冷笑系の僕が、花火を見る君の横顔に恋をした

「はあ!? 何で倉科が柚希と一緒にいるんだよ?」

 花火会場となる海岸沿いの近くにある、大きな自然公園。待ち合わせ場所に指定されていたその公園で、あの一軍グループの面々は既に勢ぞろいしていた。
 小野寺は、柚希のすぐ隣を歩いてやってきた僕の姿を認識するや否や、露骨に不快感を露わにして怒鳴り散らした。

「私が誘ったの。一緒に来てもらいたくて」

 柚希は一歩後ろに縮こまる僕を庇うように一歩前へ出ると、どこまでも冷静なトーンで言い返した。怒りを隠そうともしない小野寺とは対照的に、他のメンバーたちは「何で?」と互いに顔を見合わせ、奇妙なものでも見るかのように首を傾げている。

(……まあ、予想通りの反応だよな)

 こうなることは百も承知でやってきたはずだった。けれど、いざこの刺々しく冷ややかな空気を肌で直接浴びせられると、嫌でも全身から脂汗が吹き出てくる。
 小野寺は底意地の悪い薄ら笑いを口元に浮かべると、僕を威圧するように一歩詰め寄ってきた。

「何でお前なんかが俺たちのグループに入ってくるんだよ? 小説が書けるのが、そんなに偉くてすげぇのかよ?」

 そんなこと言われても……誘ってきたのは柚希だし……と、そう声にしたかった。でも、意気地なしの僕は、当然のようにだんまりを決め込んでしまう。
 そんな小野寺の執拗な追及をバッサリと遮るように、柚希が毅然とした声を張り上げた。

「……あのさ。今日はみんなに、ちゃんと伝えたいことがあって呼んだの」
「伝えたいこと? 何だよ急に」

 小野寺は柚希にまで高圧的な態度を見せた。僕みたいな陰キャが一人紛れ込んだだけでここまで余裕をなくして苛立つなんて、どれだけ排他的で脆いコミュニティなのだろうと、どこか哀れみすら覚えてしまう。
 柚希はブレることなく、今日この場所にやってきた本当の目的を、ハッキリとした言葉で解き放つ。

「あのね。私、小説家になりたいの」

 柚希の口から飛び出した言葉に、その場にいた全員の表情が一斉に凍りついた。その静寂の中には、「それがどうかした?」と事態を飲み込めていないようなポカンとした顔と、「……それって、このグループから抜けるってこと?」と勘繰って不安げに目配せし合う顔が、ちょうど半々のように見えた。
 そして当然、グループの絶対的な中心である小野寺は……後者のほうだった。

「おいおいおい……冗談だろ? そんなの、俺たちの色に合わねぇって。夢を追うとかさぁ、マジで馬鹿らしいだろ」

(こいつら……自分たちのノリを押し付けるときはあんなに熱くなるくせに、他人の熱量にはそうやって見下すのか。本当に浅はかでくだらない連中だな)

 僕はお前たちのその浅はかな生き方を、腹の底から嘲笑っているぞ……と、そんな強烈な殺意を込めた目で小野寺を睨みつけた。けれど、小野寺は柚希の顔を威圧することに夢中で、僕の生意気で挑戦的な視線にすら気づいていない。

「……うん。みんながそう思うのも、当然だよね」

 柚希は小野寺の威圧に怯むことなく、自分の胸にそっと手を当てながら、静かに、けれどしっかりと自分の本音を紡ぎ出していく。

「でもね……私はやっぱり、本が大好きなの。みんなと一緒にいてお喋りしてる時間も楽しいけれど……私、もっと自分自身の人生に、本気になってみたいの」
「……俺らといるときは、本気じゃないっていうのかよ?」
「そうは言ってないよ。そうじゃなくて……もっと自分のために、時間を使いたいってこと」

 それは、遠回しにこのグループから距離を置くという宣言に他ならなかった。いくら頭の弱い小野寺であっても、それくらいの意図は察したようだ。
 小野寺は他のメンバーたちをぐるりと見回すと、どこか白けたように、もうどうでもいいと匙を投げる大きなため息を吐き捨てた。

「……柚希はもっと、賢いやつだと思ってたんだけどな。俺たちといたほうが、絶対に楽しくて派手な学校生活を送れるのにさ」

(何だよ、そのみっともない負け惜しみは。本当はグループに柚希がいたほうが、自分たちの見栄えがより綺麗になって、都合がいいから引き留めたいだけだろ)

「まあいいや。じゃあせいぜい、一人で地味に頑張れば?」
「……うん。ありがとう」

 小野寺は鼻で笑うように柚希を一瞥し、ポケットに手を突っ込んだまま後ろを振り返った。そのまま偉そうに歩き出すと、他のメンバーたちも小野寺の背中を追うように、金魚のフンのようについていく。
 誰一人として、柚希のほうを振り返ったり気にするような素振りをみせる者はいなかった。

(……やっぱり、所詮はその程度のうわべだけの関係だったか)

 柚希はしばらく、その場に立ち尽くしていた。スクールカーストの頂点に君臨していた集団からの決別……それはきっと、柚希にとって想像を絶するほどのエネルギーと、勇気を消費する行為だったはずだ。
 冷たい秋風が吹き抜け、柚希の長い髪をふわりと揺らす。すると柚希は我に返ったように小さく首を振ると、どこか清々しく、不敵な笑みを浮かべて僕の顔を見た。

「……ごめんね。場所、変えよっか」