昭和の風情が残る団地
コンクリートの階段を登った先
味気ないグレーのスチールドア
薄汚れた丸い銀色のドアノブを
右手でガチャガチャと回す女性がいる
「開かない」
鍵穴のないドアノブ
念の為ドア本体を隅から隅まで
確認するがドアノブが付いていること以外
つるっとしていて何もない
女性は再びドアノブを握り
ガチャガチャ回しながら
押したり引いたりしている
「やっぱり開かない」
どれぐらいの時間
そこにいるのか
なぜそこにいるのか
わからない
ハッキリしているのは
味気ないグレーのスチールドアと
それを開けようとしている女性だけだ
下から階段を登る足音
ダンボール箱の荷物を持った
配達員の男性
女性に当たらないよう
避けるように通り過ぎ
階段を登っていく
開かないドアの前で考え込む
「どうしたものか」
上から階段を降りる足音が
近づいてくる
配達を終えた先程の配達員
「そこ、開かないですよ」
通り過ぎ様に呟くと
こちらの返事も聞かぬまま
足早に階段を降りていった
「知ってるっつうの」
だから気になるのだ
階段の踊り場から照らす太陽
日陰が少し動いている
「…よし」
何か思いついた様子の女性は
ドアから少し離れた
かと思ったら助走をつけ
ドンッ
と体当たりをする
ドアは女性を跳ね返すだけ
「もう一回」
ドンッ
「いってぇ…」
ビクともしないドア
肩をさする女性
「やっぱり開かないか」
上の階からガチャンと
ドアが開く音
タンタンタンタン
誰かが降りてくる
「あれ?先生?」
「おう」
女性を先生と呼ぶ少年
肩をさする先生と呼ばれる女性
「何やってんです?」
「開かないのよ」
「あー、ここ開かないですね」
「ドアノブついてるのに?」
「開かないですね」
「鍵穴とかないじゃない」
「そうですね」
「ピンポンとかないじゃない」
「部屋じゃないんでしょうね」
「気にならない?」
「特には」
「…そう」
「僕行きますね」
タンタンタンタン
少年は階段を駆け降りて行った
「気になるのよ」
だがドアは開けられない
階段の踊り場から照らす太陽は
丁度建物の真上ぐらいにきていた
「ぐぅぅぅぅ」
お腹が鳴る
「食べてる場合じゃないの」
誰に話しかけるわけでもなく呟く女性
ドアに向かって脚を上げて
ガンッ
「開くわけないだろうけど」
蹴られるドア
跳ね返される脚
手がかりはないものかと
辺りをキョロキョロする
そしてまた
ガンッ
「フェイントも駄目よね
わかってるのよ」
タンタンタンタン
下から足音が近づいてくる
タンタンタンタン
階段を登る音
「あれ?先生?」
「おう」
先程とはまた別の少年
「何してるの?」
「ドア」
女性が指差す先には
くっきり足跡がついたドア
「ドア?」
「そ、開かないの」
「はあ…」
「あの子の家に行くの?」
「はい、約束してて」
「さっき出かけて行った」
「ええ?」
…
ドアを見つめる先生と呼ばれる女性
無言でドアの足跡を見る少年
「このドア開けたいんですか?」
「それ以外に何したいように見える?」
「よくわかんないです」
「まあそうよね、ごめん」
少年がドアを見つめる
「あれ?このドア…」
「このドアが何?」
「ドアノブついてますけど」
「けど?」
「横開き…じゃないですか?」
回して、ぶつかって
蹴ってまで開けようとしたドア
「横…開き…」
そもそも開く方向が違うのか
ドアノブに手をかける女性
左方向に力を入れる
ズズズ…
あれほど女性を跳ね返し続けたドアが
音を立てて動いた
さらに力を込めてドアを開けていく
ズズズズズズズズズ…
ドアが開く
「あっ…」
コンクリートの階段を登った先
味気ないグレーのスチールドア
薄汚れた丸い銀色のドアノブを
右手でガチャガチャと回す女性がいる
「開かない」
鍵穴のないドアノブ
念の為ドア本体を隅から隅まで
確認するがドアノブが付いていること以外
つるっとしていて何もない
女性は再びドアノブを握り
ガチャガチャ回しながら
押したり引いたりしている
「やっぱり開かない」
どれぐらいの時間
そこにいるのか
なぜそこにいるのか
わからない
ハッキリしているのは
味気ないグレーのスチールドアと
それを開けようとしている女性だけだ
下から階段を登る足音
ダンボール箱の荷物を持った
配達員の男性
女性に当たらないよう
避けるように通り過ぎ
階段を登っていく
開かないドアの前で考え込む
「どうしたものか」
上から階段を降りる足音が
近づいてくる
配達を終えた先程の配達員
「そこ、開かないですよ」
通り過ぎ様に呟くと
こちらの返事も聞かぬまま
足早に階段を降りていった
「知ってるっつうの」
だから気になるのだ
階段の踊り場から照らす太陽
日陰が少し動いている
「…よし」
何か思いついた様子の女性は
ドアから少し離れた
かと思ったら助走をつけ
ドンッ
と体当たりをする
ドアは女性を跳ね返すだけ
「もう一回」
ドンッ
「いってぇ…」
ビクともしないドア
肩をさする女性
「やっぱり開かないか」
上の階からガチャンと
ドアが開く音
タンタンタンタン
誰かが降りてくる
「あれ?先生?」
「おう」
女性を先生と呼ぶ少年
肩をさする先生と呼ばれる女性
「何やってんです?」
「開かないのよ」
「あー、ここ開かないですね」
「ドアノブついてるのに?」
「開かないですね」
「鍵穴とかないじゃない」
「そうですね」
「ピンポンとかないじゃない」
「部屋じゃないんでしょうね」
「気にならない?」
「特には」
「…そう」
「僕行きますね」
タンタンタンタン
少年は階段を駆け降りて行った
「気になるのよ」
だがドアは開けられない
階段の踊り場から照らす太陽は
丁度建物の真上ぐらいにきていた
「ぐぅぅぅぅ」
お腹が鳴る
「食べてる場合じゃないの」
誰に話しかけるわけでもなく呟く女性
ドアに向かって脚を上げて
ガンッ
「開くわけないだろうけど」
蹴られるドア
跳ね返される脚
手がかりはないものかと
辺りをキョロキョロする
そしてまた
ガンッ
「フェイントも駄目よね
わかってるのよ」
タンタンタンタン
下から足音が近づいてくる
タンタンタンタン
階段を登る音
「あれ?先生?」
「おう」
先程とはまた別の少年
「何してるの?」
「ドア」
女性が指差す先には
くっきり足跡がついたドア
「ドア?」
「そ、開かないの」
「はあ…」
「あの子の家に行くの?」
「はい、約束してて」
「さっき出かけて行った」
「ええ?」
…
ドアを見つめる先生と呼ばれる女性
無言でドアの足跡を見る少年
「このドア開けたいんですか?」
「それ以外に何したいように見える?」
「よくわかんないです」
「まあそうよね、ごめん」
少年がドアを見つめる
「あれ?このドア…」
「このドアが何?」
「ドアノブついてますけど」
「けど?」
「横開き…じゃないですか?」
回して、ぶつかって
蹴ってまで開けようとしたドア
「横…開き…」
そもそも開く方向が違うのか
ドアノブに手をかける女性
左方向に力を入れる
ズズズ…
あれほど女性を跳ね返し続けたドアが
音を立てて動いた
さらに力を込めてドアを開けていく
ズズズズズズズズズ…
ドアが開く
「あっ…」

