好き…… 好き……
一日、一日と、「好き」が増えて、増えるたびに、息が苦しくなっていく。心が、水から出された金魚みたいに、ピチピチと喘いでいた。逸る鼓動を宥める術も、止められない衝動を押さえ込むことも、相手の応えを思い計る余裕さえないまま、ただがむしゃらに突き進むだけの恋は、過剰に膨らみ続けていった。
好きすぎて、不安になる。不安は不安を呼ぶのに、幸せは幸せを呼べなくて、心は乾くばかりだった。私達は近づくために抱き合っていたはずなのに、抱き合えば抱き合うほど、心の何かが冷めていって、失くしたくない絆が想う端から消えていくような喪失感が、いつも付き纏っていた。求めすぎる心が生む根拠のない不安は、猜疑心ばかりを育てたがって、心が本当を見つけられなくなっていく。
初めての恋の切なさは、未熟な胸に抱えきれなくて、独りでいるのが辛くて、私はいつも違う高校に通っていた、純ちゃんの部屋にいた。
「CDかけていい?」
自分の部屋なのに、純ちゃんは私に問いかける。
「……うん」
ぶっきらぼうに頷いた私の耳に、小さなスピーカーから、細い歌声が聴こえてくる。
知らない言葉。聴いたことのない音楽。でも、その旋律は、どうしてか心に触れて……、思いがけず涙が零れた。純ちゃんは黙って傍にいる。何も言わない。泣いている私を見ることもしない。
知らない人の、少し掠れた甘い声が、耳の奥に谺する。
「どうして……」
先に口を開いたのは、私のほうだった。そして、
「どうしてこんなに好きなのに、私は純ちゃんといるんだろう?」
自分でもわからない自分のことを、聞いてみる。
「どうしてこんなに好きなのに、哀しいんだろう?」
言いながら、抱えた膝に頬を埋める私の頭を、純ちゃんがポンポンと撫でる。
「しょうがないよ。好きになっちゃったんだから」
その言葉は水に沈むように、ポトンと、私の胸に落ちてきた。
水底から昇る、きらきらと光る気泡を追いかけるように、私は顔をあげた。
涙を拭うこともしないまま、純ちゃんのまっすぐな瞳を、ただ見つめた。子供の頃から変わらない、純ちゃんの黒目がちな瞳が、濡れたように潤んでいた。
無意識に、瞳が眩むくらい近くにあった純ちゃんの唇に、唇をよせた。
そっと触れるだけの、優しいキスの後、純ちゃんは驚く素振りも見せないで、私の頭を、その胸に抱いてくれた。純ちゃんの唇は、柔らかくて、冷たかった。その冷たさは、まるで言い足りない言葉の欠片みたいだった。
純ちゃんの手は、私の背中で緩く組まれる。ただ優しく、少しだけ力を込めて、私を包んでくれる。思いのほか広くなったその胸にもたれて、私は知らない歌を聴いていた。時を刻む砂のような、サラサラとした音だけが私の耳に残る。それは私に繰り返す。
―― 大丈夫だよ。大丈夫だよ。
そう、繰り返していた。
一日、一日と、「好き」が増えて、増えるたびに、息が苦しくなっていく。心が、水から出された金魚みたいに、ピチピチと喘いでいた。逸る鼓動を宥める術も、止められない衝動を押さえ込むことも、相手の応えを思い計る余裕さえないまま、ただがむしゃらに突き進むだけの恋は、過剰に膨らみ続けていった。
好きすぎて、不安になる。不安は不安を呼ぶのに、幸せは幸せを呼べなくて、心は乾くばかりだった。私達は近づくために抱き合っていたはずなのに、抱き合えば抱き合うほど、心の何かが冷めていって、失くしたくない絆が想う端から消えていくような喪失感が、いつも付き纏っていた。求めすぎる心が生む根拠のない不安は、猜疑心ばかりを育てたがって、心が本当を見つけられなくなっていく。
初めての恋の切なさは、未熟な胸に抱えきれなくて、独りでいるのが辛くて、私はいつも違う高校に通っていた、純ちゃんの部屋にいた。
「CDかけていい?」
自分の部屋なのに、純ちゃんは私に問いかける。
「……うん」
ぶっきらぼうに頷いた私の耳に、小さなスピーカーから、細い歌声が聴こえてくる。
知らない言葉。聴いたことのない音楽。でも、その旋律は、どうしてか心に触れて……、思いがけず涙が零れた。純ちゃんは黙って傍にいる。何も言わない。泣いている私を見ることもしない。
知らない人の、少し掠れた甘い声が、耳の奥に谺する。
「どうして……」
先に口を開いたのは、私のほうだった。そして、
「どうしてこんなに好きなのに、私は純ちゃんといるんだろう?」
自分でもわからない自分のことを、聞いてみる。
「どうしてこんなに好きなのに、哀しいんだろう?」
言いながら、抱えた膝に頬を埋める私の頭を、純ちゃんがポンポンと撫でる。
「しょうがないよ。好きになっちゃったんだから」
その言葉は水に沈むように、ポトンと、私の胸に落ちてきた。
水底から昇る、きらきらと光る気泡を追いかけるように、私は顔をあげた。
涙を拭うこともしないまま、純ちゃんのまっすぐな瞳を、ただ見つめた。子供の頃から変わらない、純ちゃんの黒目がちな瞳が、濡れたように潤んでいた。
無意識に、瞳が眩むくらい近くにあった純ちゃんの唇に、唇をよせた。
そっと触れるだけの、優しいキスの後、純ちゃんは驚く素振りも見せないで、私の頭を、その胸に抱いてくれた。純ちゃんの唇は、柔らかくて、冷たかった。その冷たさは、まるで言い足りない言葉の欠片みたいだった。
純ちゃんの手は、私の背中で緩く組まれる。ただ優しく、少しだけ力を込めて、私を包んでくれる。思いのほか広くなったその胸にもたれて、私は知らない歌を聴いていた。時を刻む砂のような、サラサラとした音だけが私の耳に残る。それは私に繰り返す。
―― 大丈夫だよ。大丈夫だよ。
そう、繰り返していた。

