土曜日の朝、予定通りにレオの所属するサッカー部は他校との試合になった。
試合会場は近所のスポーツセンターで、グラウンドを対戦校と折半で借りるんだって。そういうわけで、高校の練習試合にしては結構立派な会場で試合が開催されることになった。
会場にはレオ応援隊というか、謎のチアガールやら制服姿の女子がひしめいている。いたずらに相手の闘争心を煽るんじゃないかってちょっとは心配している。
グラウンドの脇には観客用の席があるので、レオの応援部隊からは距離を取ったところに座る。妙なきっかけで目をつけられても困るから。
彼女たちに見つからないよう、スマホの画面をそっと見る。そこにはレオからのLINEメッセージが映っていた。
――この試合でハットトリックを決めてやるから、それが出来たら付き合ってくれ。
起きたらメッセージが届いていた。寝ぼけていたせいで、既読だけ付けて何も返せていない。
「なんだよ、もう」
思わずため息が出る。どうしてよりにもよってこの試合なのか。
今さら「ミクちゃんが今日あなたに告白するんだけど」とも言えず、ミクちゃんにこのメッセージの存在を伝えることも出来ず、朝から胃が重い。体調不良で休んでしまいたかったけど、根がマジメなせいかそういうことが出来なかった。
「リホちゃん、コーラ買って来たけど飲む?」
不意打ちで話しかけられて心臓が止まりかける。慌ててスマホの画面を閉じると、嫌な汗を出しながら「ありがとう」とコーラを受け取った。ミクちゃんと一緒に飲みながら試合開始を待つ。
「今日の相手って強いのかな?」
「分かんない。レオは勝つ気満々だったけど」
でないとハットトリック宣言なんてしないだろう。
それにしてもサッカーで三点も入ることってそんなにあるか? ムリゲーにも見える目標を定めているあたり、レオからすれば楽勝で勝てる相手みたいだった。
「ああ、ドキドキするなあ。レオ君のこと、ちゃんと見られるかなぁ」
それは試合前の話なのだろうか、それとも試合後の告白を言っているのか。どちらにしても、あたしにとっては気が気じゃない。
やっぱり男女が三人も集まるとずっと仲のいい友達ってわけにはいかないものなのだろうか。ちょっとした休み時間のやり取りも、この前の肝試しについてもすごく大切な時間を過ごしていたのだと思う。
それでも物事というのは移り変わっていく。これが大人になっていくってことなのかな。
ふいに女子が「ギャー」って騒ぎだしたので見ると、両校の選手たちが控え室から出てきたところだった。グラウンドに出たレオはいつものおちゃらけた感じがなくて、純粋にカッコ良く見えた。これがアスリートの顔か。
両校の選手たちはグラウンドの片面ずつを使ってウォーミングアップをしていく。ドリブルで駆けたり、シュートの練習を慣れた感じで繰り返す。
槍みたいに鋭いシュートを決めたレオがあたし達を見つける。こっちを指さして、指を三本立てた。例のハットトリック宣言のことを言っているのだろう。
「あれ、どういう意味?」
「さあ。三点取るってことじゃないの?」
困惑するミクちゃんを適当にはぐらかす。LINEのことについては死んでも知られてはいけない。あたしのせいじゃないけど。この後にミクちゃんの告白が控えていることを考えると憂鬱になる。
ウォーミングアップが終わると、本格的に練習試合が始まる。ホイッスルが鳴るとともに、レオは前へと駆けだした。
「でも、そんな簡単に三点なんて取れないよね」
自分に言い聞かせるように呟くと、フォワードの選手が次々とパスを繋いでいく。Σにも見える軌道で素早く繋がれたパスは、瞬く間にゴールへとその距離を詰めていく。
えっ? えっ? えっ? えっ?
選手以上に圧倒されるあたし。何が起こっているのか分からない。奇襲にも見える速攻で繋がれたパスは、前へと駆け上がってきていたレオのもとへ吸い寄せられていく。
刹那、弾丸のようなスピードで放たれたシュートがゴールネットを揺らす。
驚きと歓喜、そして悲鳴がグラウンドの周囲でこだまする。
ゴールを決めたレオが興奮気味にグラウンドを走り回る。空に向かって指を一本立てる彼は、一瞬だけあたし達のいる方を見た。
「きゃあ、すごいすごいすごーい!」
「嘘でしょう」
子供みたいに喜ぶミクちゃんの隣で、あたしは呆然とする。
――こいつ、ガチでハットトリックを決めるつもりかもしれない。
この試合後に待っている運命を思うと、胃が重たくなってくる気がした。
試合会場は近所のスポーツセンターで、グラウンドを対戦校と折半で借りるんだって。そういうわけで、高校の練習試合にしては結構立派な会場で試合が開催されることになった。
会場にはレオ応援隊というか、謎のチアガールやら制服姿の女子がひしめいている。いたずらに相手の闘争心を煽るんじゃないかってちょっとは心配している。
グラウンドの脇には観客用の席があるので、レオの応援部隊からは距離を取ったところに座る。妙なきっかけで目をつけられても困るから。
彼女たちに見つからないよう、スマホの画面をそっと見る。そこにはレオからのLINEメッセージが映っていた。
――この試合でハットトリックを決めてやるから、それが出来たら付き合ってくれ。
起きたらメッセージが届いていた。寝ぼけていたせいで、既読だけ付けて何も返せていない。
「なんだよ、もう」
思わずため息が出る。どうしてよりにもよってこの試合なのか。
今さら「ミクちゃんが今日あなたに告白するんだけど」とも言えず、ミクちゃんにこのメッセージの存在を伝えることも出来ず、朝から胃が重い。体調不良で休んでしまいたかったけど、根がマジメなせいかそういうことが出来なかった。
「リホちゃん、コーラ買って来たけど飲む?」
不意打ちで話しかけられて心臓が止まりかける。慌ててスマホの画面を閉じると、嫌な汗を出しながら「ありがとう」とコーラを受け取った。ミクちゃんと一緒に飲みながら試合開始を待つ。
「今日の相手って強いのかな?」
「分かんない。レオは勝つ気満々だったけど」
でないとハットトリック宣言なんてしないだろう。
それにしてもサッカーで三点も入ることってそんなにあるか? ムリゲーにも見える目標を定めているあたり、レオからすれば楽勝で勝てる相手みたいだった。
「ああ、ドキドキするなあ。レオ君のこと、ちゃんと見られるかなぁ」
それは試合前の話なのだろうか、それとも試合後の告白を言っているのか。どちらにしても、あたしにとっては気が気じゃない。
やっぱり男女が三人も集まるとずっと仲のいい友達ってわけにはいかないものなのだろうか。ちょっとした休み時間のやり取りも、この前の肝試しについてもすごく大切な時間を過ごしていたのだと思う。
それでも物事というのは移り変わっていく。これが大人になっていくってことなのかな。
ふいに女子が「ギャー」って騒ぎだしたので見ると、両校の選手たちが控え室から出てきたところだった。グラウンドに出たレオはいつものおちゃらけた感じがなくて、純粋にカッコ良く見えた。これがアスリートの顔か。
両校の選手たちはグラウンドの片面ずつを使ってウォーミングアップをしていく。ドリブルで駆けたり、シュートの練習を慣れた感じで繰り返す。
槍みたいに鋭いシュートを決めたレオがあたし達を見つける。こっちを指さして、指を三本立てた。例のハットトリック宣言のことを言っているのだろう。
「あれ、どういう意味?」
「さあ。三点取るってことじゃないの?」
困惑するミクちゃんを適当にはぐらかす。LINEのことについては死んでも知られてはいけない。あたしのせいじゃないけど。この後にミクちゃんの告白が控えていることを考えると憂鬱になる。
ウォーミングアップが終わると、本格的に練習試合が始まる。ホイッスルが鳴るとともに、レオは前へと駆けだした。
「でも、そんな簡単に三点なんて取れないよね」
自分に言い聞かせるように呟くと、フォワードの選手が次々とパスを繋いでいく。Σにも見える軌道で素早く繋がれたパスは、瞬く間にゴールへとその距離を詰めていく。
えっ? えっ? えっ? えっ?
選手以上に圧倒されるあたし。何が起こっているのか分からない。奇襲にも見える速攻で繋がれたパスは、前へと駆け上がってきていたレオのもとへ吸い寄せられていく。
刹那、弾丸のようなスピードで放たれたシュートがゴールネットを揺らす。
驚きと歓喜、そして悲鳴がグラウンドの周囲でこだまする。
ゴールを決めたレオが興奮気味にグラウンドを走り回る。空に向かって指を一本立てる彼は、一瞬だけあたし達のいる方を見た。
「きゃあ、すごいすごいすごーい!」
「嘘でしょう」
子供みたいに喜ぶミクちゃんの隣で、あたしは呆然とする。
――こいつ、ガチでハットトリックを決めるつもりかもしれない。
この試合後に待っている運命を思うと、胃が重たくなってくる気がした。



