ありふれた毎日に泡の花束を

「それじゃあ、今から委員会の係決めをします」
新学期早々、見慣れない顔ぶりの前で声を上げる。

 去年も学級委員長だったこともあり、
「もしも、誰もいないなら……」 と、先生直々に推薦されたのだった。

「えーっと、委員会内容は去年と同様になります。あと今年から、飼育委員会が増えました。
みんなも、アンケートに回答してくれたからわかると思うんだけど、うちで飼っているうさぎをお世話するのは生徒の役目だっていう声が出ました。
これは、多数決の結果委員会となったので、みんなぜひやってくれると嬉しいです」

 なんて、上辺だけの言葉をスラスラ並べてみる。
そうじゃないと、みんなやってくれなさそうだから。

「あー!委員会どうしよぉ〜、今年もめいあは学級委員長だし、一緒にできないし」
と紬は頭を抱えている。
「紬は元気だから風紀委員とかも向いてると思うんだけどなぁ」
私がそう呟くと今まで唸っていたのがまるで嘘かのようにパッと輝かせて、「そうする!」 と言った。
 そんなこんなで無事に委員会は全て決まった。

「じゃ、めいあまた明日ね〜!」
「うん、また明日。部活頑張ってね」

 紬はテニス部に入っているのでこれから部活だ。
私は担任に呼び出されているので職員室へと向かう。

「失礼します。」

 控えめにそう入っていくと今年も担任の岩田先生に持ち前の大きな声で呼び出される。さすが、野球部顧問だ。

「先生、用ってなんですか?」
「いやぁ、用っていうかさ。去年の仕事っぷりもそうだけど、やっぱりお前がいてくれると助かるよ。
如月がいてくれれば今年も安泰だな」

 ガハハハ、とやたら大きな声が静かな職員室に響く。

「そう言ってもらえて私もうれしいです。今年もよろしくお願いします」
 と、ありきたりな言葉を口にして微笑む。
「そうか?そりゃあよかった。こっちこそ、今年もよろしく頼むな。如月のことは信頼してるからさ」
 と肩に手を置いて言われる。

──信頼。

 私は顔がゆがみそうになるのを必死にこらえて張り付けた笑みを浮かべた。

「はい。....では先生、電車の時間がありますので、私はここで失礼します」
「おう。気を付けて帰るんだぞー」
 
 失礼します、と職員室を出る。まだだ、まだ気を抜いちゃいけない。

 足早に教室に戻り、誰もいないことを確認すると私は止めていた息を吐いた。
それと同時にちくり、と胃が痛む。
 窓の外に見えるグラウンドには生徒たちが一生懸命部活をしていた。
「......あ、つむぎだ」

 視線の先に映ったのは仲間と笑いあいながら話している紬の姿だった。

(楽しそう....)

 太陽の下であんなにも、キラキラ輝いてテニスをしている彼女は、どこかのアイドルと同じ、私にとって遠い存在だった。

「部活、やりたかったなぁ」

 そんな本音が、静かな教室にこだまする。
私も部活に入りたかったのだが、妹のお世話と家の家事、そして毎日の授業の復習で手いっぱいで断念したのである。

ピロロン....と机に置いてあったスマホが通知を知らせる音を出した。
見てみると、母からだった。


『お姉ちゃん、花鈴のお迎え、よろしくね。あと、今朝、牛乳が切れちゃったから
買ってきてくれると助かるわ』


 そんな淡々としたメッセージ。お迎えも、毎日のことだから今更気にしない。

「....あ、電車。」

時計を見ると、電車の出発時刻まであと5分程度しかない。走れば間に合うはずだ。
急がなければ、と私は駆け足で教室を後にした。