人生に無駄なことなんてないって、思ってた。
街の風景も、音楽も、小説も。
自分の身近なものは、きっと何かを私に与えてくれる。
そう考えていた。
ーーあの時までは。
私は、昔から小説を読むことも、そして書くことも好きだった。
お母さんも私の小説を読んでは、
「栞は文章書くのがうまいねえ。いつか小説家になれるよ」
なんて言ってくれた。
だから私は、自分はできる子だと思ってしまったのだ。
そして無謀にも、小説賞に応募した。
結果は、一次審査落ち。
結果を見たときはすごく泣いた。
そして思ったんだ。
才能がないのに、時間を使ってまで叶わないことを追い求めるのは無駄なことだと。
それから一年が経った。
私は高校二年生になった。
今は二年生の始まりで、そろそろ進路を考えなきゃいけない時期だ。
教室では、
「国公立」
「看護」
「専門学校」
「就職」
と友達がそれぞれの進路を書いていく。
だけど、私はまだ白紙だった。
『また才能がなかったらどうしよう』
『やってみて、通用しなかったらどうしよう』
そう考えると、全然手が動かなかったのだ。
担任の山下先生からも、
「水瀬もそろそろ考えろよ」
と言われている。
だが、過去の記憶がしこりとなって、未来を考える気分にはどうしてもなれなかった。
放課後。
国語係の私は、提出されたプリントを集めて国語準備室を訪れた。
そこには榊原先生がいた。
私の通っている私立明頴高校は、中高一貫校だ。
榊原先生は、中学の入学時からいままで国語の授業を担当してくれていた自分の恩師だ。
『小説家になりたいんです』
そう言って、先生の元をよく訪れていたっけ。
でもそんな日々も小説賞の一次審査に落ちてからなくなった。
だから榊原先生が、
「水瀬、最近何か書いてる?」
と言ってきたことに、すごく驚いた。
まだ覚えていてくれたんだ。
胸が少し温かくなる。
それと同時に自分に才能がなかったことが、なんだか申し訳なくて仕方がなかった。
「もう書いてません」
「なんで?」
「才能ないので」
すると、先生は真顔になって、
「それ、誰が決めたの?」
と問うてきた。
私は答えられなかった。
だって一次審査落ちしたし。
文章だってめちゃくちゃだし
言いたいことは一杯あったけど何も答えられない。
「っ失礼します!」
私は、逃げるように国語準備室を後にした。
息が上がる。
気づけば昇降口まで走ってきていた。
私は、スマホのメモに残っている昔の小説を開いた。
内容は今読み返してみると、とてもひどいものだった
なんでこれで賞がとれると思っていたのだろうか。
乾いた笑いが出る。
「やっぱり才能ないよ」
「自分が決めたんじゃない、これが証拠だ」
そう呟いて、私はスマホを鞄にしまった。
家に帰る道は、びしょびしょで、雨が降った後だった。
空を見上げると曇天でまたすぐに降りだしそうな空模様だった。
私は走って家へと帰った。
家につくとだれもいなかった。
私は飲み物だけを持って二階の自室へと向かった。
そしてパソコンを起動し、小説投稿サイトを見る。
自分の作品をクリックしようとして、やめた。
そしてランキング上位の人の小説を読むことにした。
これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせながら。
翌朝、いつものように登校すると、昇降口で榊原先生が壁にもたれかかっていた。
昨日のことがなんとなく、気まずくて、私は先生の横をさっと通り過ぎようとした。
したのだが…。
先生に捕まった。
「水瀬、ちょっと時間もらえるか」
そう言われてしまえば、恩師の願いを断ることなんてできない。
私は「はい」とだけ答えて先生についていった。
連れていかれた場所は案の定、国語準備室だった。
先生が先に入り、私も続いて中へ入る。
後ろ手にドアを閉めた。
きっとこれから始まるのはお説教だから。
できればほかの人には聞かれたくなかった。
深く息を吸って、吐く。
そして先生に向き合った。
「朝から何の用ですか?」
なるべく平常心に見えるように心がけたが、うまくいっているかはわからない。
先生は椅子に座って、こちらを見ている。
そして端的に。
「なんで昨日逃げた」
とだけ聞いてきた。
そう聞いてくるだろうとは思っていた。
けれど、いざ聞かれると辛い。
自分の才能がないことを再認識したからだ、なんて言いたくない。
私が黙っていると、先生はため息をついた。
ーー失望された。
そう思ったその時。
「俺は、水瀬に才能がないとは思わない」
全く予想していなかった言葉が飛んできた。
「へ?」
思わず変な声が出る。
「水瀬は、一回賞を取れなかっただけで才能がないと決めつけているようだが」
そこで先生は言葉を切り、机から何かを取り出した。
それはーー。
私が応募した原稿に、赤色でいいところが入っているものだった。
『ここの主人公の心理描写が秀逸』
『恋愛描写にリアリティがある』
『最後まで書ききれてる』
それだけじゃない。
ページをめくれば、ほかにもたくさんの言葉が残されていた。
「こんだけいいところがあるのに、才能がないっていうのは違うんじゃないのか?」
先生は珍しく優しく問いかけてくれた。
私の小説をこんな風に評価してくれる人がいるなんて。
それだけで目頭が熱くなる。
でも。
もう無駄なことはしたくない。
「先生ごめんなさい」
「こうやってほめてくれるのは嬉しいです」
「でもやっぱり私は小説家になれるような人間じゃない」
「小説を書いている時間があったら勉強をして、いい大学に入って、大企業に就職した方がいいと思うんです」
「だからごめんなさい」
そう言って私は国語準備室を出た。
街の風景も、音楽も、小説も。
自分の身近なものは、きっと何かを私に与えてくれる。
そう考えていた。
ーーあの時までは。
私は、昔から小説を読むことも、そして書くことも好きだった。
お母さんも私の小説を読んでは、
「栞は文章書くのがうまいねえ。いつか小説家になれるよ」
なんて言ってくれた。
だから私は、自分はできる子だと思ってしまったのだ。
そして無謀にも、小説賞に応募した。
結果は、一次審査落ち。
結果を見たときはすごく泣いた。
そして思ったんだ。
才能がないのに、時間を使ってまで叶わないことを追い求めるのは無駄なことだと。
それから一年が経った。
私は高校二年生になった。
今は二年生の始まりで、そろそろ進路を考えなきゃいけない時期だ。
教室では、
「国公立」
「看護」
「専門学校」
「就職」
と友達がそれぞれの進路を書いていく。
だけど、私はまだ白紙だった。
『また才能がなかったらどうしよう』
『やってみて、通用しなかったらどうしよう』
そう考えると、全然手が動かなかったのだ。
担任の山下先生からも、
「水瀬もそろそろ考えろよ」
と言われている。
だが、過去の記憶がしこりとなって、未来を考える気分にはどうしてもなれなかった。
放課後。
国語係の私は、提出されたプリントを集めて国語準備室を訪れた。
そこには榊原先生がいた。
私の通っている私立明頴高校は、中高一貫校だ。
榊原先生は、中学の入学時からいままで国語の授業を担当してくれていた自分の恩師だ。
『小説家になりたいんです』
そう言って、先生の元をよく訪れていたっけ。
でもそんな日々も小説賞の一次審査に落ちてからなくなった。
だから榊原先生が、
「水瀬、最近何か書いてる?」
と言ってきたことに、すごく驚いた。
まだ覚えていてくれたんだ。
胸が少し温かくなる。
それと同時に自分に才能がなかったことが、なんだか申し訳なくて仕方がなかった。
「もう書いてません」
「なんで?」
「才能ないので」
すると、先生は真顔になって、
「それ、誰が決めたの?」
と問うてきた。
私は答えられなかった。
だって一次審査落ちしたし。
文章だってめちゃくちゃだし
言いたいことは一杯あったけど何も答えられない。
「っ失礼します!」
私は、逃げるように国語準備室を後にした。
息が上がる。
気づけば昇降口まで走ってきていた。
私は、スマホのメモに残っている昔の小説を開いた。
内容は今読み返してみると、とてもひどいものだった
なんでこれで賞がとれると思っていたのだろうか。
乾いた笑いが出る。
「やっぱり才能ないよ」
「自分が決めたんじゃない、これが証拠だ」
そう呟いて、私はスマホを鞄にしまった。
家に帰る道は、びしょびしょで、雨が降った後だった。
空を見上げると曇天でまたすぐに降りだしそうな空模様だった。
私は走って家へと帰った。
家につくとだれもいなかった。
私は飲み物だけを持って二階の自室へと向かった。
そしてパソコンを起動し、小説投稿サイトを見る。
自分の作品をクリックしようとして、やめた。
そしてランキング上位の人の小説を読むことにした。
これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせながら。
翌朝、いつものように登校すると、昇降口で榊原先生が壁にもたれかかっていた。
昨日のことがなんとなく、気まずくて、私は先生の横をさっと通り過ぎようとした。
したのだが…。
先生に捕まった。
「水瀬、ちょっと時間もらえるか」
そう言われてしまえば、恩師の願いを断ることなんてできない。
私は「はい」とだけ答えて先生についていった。
連れていかれた場所は案の定、国語準備室だった。
先生が先に入り、私も続いて中へ入る。
後ろ手にドアを閉めた。
きっとこれから始まるのはお説教だから。
できればほかの人には聞かれたくなかった。
深く息を吸って、吐く。
そして先生に向き合った。
「朝から何の用ですか?」
なるべく平常心に見えるように心がけたが、うまくいっているかはわからない。
先生は椅子に座って、こちらを見ている。
そして端的に。
「なんで昨日逃げた」
とだけ聞いてきた。
そう聞いてくるだろうとは思っていた。
けれど、いざ聞かれると辛い。
自分の才能がないことを再認識したからだ、なんて言いたくない。
私が黙っていると、先生はため息をついた。
ーー失望された。
そう思ったその時。
「俺は、水瀬に才能がないとは思わない」
全く予想していなかった言葉が飛んできた。
「へ?」
思わず変な声が出る。
「水瀬は、一回賞を取れなかっただけで才能がないと決めつけているようだが」
そこで先生は言葉を切り、机から何かを取り出した。
それはーー。
私が応募した原稿に、赤色でいいところが入っているものだった。
『ここの主人公の心理描写が秀逸』
『恋愛描写にリアリティがある』
『最後まで書ききれてる』
それだけじゃない。
ページをめくれば、ほかにもたくさんの言葉が残されていた。
「こんだけいいところがあるのに、才能がないっていうのは違うんじゃないのか?」
先生は珍しく優しく問いかけてくれた。
私の小説をこんな風に評価してくれる人がいるなんて。
それだけで目頭が熱くなる。
でも。
もう無駄なことはしたくない。
「先生ごめんなさい」
「こうやってほめてくれるのは嬉しいです」
「でもやっぱり私は小説家になれるような人間じゃない」
「小説を書いている時間があったら勉強をして、いい大学に入って、大企業に就職した方がいいと思うんです」
「だからごめんなさい」
そう言って私は国語準備室を出た。


