壊れるのを、待っている。ずっと、壊されるのを、待っている。
純に手を引かれて歩きながら、胸の痛みが加速して、目頭がどんどん熱くなっていく。握られた指先から、何かがあふれ出していくようで、でもそれを止められなくて、それが悔しくて、瞳が熱い。
誰かの庇護がなければ、生きていけない私達の、精一杯の自由は、籠の中。
どうすれば自由になれるのか、どうすれば自分の言葉が持てるのか。問いかけながら、けれど自分の無力さに震える指先を握り締めても、何もつかめないことを知っていた。それでも必死で、何かをつかもうともがいていた。何も持てない、指先で。
私に与えられた籠は小さな針で覆われて、羽ばたくたびに翼が千切れる。震えるたびに羽毛が削がれる。だから身動きできない自分を今、この籠の外へ飛び立たせたいと願っていた。行くあてもなく。
私たちが人生って呼ぶ毎日には、大人は忘れてしまった辛いことがたくさんあって、それを笑ってやり過ごす為には、たくさんの嘘が必要だった。
大人は皆、私達が「同じ思考」を持っていて、「同じ感情」を持っていると、思いたがっている。全部一絡げに考えられたなら、それらはきっと、なにもかもが簡単に片付くから。だから自分達の望みを形にしたくて、私達をぎゅうぎゅうに、同じ箱に詰め込もうとする。
同じ「生き物」なんて、世界中、何処を探したって、いるはずないのに。その現実を、夢という嘘で埋め尽くしていく。
大人が望む夢の中には、大人が望む完璧な幸せがあって、私も同じ夢を見られたなら、もしかしたら幸せになれたのかもしれない。けれど私は、毎日違う未来を夢見ながら、夢が叶わないことを知っていた。
純の指先から伝わるぬくもりが、身体の芯まで届く。
「……純ちゃん……」
足を止めない純を、途切れる声音で、昔のように、呼んだ。甘くふわふわとした綿菓子のように、優しい名前を呼んだ。
本当は、気づいている。気づいてしまった。哀しいけれど。
優しい気持ちになれるのに、涙が溢れそうになる。穏やかさの中に痛みが潜むのは、いつものことだった。
痛くて優しい記憶の全ては、純に繋がっている。ふれたなら、ひりひりと痛む心を知っていても、その答を聞くことが怖くて耳を塞ぐ自分を知っていても、前を歩く純に、そっと問いかけてみたくなる。
―― 純は知ってる? 私のこと?
馬鹿な言葉。馬鹿な問い。そうわかっていても。
無理をする事は得意な方だと思っていた。今までだって、ずっとそうして生きて来た。だから、なんでもない毎日の積み重ねの中で、哀しむことなんかもうないと、そう思っていたのに。
ゆっくりと瞼を閉じる。呼吸に合わせて早くなる、心臓の音が煩かった。他方の指先を胸元において、ぎゅっと握り締める。早くなる心拍数を、なんとか落ち着かせたくて。弱い自分を認めたくないのに、心が軋んだ音を立てて痛み出していた。
私という塊が、弱さだけで支配されていく。視線の先には求める人がいて、冷えた指の先には包み込んでくれる温かい手がある。そして、その手を放せない自分がいる。
純に手を引かれて歩きながら、胸の痛みが加速して、目頭がどんどん熱くなっていく。握られた指先から、何かがあふれ出していくようで、でもそれを止められなくて、それが悔しくて、瞳が熱い。
誰かの庇護がなければ、生きていけない私達の、精一杯の自由は、籠の中。
どうすれば自由になれるのか、どうすれば自分の言葉が持てるのか。問いかけながら、けれど自分の無力さに震える指先を握り締めても、何もつかめないことを知っていた。それでも必死で、何かをつかもうともがいていた。何も持てない、指先で。
私に与えられた籠は小さな針で覆われて、羽ばたくたびに翼が千切れる。震えるたびに羽毛が削がれる。だから身動きできない自分を今、この籠の外へ飛び立たせたいと願っていた。行くあてもなく。
私たちが人生って呼ぶ毎日には、大人は忘れてしまった辛いことがたくさんあって、それを笑ってやり過ごす為には、たくさんの嘘が必要だった。
大人は皆、私達が「同じ思考」を持っていて、「同じ感情」を持っていると、思いたがっている。全部一絡げに考えられたなら、それらはきっと、なにもかもが簡単に片付くから。だから自分達の望みを形にしたくて、私達をぎゅうぎゅうに、同じ箱に詰め込もうとする。
同じ「生き物」なんて、世界中、何処を探したって、いるはずないのに。その現実を、夢という嘘で埋め尽くしていく。
大人が望む夢の中には、大人が望む完璧な幸せがあって、私も同じ夢を見られたなら、もしかしたら幸せになれたのかもしれない。けれど私は、毎日違う未来を夢見ながら、夢が叶わないことを知っていた。
純の指先から伝わるぬくもりが、身体の芯まで届く。
「……純ちゃん……」
足を止めない純を、途切れる声音で、昔のように、呼んだ。甘くふわふわとした綿菓子のように、優しい名前を呼んだ。
本当は、気づいている。気づいてしまった。哀しいけれど。
優しい気持ちになれるのに、涙が溢れそうになる。穏やかさの中に痛みが潜むのは、いつものことだった。
痛くて優しい記憶の全ては、純に繋がっている。ふれたなら、ひりひりと痛む心を知っていても、その答を聞くことが怖くて耳を塞ぐ自分を知っていても、前を歩く純に、そっと問いかけてみたくなる。
―― 純は知ってる? 私のこと?
馬鹿な言葉。馬鹿な問い。そうわかっていても。
無理をする事は得意な方だと思っていた。今までだって、ずっとそうして生きて来た。だから、なんでもない毎日の積み重ねの中で、哀しむことなんかもうないと、そう思っていたのに。
ゆっくりと瞼を閉じる。呼吸に合わせて早くなる、心臓の音が煩かった。他方の指先を胸元において、ぎゅっと握り締める。早くなる心拍数を、なんとか落ち着かせたくて。弱い自分を認めたくないのに、心が軋んだ音を立てて痛み出していた。
私という塊が、弱さだけで支配されていく。視線の先には求める人がいて、冷えた指の先には包み込んでくれる温かい手がある。そして、その手を放せない自分がいる。

