、お風呂に入って......。花鈴がようやく寝てくれたのは夜の9時過ぎ。
ここからは家事モードに入る。黙々とこなしていくものの結局、
自分の時間になるのは10時を過ぎてしまう。
 いつものことだけど、花鈴が喜んでくれたから、よしとするのだ。

「ただいまー」
そう声がして玄関を見ると母が疲れた顔をしてはいってくる。
「おかえり。お仕事、おつかれさま。今日はオムライスにしたんだ。たべる?」
「あ、めいあ。ただいま。久しぶりに食べようかしら」
「じゃあ、温めるね。ほかに何かいる?」
 と手を洗っている母に尋ねる。
「オムライスだけでいいわ。それより聞いてよ、きょう鈴木さんがね──」

 あぁ、始まった。母の小言。ちなみに鈴木さんというのは母の同僚で母曰くマイペースらしい。
オブラートに包んでいるが、つまり仕事が遅いから早くやってくれ、という意味だろう。

「めいあ?聞いてるの?」
「あぁ、ごめん、なんだっけ」
「あなた最近へんよ? 人の話を聞くときも上の空で。疲れているのかしらね。熱は......うーん、ないようだけど。
今日は早く休んじゃいなさい」
と、私のおでこに手を当てて言う母。

 早く休め、ってもう10時超えてるけどね。私だってまだやることあるんだよ。
何もしないで自分のことだけやってれば、早く休めるのに。
大体、お母さんだってもう少し早く帰ってこれないの。私ばっかり我慢して──。

 なんて、仕事で疲れている母に言えるはずがない。
私たちのために頑張ってこんな夜遅くまで働いてくれているのに。

 そうしようかな、なんて思ってもいないことを口にして、
「おやすみなさい」
と言って、自室へと上がっていった。