学校の休み時間。空は雲一つなく、爽やかな青に浮かんだ白い月が綺麗だった。
昨日の作戦会議が終わってから、とりあえずSNSのアカウントで心霊スポットっぽい話を流しておいた。信憑性を上げるためにいくつかアカウントを作ったけど、やり過ぎちゃうと逆に嘘くさくなってしまうからバランスが難しいところだ。
場所は近所の地味な神社で、墓地にしなかったのはガチの心霊スポットを偶然にでも引き当てないためだ。
幽霊はいないって言いたいところだけど、もしかしたらいるかもしれない。本物がいても恋の作戦においては不要な存在なので、ベストなロケーションとしてはある程度不気味でありながら、絶対に本物の幽霊は出てこない場所になる。
近隣の地図を見ながらそれっぽい場所を探して、見つかったのが今回のスポットに選ばれた神社だった。実際に言ってみたらいかにも幸薄い感じで、ご利益がありそうというよりは悪いことをしたらバチが当たりそうな感じがした。誰かが行ったっていう話も聞いたことがないし、選ぶならここしかないなって感じで肝試しの場所に選んだ。
名前も知らないあの神社は近くに川があって、柳の木もあるから夜風に吹かれたら結構不気味だろうと思う。ついでに言うと山奥にあるわけでもないから万が一ガチの幽霊に遭っても走って逃げることは出来る……はず。
それにしても吊り橋効果か。ミクちゃんも考えたよね。作戦がハマったらミクちゃんとレオはあっさりと付き合うのだろうか。なんか複雑かも。
でも、考えてみたらその吊り橋効果って、あたしがその場にいたらあたしの側にも利益がある可能性が存在するってことだよね……。
そう考えると、あたしの方にもチャンスが来ているのかも。なんだかやる気が出てきたぞ。
さて、あとは噂を育てて、いわくありげな感じに仕立て上げないと……。
「よう、空なんか見つめてどうしたんだよ?」
「うわ!」
いきなり話しかけられたので、あたしは死ぬほどビックリする。悪だくみをしている時に話しかけるのはやめてほしいと思う。
振り向いた先には当のレオが笑っていた。あたしがビックリしたのがよっぽどおかしかったのか、ゲラゲラ笑っている。
アクティブショートの黒髪に整った眉、いつもキメ顔みたいになる切れ長の目は数多の女子たちを一瞥で恋に落としてきた。これで中身がおちゃらけてなければ満点なんだけど。
「ちょっと、ビックリするじゃんよ」
「悪い悪い、なんか深刻そうな顔で空を見ていたからさ、メンタル大丈夫かなって思ってよ」
周囲から「ふふ」っと含み笑いが漏れる。あたしはいい見せ物になっているみたいだった。
「別に心配することじゃないよ。月が見えるな~ってボーっとしていただけだからさ」
「そうか、結構風流なところがあるんだな」
「風流って、そんな高尚なところがあたしにあると思う?」
「ないな」
「ないのかよ」
ツッコむとまたレオはゲラゲラと笑った。男のくせに箸が転がってもおかしい年頃なんだろうか。
「で、何の用なの。あたしは空に浮かんだ月を眺めるので忙しいんだけど」
「おい、もうちょっと別の理由があるだろうよ。俺は昼間の月以下かよ」
何がそんなにおかしいのか分からないけど、レオはまた腹を抱えて笑う。笑いが収まってから本題に入った。
「いや、それでよ、今度また試合があるんだけどさ」
レオの言う試合はサッカーのことだ。また派手にオバーヘッドでもキメる気なのか。あたしなんかのところに来ないで、他の女子も誘ったら来るだろうに。モテるんだから。
どれ、ちょっとからかってやろうか。
「うん、あたしが見に行くととってもやる気が出るから来てほしいと。そういうこと?」
「そうだよ」
「んっ」
教室がふいに静かになる。遅れてニヤニヤとした視線が周囲から注がれる。うわ、これってあたしの嫌いな空気だ。
なんだかあたしがレオに口説かれているみたいじゃない。それは困る。レオにはミクちゃんとくっついてもらわないといけないのに。
場の雰囲気っていうのは怖い。実はお互いそうでもなかったけど、周囲がくっつけようとすると付き合う男女っていうのはたしかにいる。周りが面白がってあたしとレオをくっつけると、色々とややこしいことになる。
ふと視線を感じて教室の出入口を見ると、ミクちゃんが呆然と立ち尽くしていた。切ない目。それを見ただけで胸がぎゅっと苦しくなる。
やめて、これは違うの。そう言いたいけど、ここで本音をブチ撒けるわけにもいかず
……。
「ああ、いいよ。それならミクちゃんと応援に行くからさ。ね、いいよね?」
「え? あ、うん……」
強引にミクちゃんをこっち側へ引き込む。女子があたし一人だけで応援だったら色々と罰ゲーム過ぎる。ミクちゃん以外の女子からもきっと怨まれるだろう。そんな展開はどうしても避けたかった。
どうしよう、せっかく肝試しに呼び込む作戦を狙っていたのに。これじゃあ作戦が台無しじゃない。
そんなことを思いかけて、ふいに閃きが舞い降りる。あたし、やっぱり天才かもしれない。
「あ、応援に行くのはいいんだけどさ、こっちも一個条件を出してもいいかな?」
「条件って何だよ」
「今度さ、ミクちゃんと二人で肝試しに行く予定だったんだけどさ、女子二人だけだとどうしても怖いってミクちゃんが言うから、それなら男子が一人ほしいって話になってたんだよね。だからレオが来てくれない?」
「なんだよそれ、女二人で肝試しなんかするのか?」
「うん、SNSで急に出てきたスポットがあってさ、近場だから行ってみようかって話になったの」
「心霊スポットをスタバみたいに言うなよ」
「別にいいでしょ。高校生らしい夏の思い出作りなんだからさ」
考えるよりも先に舌が回る。今日のあたし、絶好調みたい。
間違っても他の男子は立候補してくるなよと圧をかけながら、アドリブでレオを誘い込むことにした。
ちょっとミクちゃんをダシにしたところはあるけど、あたしが怖いからって言ってもきっと説得力がないだろう、うん。だから怖がりのミクちゃんと、どうしても肝試しにいきたいあたしっていう構図を作った方が本当っぽくなる。即興で考えたにしてはいい感じの設定だ。
「まあ、ちょっとぐらいならいいよ。それぐらいなら付き合うさ」
「本当に⁉」
思わず驚いて喜ぶ乙女みたいなリアクションをしてしまい、ちょっと恥ずかしくなる。周囲からは相変わらずニヤニヤとした視線が来るし。やっちゃった。また見せ物だ。
気を取り直して咳払いをする。
「じゃあ、とりあえず日程は後で調整しよ」
「分かった。こっちも試合の日程はLINEで送るよ」
そんな感じであっという間に約束は決まった。
他の男子がふざけてレオにハイタッチを求めている。その間にあたしもミクちゃんに向かって親指を立てた。レオとお互いの意図は違うものの、作戦は順調に進んでいる。
さあて、後は肝試しの内容とどんな仕掛けを用意するかだ。思ってるより時間はなさそうだから、さっさと動くことにしておこう。
昨日の作戦会議が終わってから、とりあえずSNSのアカウントで心霊スポットっぽい話を流しておいた。信憑性を上げるためにいくつかアカウントを作ったけど、やり過ぎちゃうと逆に嘘くさくなってしまうからバランスが難しいところだ。
場所は近所の地味な神社で、墓地にしなかったのはガチの心霊スポットを偶然にでも引き当てないためだ。
幽霊はいないって言いたいところだけど、もしかしたらいるかもしれない。本物がいても恋の作戦においては不要な存在なので、ベストなロケーションとしてはある程度不気味でありながら、絶対に本物の幽霊は出てこない場所になる。
近隣の地図を見ながらそれっぽい場所を探して、見つかったのが今回のスポットに選ばれた神社だった。実際に言ってみたらいかにも幸薄い感じで、ご利益がありそうというよりは悪いことをしたらバチが当たりそうな感じがした。誰かが行ったっていう話も聞いたことがないし、選ぶならここしかないなって感じで肝試しの場所に選んだ。
名前も知らないあの神社は近くに川があって、柳の木もあるから夜風に吹かれたら結構不気味だろうと思う。ついでに言うと山奥にあるわけでもないから万が一ガチの幽霊に遭っても走って逃げることは出来る……はず。
それにしても吊り橋効果か。ミクちゃんも考えたよね。作戦がハマったらミクちゃんとレオはあっさりと付き合うのだろうか。なんか複雑かも。
でも、考えてみたらその吊り橋効果って、あたしがその場にいたらあたしの側にも利益がある可能性が存在するってことだよね……。
そう考えると、あたしの方にもチャンスが来ているのかも。なんだかやる気が出てきたぞ。
さて、あとは噂を育てて、いわくありげな感じに仕立て上げないと……。
「よう、空なんか見つめてどうしたんだよ?」
「うわ!」
いきなり話しかけられたので、あたしは死ぬほどビックリする。悪だくみをしている時に話しかけるのはやめてほしいと思う。
振り向いた先には当のレオが笑っていた。あたしがビックリしたのがよっぽどおかしかったのか、ゲラゲラ笑っている。
アクティブショートの黒髪に整った眉、いつもキメ顔みたいになる切れ長の目は数多の女子たちを一瞥で恋に落としてきた。これで中身がおちゃらけてなければ満点なんだけど。
「ちょっと、ビックリするじゃんよ」
「悪い悪い、なんか深刻そうな顔で空を見ていたからさ、メンタル大丈夫かなって思ってよ」
周囲から「ふふ」っと含み笑いが漏れる。あたしはいい見せ物になっているみたいだった。
「別に心配することじゃないよ。月が見えるな~ってボーっとしていただけだからさ」
「そうか、結構風流なところがあるんだな」
「風流って、そんな高尚なところがあたしにあると思う?」
「ないな」
「ないのかよ」
ツッコむとまたレオはゲラゲラと笑った。男のくせに箸が転がってもおかしい年頃なんだろうか。
「で、何の用なの。あたしは空に浮かんだ月を眺めるので忙しいんだけど」
「おい、もうちょっと別の理由があるだろうよ。俺は昼間の月以下かよ」
何がそんなにおかしいのか分からないけど、レオはまた腹を抱えて笑う。笑いが収まってから本題に入った。
「いや、それでよ、今度また試合があるんだけどさ」
レオの言う試合はサッカーのことだ。また派手にオバーヘッドでもキメる気なのか。あたしなんかのところに来ないで、他の女子も誘ったら来るだろうに。モテるんだから。
どれ、ちょっとからかってやろうか。
「うん、あたしが見に行くととってもやる気が出るから来てほしいと。そういうこと?」
「そうだよ」
「んっ」
教室がふいに静かになる。遅れてニヤニヤとした視線が周囲から注がれる。うわ、これってあたしの嫌いな空気だ。
なんだかあたしがレオに口説かれているみたいじゃない。それは困る。レオにはミクちゃんとくっついてもらわないといけないのに。
場の雰囲気っていうのは怖い。実はお互いそうでもなかったけど、周囲がくっつけようとすると付き合う男女っていうのはたしかにいる。周りが面白がってあたしとレオをくっつけると、色々とややこしいことになる。
ふと視線を感じて教室の出入口を見ると、ミクちゃんが呆然と立ち尽くしていた。切ない目。それを見ただけで胸がぎゅっと苦しくなる。
やめて、これは違うの。そう言いたいけど、ここで本音をブチ撒けるわけにもいかず
……。
「ああ、いいよ。それならミクちゃんと応援に行くからさ。ね、いいよね?」
「え? あ、うん……」
強引にミクちゃんをこっち側へ引き込む。女子があたし一人だけで応援だったら色々と罰ゲーム過ぎる。ミクちゃん以外の女子からもきっと怨まれるだろう。そんな展開はどうしても避けたかった。
どうしよう、せっかく肝試しに呼び込む作戦を狙っていたのに。これじゃあ作戦が台無しじゃない。
そんなことを思いかけて、ふいに閃きが舞い降りる。あたし、やっぱり天才かもしれない。
「あ、応援に行くのはいいんだけどさ、こっちも一個条件を出してもいいかな?」
「条件って何だよ」
「今度さ、ミクちゃんと二人で肝試しに行く予定だったんだけどさ、女子二人だけだとどうしても怖いってミクちゃんが言うから、それなら男子が一人ほしいって話になってたんだよね。だからレオが来てくれない?」
「なんだよそれ、女二人で肝試しなんかするのか?」
「うん、SNSで急に出てきたスポットがあってさ、近場だから行ってみようかって話になったの」
「心霊スポットをスタバみたいに言うなよ」
「別にいいでしょ。高校生らしい夏の思い出作りなんだからさ」
考えるよりも先に舌が回る。今日のあたし、絶好調みたい。
間違っても他の男子は立候補してくるなよと圧をかけながら、アドリブでレオを誘い込むことにした。
ちょっとミクちゃんをダシにしたところはあるけど、あたしが怖いからって言ってもきっと説得力がないだろう、うん。だから怖がりのミクちゃんと、どうしても肝試しにいきたいあたしっていう構図を作った方が本当っぽくなる。即興で考えたにしてはいい感じの設定だ。
「まあ、ちょっとぐらいならいいよ。それぐらいなら付き合うさ」
「本当に⁉」
思わず驚いて喜ぶ乙女みたいなリアクションをしてしまい、ちょっと恥ずかしくなる。周囲からは相変わらずニヤニヤとした視線が来るし。やっちゃった。また見せ物だ。
気を取り直して咳払いをする。
「じゃあ、とりあえず日程は後で調整しよ」
「分かった。こっちも試合の日程はLINEで送るよ」
そんな感じであっという間に約束は決まった。
他の男子がふざけてレオにハイタッチを求めている。その間にあたしもミクちゃんに向かって親指を立てた。レオとお互いの意図は違うものの、作戦は順調に進んでいる。
さあて、後は肝試しの内容とどんな仕掛けを用意するかだ。思ってるより時間はなさそうだから、さっさと動くことにしておこう。



