いつからか……、
ママは自分の夢しか見なくなって、自分が欲しいと思う言葉しか聞こえなくなった。昔からそんなトコロはあったけれど、パパが突然家を出て行ってしまってからは、そんなトコロしかなくなった。私の言葉は、ママに届かない。
「美香ちゃん。練習、ちゃんとしてる? 教室、サボっちゃ駄目よ」
「ママ、私はもう……、ピアノ、弾けないんだよ」
「ちゃんと練習続けてたら、絶対大丈夫よ。あんなに上手だったんだから」
「私はもう、弾きたくないって、言ったよね」
「お医者様の言うことなんか気にしないで。もっといい病院、探してあげるから、美香ちゃんは安心してて」
「ママ! 私の話を聞いて!」
「どうしたの? 美香ちゃん。なんで泣くの?」
小さい子供をあやすように、笑ってママは言う。
どんなに叫んでも、泣いて見せても、私の本当は、ママには届かない。ただ「どうしたの?」って笑って問いかける。そして、私の失くした夢を、今、現実の夢のように語りかけてくる。壊れかけていたママの言葉は私まで壊そうと、ぬるい温度の指先で、私を絡めとろうとしていた。
(夢を失くしたことを、一番に哀しんでいるのは、私じゃないの?)
言葉に出せない問いは、胸の中でだけ、繰り返された。
パパが私を捨てるなら、ママが私を見てくれないなら、本当の私は、いったい何処にいればいいのか。何処にいていいのか。私の場所は、何処にあるのか。もしも、……もしも、パパとママがもう一度、仲良くなってくれるなら、もう一度、皆で笑い合えるなら、私は帰る場所を見つけられるのかもしれない。そう、思っていた。
でも、私の両手は、叶わない夢と叶わない願いでいっぱいで、望む未来をつかめる手は、残されてなかった。
パパが家を出て行った、少し後。中学校の校門の前に立つパパを見つけたとき、私は意味もなく泣き出していた。
(パパ……。逃げないで、帰ってきて、お願いだから)
言葉に出来ない想いを飲み込みながら、私は泣いていた。声も出さずに泣く私の頭をそっと撫でて、パパは小さく謝った。
「ごめん……、な……」
零れ落ちる涙をそのままに、私はただじっと、パパを見つめた。見つめながら、心の中で、繰り返していた。
(私はまだ、それでも、信じていたい。パパが、いつか帰ってくることを。ママが、いつか私に気づいてくれることを)
暗い道に、キラキラと光る、夢の欠片。その欠片が何処まで続くのか、拾い疲れた私は肩を落して、延々と続く道をただ眺めていた。
ママは自分の夢しか見なくなって、自分が欲しいと思う言葉しか聞こえなくなった。昔からそんなトコロはあったけれど、パパが突然家を出て行ってしまってからは、そんなトコロしかなくなった。私の言葉は、ママに届かない。
「美香ちゃん。練習、ちゃんとしてる? 教室、サボっちゃ駄目よ」
「ママ、私はもう……、ピアノ、弾けないんだよ」
「ちゃんと練習続けてたら、絶対大丈夫よ。あんなに上手だったんだから」
「私はもう、弾きたくないって、言ったよね」
「お医者様の言うことなんか気にしないで。もっといい病院、探してあげるから、美香ちゃんは安心してて」
「ママ! 私の話を聞いて!」
「どうしたの? 美香ちゃん。なんで泣くの?」
小さい子供をあやすように、笑ってママは言う。
どんなに叫んでも、泣いて見せても、私の本当は、ママには届かない。ただ「どうしたの?」って笑って問いかける。そして、私の失くした夢を、今、現実の夢のように語りかけてくる。壊れかけていたママの言葉は私まで壊そうと、ぬるい温度の指先で、私を絡めとろうとしていた。
(夢を失くしたことを、一番に哀しんでいるのは、私じゃないの?)
言葉に出せない問いは、胸の中でだけ、繰り返された。
パパが私を捨てるなら、ママが私を見てくれないなら、本当の私は、いったい何処にいればいいのか。何処にいていいのか。私の場所は、何処にあるのか。もしも、……もしも、パパとママがもう一度、仲良くなってくれるなら、もう一度、皆で笑い合えるなら、私は帰る場所を見つけられるのかもしれない。そう、思っていた。
でも、私の両手は、叶わない夢と叶わない願いでいっぱいで、望む未来をつかめる手は、残されてなかった。
パパが家を出て行った、少し後。中学校の校門の前に立つパパを見つけたとき、私は意味もなく泣き出していた。
(パパ……。逃げないで、帰ってきて、お願いだから)
言葉に出来ない想いを飲み込みながら、私は泣いていた。声も出さずに泣く私の頭をそっと撫でて、パパは小さく謝った。
「ごめん……、な……」
零れ落ちる涙をそのままに、私はただじっと、パパを見つめた。見つめながら、心の中で、繰り返していた。
(私はまだ、それでも、信じていたい。パパが、いつか帰ってくることを。ママが、いつか私に気づいてくれることを)
暗い道に、キラキラと光る、夢の欠片。その欠片が何処まで続くのか、拾い疲れた私は肩を落して、延々と続く道をただ眺めていた。

